決着 第三話




 脅威のジャミングウェーブを備えた改造ジェノザウラー『ブラスジェノサイド』と、そのジャミングを無効化する装備を持った改造ライガーゼロ『ライガーゼロ・アンフィニ』。このゾイド達の初陣は熾烈なものとなった。互いに紙一重でかわす中、ついに相手を捉えた攻撃があった。

「ぐああああぁ!!」

 集束荷電粒子砲と見せかけて火炎放射器を当てたジェノは、その攻撃に思わず反射し飛び退いてしまったゼロに追い討ちをかけた。ハイブリッドキャノンという、重い一撃を。その巨砲から放たれたものはゼロの後ろ足の片方と腰を貫き、ライガーの要である機動力を奪い取っていた。

「ふう・・・」

 ジェノのコクピットの中で、デュランは思わず安堵の息を漏らした。今では優勢となったが、目の前のゼロには随分と胆を冷やされた。武装過多のこのジェノと違い、あくまでライガーの本分である機動力と格闘戦を特化したこのゼロの動きは見事なものであった。戦闘開始直後こそその性能に引っ張られているような印象を持ったが、パイロットはすぐに機体の特性を引き出した。

 戦いの中でコツを掴んだ、とデュランは感じた。乗機との絆、自分達には無い物がそうさせたのだと。正直、羨ましい。

「だがこれまで!」

 ジェノが爪を振り上げる。狙うはコクピット。できればこの機体は持ち帰りたい。そして早々にこの戦いに決着をつけ、味方を救わねばならない。彼はまだ、自軍が決定的に負けたとは思っていなかった。ゲイオスの元で負ける筈が無い、と。自分の気持ちを再確認し、ジェノの爪を勢い良く振り下ろす。

 その爪を、コクピットの真上で受け止めるゼロの爪。強化パーツとして装備された3本の爪が金色に輝き、ジェノの爪を押し戻さんとする。しかし体勢が悪く、自身の力を生かせないゼロ。下半身の傷も深く、力負けしてゆっくりとジェノに押されていく。最後の悪あがきと言った所か。

 ここでジェノはもう片方の爪を閃かせる。まだ必死の抵抗を続けるゼロの前脚を斬り付け、邪魔な爪が退いた所でもう一度コクピットを狙う。

「うああ!」

 突如、絶叫と痛みが頭を響く。腕が痛むかのようだ。コクピットを狙った爪は、振り下ろすよりも早く押しとどめられてしまった。ゼロの頬から伸びるレーザーブレードが、シュナイダーのそれのように前方に展開され、ジェノの腕を突き刺したのだ。ゼロの傷付いた前脚が見る見る修復されてゆく事にデュランは気付いた。究極野生体である上に、ゾイドコアが限界近くまで活性化している証だ。ゼロとそのパイロットはまだ、諦めてはいない。

 それなら確実に止めを刺す。ゼロを踏み付けてブレードを引き抜き、姿勢を低くして再びハイブリッドキャノンを向ける。避けられはしない。踏まれたままの頭を持ち上げようとするゼロの背中に、照準を合わせる。

「待ってたんだよ!」

 またもや聞こえる、歓喜を含んだ声。デュランは見た。狙っていた背中のブースターの噴射口がこちらを向く所を。その噴射口の上には、二つの銃口が並んでいた。撃たれる。そう気付いた時にはもうジェノに衝撃が走っていた。その衝撃で僅かな時間、デュランは怯む。

「うおおおお―――――!!」

 身動きの取れないゼロの腰から次々にミサイルが発射される。二つの銃口からも、冷却無しのビームの連射。防御体勢を取る暇も無い速さ。武装が次々に破壊されていく。ビームの連続照射に耐えかねた装甲も使い物にならなくなり、はじけ飛ぶ。

 ミサイルの残弾が無くなりビーム砲が爆発する頃には、ジェノはその場に倒れこんでいた。武装は跡形も無く破壊され、本体も五体満足ではない。わざと避けていなければコクピットも無事では無かっただろう。

「ふぃ〜〜〜。何とかなったな、アンフィニ」

 グゥゥ、と小さく鳴くゼロ。本当はこの勝利の喜びを雄叫びで表したいのだが、如何せん身体がボロボロで立ち上がる事もできないため、控えめに鳴くだけにした。

 一安心したゼロとデューク。しかし彼らに余韻に浸る暇は無かった。

「ライガーゼロのパイロット。ゾイドを降りなさい」

 外部スピーカーを使って呼び掛ける声。それは、いつの間にかゼロのすぐ傍に寄って来たライトニングサイクスから発せられていた。コクピットにロックオンされたという警告アラームが鳴り響く。



「ぐっ!」

「がふっ!」

 ガイアの拳がゲイオスの腹に鋭く突き刺さるが、その痛みに耐えゲイオスも拳を突き出す。互いにダメージが積み重なるが、動きはそれを感じさせない。ゾイドでは着かなかった二人の男の勝負の決着。互いにこの瞬間を待ち続けたのだ。自分が勝つか、それとも負けるか。ただ純粋に、戦いたいと思っていた。

「こんの・・・」

 ガイアがゲイオスの顔を蹴り上げる。これもガードされずにヒットする。よろめくゲイオスだが、その顔はすぐにガイアに向き直る。あれだけ待ちわびた戦いだ。この程度で倒れはしない。

「まだまだ!」

 叫びと同時に口から吐き出された血など気にせずに、再度ガイアに殴りかかろうとするゲイオス。しかしその時地面が揺れ、同時に彼の目線がガイアよりも高い所へ向けられた。更にゲイオスはガイアの横を走り過ぎ、両腕を広げて身を挺してガイアを守るような格好をした。何事かとガイアが目を向けるとライガーゼロ・パンツァーがそこに居た。全く気付かなかった。ゲイオスとの戦いに夢中になり過ぎていたのだ。背筋に冷たいものを感じ、今更補うかのように回りを見回すガイア。

「待て!こいつは俺が倒す!手を出すな!!」

「いえ、隊長。報告致します。我が部隊の損害は激しく、既に皆も戦意を失いつつあります」

「そうか・・・・・・もう頃合だろう。撤退もしくは投降をしろ、と全員に呼びかけろ。どちらを選ぶかは各自に任せる」

 ゲイオスは自分が後ろから襲う事など無いと信じきっているようで、こちらに背を向け続けている。パンツァーへの指示は適切だ。それに投降を提案しているという事は、自分達を信頼してくれているという事だろうか。ガイアが少々の安堵を感じた時、それを打ち消す悪寒に襲われた。その主が分かっていたかのように前方を見る。ゲイオスの部下らしきパンツァーの遙か後方、崖に佇む赤い物体を彼は見逃さなかった。

「ゲイオス!危ない!」

 言うと同時に走り出し、ゲイオスを抱きかかえて横に跳んだ。確信があったわけじゃない、直感が彼にそうしろと告げたのだ。長年の間に軍、そして戦場で培(つちか)ってきた勘とでも言うべきもの。自身のその感覚に、ガイアとゲイオスは救われた。しかし、パンツァーのパイロットまでは救われなかった。

 ゲイオスには一瞬、目の前の出来事が信じられなかった。部下に指示を出すため背中を見せているこの状況では襲ってくる筈が無いと思っていたガイアが、自分を抱きかかえてその場から退かせたのだ。その瞬間は、彼の意図が分からないだけだった。しかしその次の瞬間に限って言えば、彼の目の前で何が起こったのかも分からなかった。一筋の光が目の前のパンツァーに覆い被さり、コクピットを消失させていたのだ。

「・・・フランク!!」

「カスタムU!起きてたらEシールドを張れ!最大出力!」

 二人は同時に、ビームが放たれた方角に目をやった。赤いゾイドが見える。その後ろには銀色のゾイド、そしてその上空に大きな黒いゾイドと小ぶりな赤いゾイドが浮いていた。

「おいゲイオス!あれは増援なのか!?」

 ガイアが声を張り上げながらゲイオスを問いただす。彼の怒りはもっともだ。たとえ自分を葬る為であっても、味方を巻き添えにしていい筈が無い。ゲイオスも同じ考えだった。普通の友軍ならそこまではしない。それに、そのゾイド達をゲイオスは見たことが無い。

「そんな筈は・・・・・・来るぞ、ガイア!」

 まず空に浮かんでいた赤いゾイドが戦場に飛来した。全身真っ赤なイグアンで、武装強化が施され、プテラスの黒い羽が取り付けられている。二人はそれとよく似たゾイドを知っている。同時に名前を叫ぶ。

『カージナル!!』

 オリジナルは遙か昔、旧中央大陸戦争の初期に目撃されたゾイドだ。カージナルとは、ゼネバス帝国とヘリック共和国の国境にあるバーナム川にかかる橋を、命を賭して守り通したゾイドの名。カージナルが戦った『アルメーヘンの橋争奪戦』は第二次中央大陸戦役の中で最も激しい戦いと伝えられている。まだデスザウラーもロールアウトしていない、ZAC2042年の出来事だ。

 しかし二人の頭上を飛び越えたそのゾイドは、過去のデータよりも遙かに速く、火力もかなり強化されているように見えた。そのカージナルがラグナウイングとゴッドランダーが混ざり合った戦場に、無差別に銃弾をばら撒いた。低空からの突然の攻撃に戸惑い、大多数がその攻撃を受けてしまう。特にゴッドランダーには戦闘での損傷が大きく、その攻撃だけで爆発するゾイドも居た。

 後方に居たため攻撃を受けなかった者の一人・ホークがカージナルに向けてミサイルを放った。機銃を連射し何発かのミサイルを迎撃しながら、カージナルは元居た場所まで後退して行った。

 次に動き出したのは黒いゾイドだった。そのゾイドはまずミサイルを一発だけ発射し、ホークのパンツァーが放ったミサイルを全て相殺した。そしてその場から、不気味に輝く光輪を二つ発射したのだ。その光輪は、被弾し着陸しようとするゴッドランダーのハンマーヘッドを切り裂きながらホークのパンツァーまでの距離を縮めていった。

 ホークもただ見ていたわけではなく、ハイブリッドキャノンを連射して光輪を打ち消そうとしている。しかし矢継ぎ早に浴びせられるハイブリッドキャノンをものともせず、光輪はパンツァーに向かって一直線に向かってきた。ホークは頭を切り替えた。標的は自分だ。打ち消せないのなら、回避するのみ。自分の側に居るケーニッヒ達に退避するよう命じ、パンツァーを跳躍させた。装甲を軽量化した自分のパンツァーなら避けきれる。

「!?」

 二つの光輪は問題無く回避できた。大地に突き刺さった光輪は、先程の強靭さとは裏腹に呆気なく消滅した。過去に交戦した、ギルベイダーのビームスマッシャーとよく似ている。もしこれがビームスマッシャーならば、ネオゼネバスは再びギルベイダーを投入したのか。ホークがそう考えをめぐらせていると、突如彼のパンツァーから脱力感が伝わって来た。彼は驚愕した。回避したと思っていた光輪が、彼の愛機の前脚を切断していたのだ。

「この短時間に連射だと!?」

 平素から冷静でいる彼とは違い、声には動揺が表れていた。先程迎撃していた時には、確かに光輪は二つだけだった。しかし回避してからものの数秒で次の光輪が来たのだ。もしくは、光輪の速度が調節できるという事なのか。

「クッソ、何だよコイツ!」

 ガキン、という金属のぶつかり合う音に導かれて視線を向けると、突出していたブラッドのジェノブレイカーが最後の銀色のゾイドと格闘戦を繰り広げていた。相手はゴドスかアロザウラー並のサイズだが、ジェノブレイカーのエクスブレイカー、チャージングブレード、キラークローと計5つの刃物を受け止めながら、更にジェノブレイカーを押し戻そうとしている。何と強力な武装、そして何というパワーなのか。

「喰らえ!」

 そのままショックガンを発射するジェノブレイカー。しかし目の前の銀色のゾイドはこの密着状態で小型の盾を取り出し、その弾をはじいてしまった。おかしい。これだけ腕があるのは一部の虫型のゾイドだが、体格は全く別のものだ。

「こんのやろぉっ!」

 ジェノブレイカーは渾身の力で銀色のゾイドを突き飛ばすと、瞬間的に荷電粒子砲の発射態勢をとった。パワーをセーブした発射だったが、この程度のサイズならば確実に致命傷となる筈だ。ブラッドは自信を持ってトリガーを引いた。吐き出される荷電粒子。その渦に飲み込まれる銀色のゾイド。やった。ブラッドはそう確信した。

「がはっ・・・・・・」

 やった筈だった。しかし銀色のゾイドは確かに存在し、ジェノブレイカーの腹に腕を突き入れているのだった。それだけの痛みではない。腹の底から焼け石を飲み込んだような熱が伝わってくる。突き入れた腕で、一体何をしているのか。

「ブラッド!やらせるかあああ!!」

 そこに割り込んだのはキースのシュトゥルムフューラーだった。ブースター全開で二機の間にエクスブレイカーを滑り込ませ、銀色のゾイドの腕を切断する。予想に反して抵抗は少なく、腕が斬り落とされたことでジェノブレイカーは何とか開放された。OSが急いで金属細胞を修復していく。

「おらおらおらあぁっ!」

 ブラッドの無事を確認すると、キースは銀色のゾイドにエクスブレイカーの刃で連続突きを仕掛けた。先程の腕が簡単に斬り落とせたことから、防御に関しては貧弱だと考えたのだ。ところが銀色のゾイドはシュトゥルムの突きを弾き、流し、時に受け止め無傷だった。

「キース、上!」

 銀色のゾイドとの戦いに固執していたキースは、頭上から降り注ぐミサイルに気付かなかった。誰かの呼び掛けで何とかアクティブシールドを使って受けることはできたものの、目の前の銀色のゾイドに対し大きな隙を作ってしまった。

「しまっ―――――」

 言うより早く、彼の身体はシートベルトに引っ張られていた。銀色のゾイドの蹴りをもろに受けてしまった。何て威力だ。胸の装甲版など簡単に叩き潰され、胴体にも一瞬えぐり込まれたらしい。ジェノザウラーと同じようにコクピットが胸部にあったなら、勿論死んでいる。だが、そうでなくとも死ぬかも知れない。胴体に強烈な打撃を受け、シュトゥルムのコンバットシステムがフリーズしてしまったのだ。何とか起き上がろうとするが、明らかに動きが鈍い。銀色のゾイドの追撃が迫る。

「やらせねぇ!」

 ジェノブレイカーが再びショックガンを放つ。その弾は先程と同じ盾に弾かれ、銀色のゾイドは標的をジェノブレイカーに変更した。地面の一蹴りでシュトゥルムを跳び越えてジェノブレイカーに向けて突進する。

「来やがれこの野郎!」

 ジェノブレイカーもスラスターを点火し、銀色のゾイドとの間合いを一気に詰めていく。エクスブレイカーが閃く。銀色のゾイドは一定のリズムで地面を蹴ってジェノブレイカーの後ろを取る。しかし後ろだと思っていた場所は、ジェノブレイカーの正面だった。

「おぉりゃあああ!」

 ジェノブレイカーの尾が唸りを上げて銀色のゾイドに迫る。当たった。ジェノブレイカーの尾をまともに喰らった銀色のゾイドは大きな音を立てて破裂した。

「!?」

 ブラッドが捉えたと思っていたのは、実はダミーでしか無かった。まさか先程荷電粒子砲をかわしたのも、このダミーを使ったのか。それに気付いた時、既に勝敗は決していた。先程ジェノブレイカーの武器を受け止めていた刃物が、ジェノブレイカーの脚部関節に刺さっていたのだ。悲鳴を上げるジェノブレイカー。ブラッドにも足を刺されたような痛みに襲われる。その痛みで歪んだ視界に、また違う刃物が飛び込んできた。コクピットへの直撃コースだ。

「おああああああっ!!!」

 ブラッドは絶叫する。しかし刃はコクピットに突き刺さること無く止まった。まるで彼の叫びが届いたかのようであった。銀色のゾイドは先程までの激しい戦闘など無かったかのように、ジェノブレイカーとシュトゥルムに背を向けて走り出した。そして仲間らしき黒い飛行ゾイドに抱きかかえられ、最初に砲撃をした赤いゾイドの傍らに着地した。

「あ、あれは・・・・・・」

 声の主はレベッカである。その声は震えている。彼女の脳裏にあの時の出来事が甦る。あの、たった一機のゾイドにやられた時の事を。

 赤いゾイドの後ろにいつの間にか白いゾイドが佇んでいた。遠過ぎて良く見えないが、パイロットからの闘気は刺すように伝わって来る。そのゾイドが咆えると、ほとんどのゾイドが怯え始めたのだ。ただ咆えただけで。

 その白いゾイドはその場から戦場を一通り眺めると、その中でショート寸前のEシールドを張っている青いライガーに向けて射撃を行なった。3発の特殊徹甲弾はそのEシールドをいとも簡単に突き破り、カスタムUの前脚を貫いて跪(ひざまず)かせる。

「カスタムU!」

 白いゾイドは立ち上がれないカスタムUを嘲笑うかのように再び咆え、赤や黒、銀のゾイド達を従えて去って行った。その内の銀色のゾイドだけこちらを振り返ったが、仲間に呼ばれるようにして姿を消した。見ているだけだった。それらのゾイドに傷付けられた二つの部隊の者達は、それをただ見ている事しかできなかった。





 戦闘は終了した。名目上は、ラグナウイングの勝利。ただでさえ敗北寸前だった所に先程の無差別攻撃が加えられ、もはやゴッドランダーには無事なゾイドなど存在しなかったのだ。だがしかし、それはラグナウイングも似たようなものであった。

「クソッ、何だってんだアレは!!」

 拳を力任せに壁に叩きつけるキース。その拳は微かに震えていた。

「・・・・・・」

 その傍では、ホークが無言でディスプレイを凝視していた。先程の戦闘で得た、正体不明の敵機の映像だ。それを、キースを無視して凝視する。

「・・・・・・ガイアはどうした?」

「アイツはゾイド修理に回ってる。まったく、アイツも疲れてるだろーによ」

 一応の所、パイロット達には休憩時間が与えられていた。しかし戦闘後の処理や状況回復のために何人かはその休みも取らずに各所で働いているのだ。

「そうか」

 ホークの言葉に感情は全く込められていない。目はディスプレイ上のゾイドを追ったままだ。

「で、何かわかりそうか?」

 キースもディスプレイを覗き込む。そこには自分と戦い、あわや殺されそうになった銀色のゾイドが映されていた。彼のシュトゥルムから得た映像であり、様々なデータが脇に表示されている。

「この機体が最も多くのデータを得られた機体だが・・・・・・母体はゴドスのようだな」

「ゴドス!?あれがか!?」

 確かに、スロー再生すれば部分部分の雰囲気はゴドスと似ていないわけでも無い。しかしあれだけの動きを見せたゾイドがゴドスだとは到底思えない。

「『母体は』だ。恐らく過度の強化改造を施してあるのだろう」

「OSか?」

「可能性の一つだ」

 今日のホークは普段よりも更に口数が少ない。口数が少ない分、頭で考えている。新型らしきゾイドばかりで編成された部隊の出現。それが救援としてでは無く無差別に攻撃を仕掛けた。いや、むしろゴッドランダー側に攻撃を集中していたようにも思える。ラグナウイングはある程度の傷を負わせるだけ。ブラッド、キースと戦っていた銀色のゾイドのように、あと一撃の所まで追い詰めながら見逃した。その真意は一体何であろう。



 同じ頃、救護室は猫の手でも借りたいような忙しさだった。負傷者の数が多すぎたのだ。ガイアはあれから負傷者・ゾイド全てを回収し、順次救護にあたるよう命じたのだ。医療チームも納得したが、しかし人手が足りなかった。コックや清掃員などの非衛生兵も増援として来てくれたものの、痛みに耐える人々の声は次第に減ってくる。治療が早いのではない。声を上げる事すらできなくなっているのだ。

「もう少しですから、頑張って下さい」

 増援の一人が順番を待つゴッドランダーの隊員を励ますが、その隊員は口を僅かに動かすだけ。彼にはもはや返事をする力も残っていなかった。

 一方、集中治療室から一人の男が運び出された。ブレイドである。先刻の戦闘で愛機のコアを破壊され、その感覚が流れ込んだために意識不明となってしまったのである。

「ライザさん、次です。名前はラン=ガイバー。両足を骨折、頭部に裂傷です」

 すぐに次の重傷者が運び込まれる。あの無差別攻撃で打撃を受けたのは、むしろゴッドランダーの方だった。ラグナウイングとの戦闘で機体が損傷を受け、脱出や投降をし始めた時に攻撃を受けたのだ。生身で生き残れた者はほんの一握りで、生き残った者達もほぼ例外無く重傷を負っていた。

「容態は・・・・・・」

 すぐに治療室に戻ろうとしたライザの腕を引いてリースが尋ねた。その顔は普段の彼女からはうかがい知れないほど動揺していた。

「手は尽くしたわ。ヴァンプ少佐の傍に居てあげて」

 彼女は口にしなかった。ブレイドの意識が戻るとは保証できない事を。脳波も心拍も安定したために治療室から出したのだが、前例が殆ど無いことであるため彼女自身にも何をすれば良いのか分からなかった、というのが実情である。リースはそれを僅かながら理解し、無言でライザに頭を下げた。

「ライザさん!仕事に戻って!」

 治療室から怒声が飛んで来た。ここにも伝わって来ているのだ。助けを求める人々の声、そしてその声が消えつつある事を。自分達の行ない次第でその命がいくつ残せるのかが決まる事を。





「・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・ここは?」

 ホエールキングRでの大混乱から二日。負傷者の処置も何とか終わり、彼らが占拠する仮眠室の一角。そこでゲイオスは目を覚ました。見覚えの無い天井。頭に少々の痛みを感じつつ重い身体を起こすと、突然首に巻きつくものがあった。

「ゲイオス!ゲイオス!」

「ぐむっ!」

 途端、息が苦しくなった。このままでは窒息死してしまいそうだ。自分の首を締め付けようとする腕を何度か叩いた。すると腕は彼の首から離れ、その腕の主の声が再び耳元で聞こえた。

「ゴメン。でも、生きててよかった」

 その主とはセティであった。特に怪我はしていないようで、ひとまず安心するゲイオス。しかし隊長として状況を理解するため、即座に問いかける。

「セティ、現状を説明してくれ」

「えぇ、勿論」

 彼女は語った。あの謎のゾイドの襲撃の後、ラグナウイングが負傷者とゾイドを収容した事。自分は襲撃の前に捕獲されていて無事だった事。そして、生き残った兵士とゾイドの数を。

「そんな・・・・・・たったこれだけ、だと・・・・・・?」

「残念だけど・・・」

 けっして広いとは言えない仮眠室。ここで横になっている者と、別室の重傷者数人、そしてセティのような軽傷者も数人。それだけしか生き残っていないと聞かされたのだ。

「あ、お気付きになられましたか?」

 目が覚めたゲイオスに気付いた少女がベッドに駆け寄ってきた。容姿はまだ幼く少し顔を強張らせているが、ある知人とよく似ているとゲイオスは思った。その少女はゲイオスに紙の束を差し出す。どうやらゴッドランダーの兵員とゾイドの現状についての書類らしい。

「お目覚めになられたらお渡しするよう言われた物です」

「済まない。だが誰に?」

「兄に・・・いえ、シュリナス隊長にです」

 少女が言いかけた言葉で合点がいった。誰かに似ていると思ったら、それはガイアだった。男女の違いもあり、漂わせる雰囲気も違う。しかし顔のマークが同じだ。

「すると、君はガイアの妹さんか」

「は、はい。サクラ=シュリナスと申します」

「ありがとう、サクラ殿」

 ゲイオスはサクラに笑みを送る。すると緊張も少し和らいだのか、目つきが優しくなった。どうやら自分を警戒していたようだ。敵だから、仕方が無いのだが。

「シュリナス隊長がお話がしたいと申しておりましたので、私は隊長を呼んで参ります」

「あぁ」

 サクラは二人に敬礼を送ると仮眠室を出て行った。ゲイオスはその背中を暫く見つめていたが、やがてその視線をセティに向けた。

「大したものだな。少し怖がっているようにも見えたが」

「怖がってるですって?まさか。あの子は私達の面倒をずっと見てくれてるのよ?」

 そうなのだ。今まで眠っていたゲイオスは知る由(よし)も無いが、サクラは負傷者に対し親身になって看護を行なった。腕が動かない者には食事を口まで運んでやり、ガーゼや包帯を嫌な顔ひとつせずに替え、容態が急変した時の為に常にこの部屋に待機していたのだった。本来は衛生兵の仕事であるが、これまでの治療によって溜まった疲労や負傷者の人数等を考慮してサクラ自身が申し出たのだ。

「なら、何か礼をしないとな」

「えぇ、ここの人達全員に、ね」



「失礼します。シュリナス隊長」

「ん・・・・・・お、サクラ・・・わざわざ名字やら階級やらで呼ばなくてもいいんだぞ」

 ガイアは格納庫に居た。相も変わらずゾイドの整備をしているようだ。こちらはこちらで大変そうで、ガイアの反応も少々鈍っている。それでも彼の背後にはまだいくつものゾイドが痛々しい姿でハンガーに固定されている。

「いえ、お仕事中のようでしたので」

「いーって。それよりも、何か?」

 していた軍手を外し、いつもの手袋をはめ直す。左右の手で肌の色が違うと、やはり戦争の惨さを思い知らされる。もっとも、彼の左腕は直接戦争で失われたものでは無いが。

「はい。ゲイオスさんがお目覚めになられたようです」

「お、やっとだな。ぃよし、色々話してくるか」

 ガイアはここ数日振りに笑顔を見せた。睡眠も食事もろくに取らずに作業に没頭していた彼だが、その表情はすこぶる悪かった。恐らく、怒りの感情のまま作業を続けていたのだろう。稀にではあるがミスをしたこともあった。それが、今では少し明るい。やはり彼にとってゲイオスは、敵である前に友人なのだ。

「それにしても、呼ぶんなら端末で構わなかったのに・・・・・・」

 ふと、ガイアは妹の顔を見つめた。何かを隠している。再会した時と同じように、何かを口にできずに胸にしまい込んでいる。そんな気がしたのだ。

「・・・・・・疲れたのか?サクラ」

「い、いえっ・・・・・・ただ」

 ガイアは妹の表情の陰りを見逃さなかった。自身で問い掛けておきながら、ただの疲労でこんな顔はしないと思っていた。やはり、何らかの想いを胸に秘めているのだろう。

「・・・なぜ、こんな事になってしまったのか・・・」

「俺も、そう思ってる」

 彼女は彼女なりに、この戦いでの惨状を目の当たりにしてきた。味方である筈の者に撃たれ、多くの者が死に、生き残った者もまだ苦しんでいる。見ていて気分のいいものではない。それでも彼女が看護を申し出たのは、自分にも誰かが救えると信じたかったから。自分を守って死んでいったかつての部隊の仲間達への恩を、誰かに返したかったからだ。

「こんな・・・こんなことって・・・・・・」

 彼女は震えていた。それは悲しみ、怒りから来るものか。ガイアにもその気持ちは理解できる。彼が隊長だった特殊部隊を壊滅させたデススティンガー1号機も、味方だと信じていたかつての帝国摂政が造らせたものだ。そして、彼だけが生き残った。

「奴らを許すつもりなど、毛頭ない」

「・・・・・・はい」

 サクラは俯き、その前髪で顔が見えなくなった。泣きそうだ、と予感したガイアが妹の頭を優しく撫でてやる。するとすぐに真っ赤になった顔を上げ、彼の手を払おうとした。

「あ、あの、兄さん・・・」

「あ、ゴメン。もう子供じゃないか」

「いえ、そうではなく・・・・・・」

 子供っぽいとは別の意味で恥ずかしいのだが、それを口には出せない。何とかこの場を回避しようと目線を逸らすと、修理中のゾイドばかりの格納庫に無傷の黒いゾイドが見えた。黒い翼を持つ恐竜、むしろ竜のようなゾイドだ。

「あ、あれ!あれは何ですか!?」

「え?そんなに気になるのか?」

 実の所、そこまで気になるわけではなかった。彼女はガイアと違ってゾイダーではないため、見慣れないゾイドが居ても特に気には留めない。特に旧ラグナロックや自分が以前所属していた特務部隊には試作・改造ゾイドが配備されていた為に、そう珍しくもないのだった。

「あれは『シュバルツヴィント』って言ってな、ガイロス帝国軍の新型飛行ゾイドなんだ。最近テュルクで発見された新種のドラゴン型で、中々多用できそうなんだ」

 この時、サクラはある事に気が付いた。いつものガイアならばゾイドの事を語る際には生き生きとした表情をしている。しかし今のガイアにはそれが無い。嬉しいような悲しいような、それらを我慢しているような複雑な顔をしているのだ。彼女はそれを、先日の戦闘と今までの多忙な日々のせいだと思った。

「我々の救援に来て下さったんですよね?」

「まぁ、呼ぶついでにってトコだろうけどな」

 ガイアは片手で自分の両目を覆うと深く溜め息をついた。サクラはどうしたのかと尋ねるが、ガイアは暫く無言のままだった。彼は思い出していた。恐らくこれから会わねばならないであろうかつての友人と、その友人の行ないを。

「・・・・・・嫌な予感がするんだよ。悪友の顔を見なきゃならないような」

「その方も帝国の方なのですか?」

 再び、ガイアが溜め息をつく。彼は認めたくないと思いつつも、サクラの質問に肯定の意を示す。彼女は、先程から兄の気分がどんどん落ち込んでいるような気がした。

「一応ね・・・・・・いいか、サクラ。『リゲル』っていう名前の帝国貴族が居たら、絶対に近付くんじゃない」

「?」

「向こうが近寄ってきたら、逃げるなり蹴り飛ばすなり、何をしてでも近付かせない。絶対にだ」

 ガイアは何度も繰り返し、リゲルという男には近付かないよう念を押した。サクラはその意味があまり分かっていなかったが、とにかく兄の言う事に従うことにした。男性を蹴り飛ばせるだけの力は自分には無さそうだったが。

「いざとなったら武器を使っても構わない。それと、何かあったら必ず俺に言ってくれ」

「りょ、了解です・・・」

「・・・じゃ、ゲイオスんトコに行ってくるか。サクラはどうする?」

 まだガイアは安心してはいなかったが、自分の杞憂に過ぎないかも知れないと思い話を終わりにした。いや、正確には、杞憂であって欲しいと願っているのだが。

「では私も一緒に戻ります」

「って言ったって、ちゃんと休んでるのか?」

「私が言い出した事なんです。最後までやり通します」

 そう言うサクラは健気であったが、少し辛そうに見えた。人の役に立ちたいという気持ちは褒め称えるべきものだ。しかし、自分の身を省みずに働き続け、結果倒れてしまうのでは身も蓋も無いというものだ。それに彼女の兄として、彼女に辛い思いはして欲しくない。

「でもなぁ・・・・・・じゃあ、ゲイオスとの話が終わったら一緒にメシでも食いに行くか?どうせまだなんだろ?」

「はい、まだ食べていませんが・・・」

「よし、決まり。そうと決まれば早く行こうぜ」

 ガイアはサクラに笑みを送ると、彼女の手を取って走り出した。彼にとって妹と過ごす時間は他のものとは別格なのだろう、顔からは嬉しそうな様子が容易に伺える。一方サクラは兄の行動に驚きつつも、微かな笑みを浮かべて彼に引っ張られていく。

 この状況にあってなお、彼らは笑っていた。



―――――第八章 完―――――

次回予告!


 レベッカ=モリス少佐です。次回の予告をさせて頂きます。
 我々ラグナウイングは補給物資や治療環境を求め、アーシー基地へと進路を向けます。しかし、それを良しとしない者が居ました。あの、正体不明のゾイドです。我々はそのゾイドによる襲撃を受け、傷の癒えぬまま戦うこととなりました。
 戦いの最中、私はある決意をします、それはとても辛いものでしたが、必要な事だったのです・・・・・・あの時までは。

 次回、フレイム・ソウル第九章『目覚め』 あのお方のお力、あなた自身の目でお確かめ下さい。

 「構いません。あなたの為ならば」



って、次に書くのはリメイクなの!?嘘、私の出番けっこう後じゃない!

GR「ゴメンね、レベッカ」

どうなっているのですか!

GR「いや〜、いい加減あっちを手直ししたいと思ってたんだよ〜。ホラ、初期のって何かと恥ずかしいじゃん?」

し、しかし・・・・・・

GR「やー、ホント〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(中略)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜に、ゴメンね」

あなたはレッドホーン、ジェノハイドラ乗りではないでしょう・・・・・・わかりました。では予告の内容をこちらにすれば宜しいのですね?

GR「そういうコト。いや〜、レベッカが話の分かる人で良かったよ」

・・・・・・(私達、この作者の元で大丈夫なのかしら?)




次回予告!

 改めまして、レベッカ=モリスです。次回予告と言うより、プロローグとして申し上げます。
 これが彼らの始まりでした。故郷を奪ったネオゼネバスを討つため、共和国軍がロブ基地に集結する中。その中で、彼らは組織されました。交し合う握手はまだぎこちなく、背中を任せる相手は昨日の敵。そして彼らをまとめるのは、20歳にも満たない若い帝国兵。
 前例の無いその部隊は、様々な考えを受けて戦場へと歩み始めます。新たな物語が、始まります。

 13人の戦士達・改訂版 第零章『結成された部隊』 ロブに集まる、仲間達。

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まだ私の出番もセリフも、無いんです


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