第十二回 三国連合



「・・・随分とまた呆気なかったなぁ」

デュークが言う。起きると思っていた事が起こらず、少々残念そうである。

「それは、ギリギリまでシミュレートと調整をしてくれた研究員達のお陰だ」

 それは不謹慎だとホークが言った。実際に何かしらの問題が起こっていれば、自分達は既に亡き者になっているかも知れないのだ。

 ラグナロック隊を含む連合選りすぐりの異星人迎撃軍団は、すでに惑星Ziを飛び出していた。輸送船も異常無く大気圏を突き抜けた。そこで彼らが目にしたものは、余りにも大きな物質、異星人の母船だった。

「ブリッジ、状況を知らせてくれ」

 ガイア達はすでに愛機に乗り込み、いつでも戦えるように待機している。ちなみに、パイロット全員に宇宙服を支給できる余裕など、時間的にも予算的にも連合には無かった。そのため、コクピットに穴が開けばパイロットの命はない、という死と隣り合わせの状況だった(無論、出来る限りの補強は行ってある)。

「現在、異常はありません。計算では後42分で敵母船に隣接できます」

「わかった、ありがとう。この急ピッチの作業でここまでやってくれて、感謝している」

 ガイアははやる気持ちを抑え、ブリッジでこの輸送船を操舵してくれているクルー達に感謝の意を述べた。通信を切り、愛機をセーブモードに切り替えて時を待つ。だが、自分が少々不満に思えた。

「・・・なんか、イマイチ気分がのらないよなぁ」

 そう独り言を呟くと、コクピット内に収納してある物質を手に取った。シートの下に厳重に収納していたそれは、錆(さ)び付いた操縦桿だった。それを懐かしい目で見て、ガイアはまた独り言を呟いた。

「ヘルキャット・・・大丈夫だ、俺は戦える。お前も、セイバーも、サイクスもシルバー(ケーニッヒウルフ)も・・・みんな、ここに居る」

 それは、彼が初めて搭乗したゾイド、ヘルキャットに使われていた操縦桿だった。そして今搭乗しているカスタムUにも、今までに乗り継いできたゾイドの部品が使われている。それらに想いを馳せながら、ガイアは自分を落ち着けた。



 彼らは呆気なく母船内部に侵入した。母船に接近すると、搬入口がぽっかりと開いていたのだ。そこに輸送船を停止させ、ゾイドが出撃。何の抵抗も無く進入できた事が、彼らに不信感を抱かせた。

「!?熱源接近!これは・・・ゼネバス軍!?」

 先頭を行くガンスナイパーがキャッチした反応、それはネオゼネバス帝国軍のゾイドを示すものだった。予想外の出来事に焦りを隠せない連合軍。攻撃態勢を取る者も居た。

「道を空けろ、俺が前に出る!全員、絶対に攻撃はするな」

 ガイアが全軍に伝えた。命令に応え、少々戸惑いながらもカスタムUの前を空ける連合軍。それに呼応するように、ネオゼネバス軍も道を空けた。そこを通って来たのは、黄色と黒で塗装された改造バーサークフューラー。かつてガイアと対面した事もあるゲイオスだった。

「こちらはHG連合軍中佐、ガイア=シュリナスだ。我々に貴殿らに攻撃を加える意思はない」

「こちら、ネオゼネバス帝国軍少佐、ゲイオス=バノード。こちらも、戦闘の意思は無い」

 形式的な会話だった。まるで互いを知らず、ただ出会っただけの関係のように。そして互いに戦意の無い事を告げると、二人とも無言でそれぞれの軍を率いて前に進んだ。

「ちょっとゴメンなさ〜い。そちらにロール=リリンって居ます?」

「セティ!?久し振りね・・・」

 だがガイアとゲイオスとは違い、ロールとセティの間にはあまり深刻な問題は無かった。二人とも、敵同士だけど親友、と割り切っていたために男達との差が生まれたのだ。それは男が不器用で女が器用、という事を端的に表していた。

「・・・こんな所でまた会えるなんてね」

「うん。戻ったら、お茶にしない?」

「あ!いいわね、ソレ」

 他愛も無い会話だが、未知の宇宙に居る上に交戦中の敵軍と肩を並べている彼らにとっては、重苦しい雰囲気を取り払うのに必要だった。

 そして彼らは、余りにも広い空間に出た。床はあるが天井も高く(今までは天井が低く、空戦ゾイドが通るには狭かった)、まるで戦うためのスペースだった。

「何だ、あれは!?」

 不意に誰かが叫んだ。その声に驚いて先を見た彼らは、想像しがたいものと接触した。それは巨大な人間の形をしていた。高さはおよそ60m。それがゆっくりとこちらを向いたかと思うと、声が聞こえた。正確には、声が伝わった。

―――――主(ぬし)らから出向いてくれようとは、なんと都合のよい事か。

 声のようなものが、直接彼らの頭に響くようだった。その声は、驚くべき事を話し始めた。

―――――ちょうど我が主らを引き揚げようとした手前じゃ。もてなすぞ、我の軍よ。

 その声は男のようであり、女のようであった。口調は穏やかだが、どこか異質な雰囲気を持っていた。声と共に目の前の巨人が近付いて来た。その身振りで何となく、この声は巨人が発していると気付いた。

―――――これまでの戦ぶり、実に見事であった。我の配下に加わるに相応しいのぅ。

「なッ、何だとォ!?」

 そう。ガイアが立てた仮説、『異星人がゾイドを欲しがっている』という説は、合っていたのだ。そして彼が発つ直前に考えた、『まるで異星人に、どうぞ来て下さいませとでも言われているよう』という事も間違ってはいなかった。

―――――主らには、我の配下となりて我のために戦う義務がある。断れば・・・・・・。

「ふざけるな!誰が異星人なんかの配下になるものか!」

 一機のジェノザウラーが、巨人に向かってレーザーライフルを撃った。巨人は微動だにしなかった。巨人の前に、幾重ものEシールドが展開されたのだから。

―――――勘違いするでない、我は命令しているのだ。否と答えれば、主らは藻屑となりてこの宇宙に漂うがいい。

 巨人の前に現れたのは、今までのアナザーゾイド共通色のグレーではなく、ブラックカラーのアナザーゾイドだった。形は、以前見た竜のようなアナザー(マトリクスドラゴン)と似ている。だが翼が巨大化している。そのドラゴンのレールガンでジェノザウラーのコクピットは貫かれた。パイロットも共に。

―――――抵抗は無駄である。我の配下となるのが、主らの幸せだぞ?

 シーフは怒りに満ちていた。戦友達を消し、クリスの国を消した張本人が、配下になれだと?彼の積もり積もった異星人への怒りは頂点に達していた。

「ガイア、俺はあいつが許せない!」

「当たり前だ!HG連合軍、構え!」

 ガイアもシーフと同じ事を考え、怒っていた。降るつもりなど、はなから毛頭ない。自分達は異星人と戦い、勝つためにここにいるのだから。

―――――愚かな。主ら、自ら死に急ぐのか?

「俺達は貴様を憎んでいる。配下になど、絶対にならん!」

 ガイアのその言葉を合図に、連合軍・ネオゼネバス軍VS異星人の最終決戦が始まった。



―――――言ったであろう、愚かであると。

 戦闘開始から10分。すでに勝敗は決しているようなものだった。巨人を護衛したドラゴン5機の他に、同じく黒い四脚で頭の大きなドラゴン(キメラドラゴン)がもう5機現れていた。連合・ネオゼネバスの部隊は合計して戦闘ゾイド200機。200対10の戦いだが、数は関係なかった。二つの軍が同じ敵を相手にしている事が問題だった。

「!?バッカ野郎、目の前に立つなディメトロドン!!」

「前にいるならEシールドで守るのが当たり前だろうが!」

「あぁもう〜、邪魔だヘリック共!」

「何だとこの腐れゼネバスがァ!」

 互いの指揮がバラバラなために、本来友軍のはずの者から直撃弾を受けたり、ブレードの巻き添えになったり、ジャミングがかかったり。まさに愚かな足の引っ張り合いだった。

「・・・何て様だよ。これが・・・惑星Ziの最初で最後の抵抗か?」

 ガイアはこの惨状に怒りを感じていた。まるで機能しない部隊、強力な敵軍、後が無いという緊迫感。精鋭を集めた筈なのに、これではまるで・・・。

「テメェらゼネバスなんぞ、はじめから期待しとらんわ!」

「なら自分らだけでやれ!」

「・・・・・・いい加減にしろォ!!」

 全周波数へ向けてのガイアの怒号が響き渡った。あまりの音量に、口喧嘩をしていた連合・ネオゼネバス軍も動きを止めた。

「お前達、何の為にここに来た!喧嘩する為か!?自滅する為か!?・・・・・・違うだろう!!」

 そう言われて初めて、彼らは自分達の使命を思い出した。そして、自分達の愚かな行動を悔いた。

「異星人の脅威から惑星Ziを救う為に来たんだろう!?奴等に勝つ為に!!・・・違うか!?」

 誰も言い返す事ができず、静かにガイアの言葉を聞いていた。巨人やアナザーゾイドはこの間全く攻撃をせずに、どんな抵抗をするのかと状況を眺めていた。

「俺はそのつもりで来た!異星人を倒す為に!生き残る為に!!」

「俺だってそのつもりだ!」

 連合兵の一人が呼応するように叫んだ。それに反応し、次々に声を上げる連合・ネオゼネバス兵。ガイアの言葉で己の意思を再確認し、全員が異星人を倒すという事だけを考えた。今の不利な戦況すら気にさせない程に。

「ガイア。お前の言葉、身にしみた・・・・・・我々ネオゼネバス帝国軍は、全指揮権を一時的にお前に預ける!」

 ゲイオスが発した言葉に反論する声も当然あったが、それは数秒の後に小さくなった。誰もがガイアを認めた。自分達が見失いかけたものを呼び起こしてくれたこの男にならこの場を任せられる、と。

「ガイア=シュリナス中佐!自分達連合軍も、部隊を越えてあなたに従います!ご指示を!」

 ネオゼネバス側がああ言った以上、連合側も黙っているわけにはいかなかった。どうせなら、ガイアにここに居る全ての人間の指揮を頼むのだ。それにも皆が同意した。

「ゲイオス、皆・・・・・・。各部隊の電子戦ゾイド、部隊編成を俺の元に送信せよ!」

 ガイア達惑星Zi人の反撃が始まった。巨人とアナザーゾイドは、まだ彼らを眺めている。何をしてこようとも無駄だと思っているのだ。

 ガイアは送られてきた編成表を一つにまとめて印を付けた後、電子戦ゾイドを介して全てのゾイドにデータを送信した。

「ここにいる全ゾイドにシリアルナンバーを付けた!国も部隊も関係ない!以後はこれに沿って指示を出す!自分が何番か確認してくれ!」

 連合・ネオゼネバス軍には多国間(特にガイロスとネオゼネバスとの間)で共通するゾイドが多い。だから敢(あ)えて、ガイアは国籍を捨てさせた。先程まではいがみ合っていた彼らだが、今なら共同で敵を倒せると思った、彼らを信じたからだ。その気持ちを一部の隊長達がくみ取り、了解した。

「さァ、行くぞ!反撃開始だ!」

 何百もの雄叫びが聞こえる。士気が高まる。数分前まで誰もが絶望しかけた戦況が、まるで水をかけられたかのように静まり返り、そして獅子の如く吼える。ここに、ヘリック共和国軍・ガイロス帝国軍・ネオゼネバス帝国軍の三国連合が出来上がった。

「7〜12番のバーサークフューラー、3番と8番のシュナイダー、前進してEシールド!1〜3番、20番のディバイソンとジェノザウラー全機は砲撃用意!カウント3で巨人に向けて一斉射撃!ガンブラスター全機も対Eシールド用にチャージ開始!まだ撃つなよ!」

 素早い指示に遅れないように、フューラーとシュナイダーがEシールドを展開する。指示された機体は各部隊の中でもかなり前の方に居た機体であり、高出力のEシールドが全軍の一部に向かって放たれた砲撃をピンポイントで弾いた。

「Eシールド展開止め!ディバイソン、ジェノザウラー用意!1、2、3、シュート!」

 ディバイソンの突撃砲とミサイル、ジェノザウラーのレーザーと荷電粒子砲が一斉に火を吹き、巨人に迫る。慌てずアナザーのドラゴンが巨人を守るためEシールドを展開する。それで砲撃は無効化された。恐ろしく高出力のEシールドだ。

「今だガンブラスター!撃てェ!」

 ガンブラスター隊は、一欠けらの疑念すら持たずに一斉射撃を行った。Eシールドをすり抜ける、ハイパーローリングキャノンを。ドラゴンは避ける事ができない。避ければ、自分達の親玉に直撃してしまうからだ。そのために、何機かのドラゴンがガンブラスターの前に倒れた。

「1〜8番のジェノブレイカー、敵機との格闘に備えよ!コマンドウルフとヘルキャット全機、ブレイカーを援護射撃!パンツァー全機は、残ったドラゴンと巨人に一斉射撃せよ!」

 間髪入れずにガイアは指示を出す。するとジェノブレイカーの前に、途中から出現した四足ドラゴンが踊り出た。瞬間的に反応し、エクスブレイカーで敵機頭部のマグネイズスピアを受け止める。コマンドウルフとヘルキャットの砲撃がスピアを受け止められた四足ドラゴンに襲い掛かり、分裂する。

 一方、ホークを含めたライガーゼロ・パンツァーは、ハイパーローリングキャノンで深手を負ったドラゴンを破壊。巨人にもハイブリッドキャノンが火を噴いた。

―――――愚か者。主ら如きに、我を傷付けられるものか。

 再びアナザーゾイドが出現した。先程と同じドラゴンだが、数が多い。ざっと見て20機は居る。

「四足ドラゴンの相手は、ブレイカーとブレード、シュナイダー全機に任せる!ゴジュラス、アイアンコングは増援のドラゴンに、ありったけの砲撃を浴びせろ!その後、接近戦の得意な者でケリをつける!!」

 ついに、決着を付けるという言葉がガイアの口から出た。その言葉を聞き、俄然(がぜん)やる気の湧く惑星Ziの三国連合。ロングレンジバスターキャノンと各種ミサイル、ビームランチャーがドラゴンと巨人に浴びせられた。Eシールドで防いだものの、さすがにシールドはショートしていると見て間違い無い。

 同時に、四足ドラゴンも片付けられた。両軍の3大格闘ゾイドと言っても過言ではない。その3種のゾイド達が一斉に四足ドラゴンに、覆い被さるように突撃した。搭載されたスーパーコンピュータや母船からダイレクトに送信されているプログラムをもってしても、捌(さば)き切れるものでは無い。あるものは切断され、噛み砕かれ、そして押し潰された。

「よォし!格闘戦が得意だと自負している者は俺に続け!他の者は砲撃を―――――」

 その時、指示を出しているガイアの横を、一機のゾイドが通り過ぎた。

「クリス!?何やってるんだ!」

 ガイアがサンダーラプトルを追いかけようとした時、正面からのレールガンを脚に受けてしまった。カスタムUとガイアにとっては致命的な一撃だった。ドラゴンからの、今までの礼だろう。

「チィッ、しまった!」

「大丈夫か、ガイア!」

 被弾したカスタムUの横に、シーフのイエーガーが到達した。クリスを追ってきたが、ガイアが被弾したのを見て思わず立ち止まったのだった。

「くそっ!これじゃ突撃できん!・・・・・・シーフ、こいつを使え!」

 カスタムUからイエーガーに、あるプログラムが送信された。シーフはその内容を見て、驚嘆の意を示した。

「ガイア・・・・・・これは、まさか!」

「あぁ、ストライクレーザークローのリミッターを外し、10秒間だけ桁違いの威力の、高出力クローが使用可能となる。カスタムUのストライクレーザービームクロー並の、な」

 シーフは急いでそのプログラムをイエーガーのシステム内に書き加えた。

「それを使って、今すぐクリスを助け出せ!」

 そこまで言い終わって、ガイアは気付いた。イエーガーが改造されている事に。後足に映えるイエローのライン。かつてガイアとロールが共同制作したブースターユニット、ハイパードライブユニットが装備されていたのだ。

「シーフ、それ・・・」

「許可貰うの遅れてスマン!予備のを借りてる」

 かつてシーフがこれを装備し、制御できなかった事は人伝(ひとづて)に聞いている。だが今ならアイツは操れる、とガイアは思った。シーフもそう確信していた。決戦である今、出し惜しみする力など無いのだから。

「やるよ、ソレ・・・・・・お前の手で、決着をつけるんだ」

「よっしゃあ、やってやるぜ!待ってろクリス―――!!」

 そう言うなり、イエーガーはブースター全開でドラゴンと巨人の所、クリスが突撃していった場所に走り始めた。その横から、上から、支援砲撃が次々に放たれた。

「全機、先頭のイエーガーとラプトル型ゾイドを援護!撃ちまくれ―――!!」



 クリスの乗るサンダーラプトルは、何機ものドラゴンに取り囲まれてしまっている。マグネッサーシステムを無効化させる特殊能力も、母船内部では負けてしまうらしい。独特のバリア機能で攻撃を凌いでいるが、敗色濃厚。ところが、クリスの戦意は全く鈍らなかった。

「お父様の、お母様の・・・・・・国の皆の、仇!!」

 彼女は今、憎しみに燃えていた。全ての仇が目の前にいる巨人なのだ。それを確信し、仇を討とうとするクリスだが、ドラゴンが邪魔して攻撃できない。複数のドラゴンを一度に相手にするのはクリスには荷が重かった。そもそも、ドラゴンの相手などしてはいられない。そう思うクリスは焦り、視界が曇り、サンダーラプトルの性能に救われてやっと生きているのだった。

「どけェ、アナザー共ォ!!」

 そこにシーフのイエーガーが割り込んできた。そしてクリスのラプトルを守るように身構えると、一声咆えた。

「シーフ・・・・・・さん?」

「クリス!このバッカ野郎!!」

 怒鳴り声が、ラプトルのコクピット中に響いた。その声に驚き、自我を取り戻すクリス。

「無茶すんなって言ったろ!俺を頼れよ!」

 その時、ドラゴンの爪がイエーガーのコクピットに襲い掛かった。思わず目を覆うクリス。だがシーフは無事。爪が下ろされるよりも速く動き、ドラゴンの頭部を一撃。切り裂いたのだ。

「手前ェら・・・邪魔だあァ!!」

 シーフは先程のプログラムを使用した。イエーガーの爪が、普段の何倍もの輝きを発していく。と同時に、コクピットにアラームが鳴った。このままでは、爪自体がそのエネルギーで溶けてしまうというのだ。

「10秒もてばいい!覚悟しろ、異星人がァ!!」

―――――ほざけ、小童(こわっぱ)が!

 巨人も咆え、その巨大な腕を振りかざした。だが、ブースター全開のイエーガーには当たらない。イエーガーの跳躍で蹴った床が赤熱している。タイムリミットは近い。

「もう終わりなんだよ!」

 巨人の腕にビームが直撃した。それは、脚をやられたカスタムUの、渾身のハイデンシティビームキャノンだった。

「俺の根性、ナメんじゃねぇ!」

 だがカスタムUに、高速移動したドラゴンの爪が振り下ろされた。コクピットに向かい、真っ直ぐに。あまりの速さにガイアの反応が遅れた。殺られる。

「危ない、ガイア!」

 だがその爪は、腕ごとレーザーに溶かされた。ガイアには、そのレーザーの種類と狙撃ゾイドが一瞬で分かった。パルスレーザーライフル。そして、ライトニングサイクス。レーザーの第2射でドラゴンは後退した。

「フゥ、危なかった・・・生きてる?」

「リオ・・・・・・助かった」

「いいえ。これは、あの時の借りを返しただけよ。お礼される程のものじゃないわ」

 そして二人は、今まさに攻撃せんとするイエーガーの援護にまわった。護衛のドラゴンをかわし、シーフとイエーガーが巨人に突っ込む。

「くたばりやがれェ!!」

 その気合が、イエーガーに力を与えた。身の毛がよだつ程のエネルギーが、爪に集められていく。そしてそれが、巨人の身体に勢い良く叩き込まれた。一瞬の後、巨人の腹には大きな風穴が空いていた。

「・・・・・・やった、か?」

 誰かがそう言った時、母船が大きく揺れた。同時にアナザーゾイドもその活動を停止し始めた。

「・・・・・・今の揺れは爆発だ!全員、急いで脱出しろ!」

 キリーが叫び、三国連合は速やかに元来た道を駆け始めた。だが、イエーガーとラプトルが来ない。キースが心配し、二人の名を呼ぶ。

「ラプトルの、エネルギーが・・・・・・」

 バリアの張り過ぎで、もはやラプトルには走るだけのエネスギーも残されていなかった。これでは間に合いそうもない。

「死なせねェぞ、クリス!」

 イエーガーがラプトルを後押しする。だがイエーガーもクローに全てのエネルギーを回してしまい、ラプトルとそう大差ない状況だった。しかも、爪どころか手自体を失っている。それでも、懸命に歩を進める。

「絶対に、死なせねェ!もう二度と!!」

 その声に、その想いにイエーガーが反応し、最後の力を振り絞らせた。全身のサーボモーターが唸りをあげて回転し、パワーを生み出した。シーフは当然のように、ブースター以外の装甲を強制排除した。少しでも身軽になるために。

「しっかり掴まれ!」

 それに、ラプトルも応えた。必死にイエーガーにしがみ付く。イエーガーは力を込め、しっかりと地を蹴り走り出した。

―――――まだ、終わらせぬ!

 その背後から、倒したはずの巨人の腕が襲い来る。懸命に走るイエーガーを掴もうとする。その腕はロールが斬り裂いた。ウイングソードで腕を斬り落とされた巨人は悶絶すると、内部崩壊を始めた。



「・・・・・・終わった、んだよな?」

 惑星Ziへと還る輸送船の中で、ガイアがロールに訊いた。その表情は、少し寂しげだった。

「えぇ。でもガイア、何でそんなに寂しそうなの?」

「ん?いやぁ、結局のトコロ、異星人は何がしたかったのかな、って思ってサ」

 彼は、自分達に立ちはだかり、自分達が倒した敵に想いを馳せていた。自分達の完全な敵だと割り切って今まで戦い、今その敵を全滅させた。だが終わってみて、向こうにも何か事情があったのでは、と思ったのだ。かつての自分達のように。

「・・・・・・孤独、だったのかもね」

「え?」

「私達が見た限り、異星人はあの巨人ただ一人。もしかしたら、孤独に耐えかねての狂気だったのかも。そう思うの」

「そうか・・・・・・」

 今更どうこう言った所で、それは憶測にしか過ぎない。その答えを知っている者は、もはや自分達が倒し、宇宙の塵(ちり)となってしまったのだから。

「そ・れ・よ・り!・・・さっきのサイクスに乗った女の子、誰?」

「あぁ、リオだ。隊と離れている間に知り合った」

 ガイアはふと、自分を見つめるロールの顔を見た。明らかに怒っている。その理由が何となくわかったガイアは、別に何もなかった、と付け加えた。

「当たり前よ!もし何かあったら・・・それ以上のコト、私にして貰うわ」

 すると、言った本人が自分の発言で赤面してしまった。もちろん、ガイアも赤面していたが。

「そ・・・そういう発言は控えてくれ。でないと・・・・・・」

「でないと?」

「・・・・・・あーもう!俺に言わせるな!」

 とても言えたものではない。その気にしてしまう、などとは。



 惑星Ziに入った三国連合は、互いに敬礼を交わすと自分達の領土へと戻って行った。彼らに交わす言葉は無い。異星人が消えた今、彼らは再び敵となったのだから。

 そして、別れはもう一つあった。

「今まで・・・お疲れさん。仇、討てたな」

「はい、シーフさん・・・・・・」

 クリスは、異星人と戦うためにラグナロック隊に傭兵として身を寄せていた。だから今、その傭兵としての意味は無くなったのだ。

「傭兵・クリスチーネ=L=ミシェール。貴殿の解雇を命ずる。ラグナロック隊隊長・ガイア=シュリナス」

 短い形式的な文章で、クリスの役職は無くなった。もうラグナロック隊に彼女の居場所は無い。

「ところでガイア。クリスちゃんのこれから、どうしたらいいんだ?」

 キースが心配そうに訊ねた。今の彼女に、生きる術は果たしてあるのだろうか、と。それにガイアは、軍人としての俺達に出来る事はない。できればどこかの街で、働き口を探してやりたい、と言った。

「そんな心配はいらねーよ。クリスは、俺の家に住んで貰う」

「シーフ?家、近いのか?」

「あぁ、こっからすぐの所だ」

 シーフはクリスの方を向き、優しい口調で同意を求めた。冗談を交えながら。

「軍に関わるよりはいいと思う。俺の両親はできがいいから、心配する事はねぇさ。それでいいか?」

「本当に、感謝いたします・・・・・・ですが、ここで・・・」

 するとクリスは俯き、わなわなと肩を震わせた。泣き出す、そうシーフは思った。

「ここで・・・シーフさんと別れたくない・・・です・・・」

 流れ出しそうな涙を必死に堪えながら、クリスは胸の内を吐き出した。自分を最も心配してくれ、最も世話を焼いてくれた彼に向けての想いを。

「シーフさんが・・・好き・・・です・・・」

 何も言わず、シーフは力強くクリスを抱き締めた。突然の事に驚き、堪えていた涙が頬を伝って流れ落ちた。その涙も、シーフの指がそっと拭う。

「シーフ・・・さん・・・?」

「俺だって・・・・・・お前が好きだ」

 ここにいる人間は初めて聞いた、シーフの告白だった。本人は彼女の耳元で彼女にだけ聞こえるように言ったつもりだろうが、周りにはしっかりと聞こえていた。

 彼は過去に恋人を失ってから、その『代わり』を捜し求めていた。だが、様々な人間との付き合いを重ねてもその『代わり』は見つからなかった。あの時もまた、『代わり』を探していた。だがクリスと出会い、共に生きている内に、それだけが全てでは無いと気付いた。いや、クリスに気付かされた。彼女に包まれるような感覚を覚えた時、彼の探し物は終わっていた。普段笑いながらも心に傷を負っていた彼を包み込む、温かい愛情。それに惹かれた事に気付いたから、彼は探す事をやめた。彼が捜し求める根底を見つけたのだから。

「けど・・・クリスを危険な目に遭わせるわけにはいかない。だから、今は・・・・・・」

 そこまで言って、シーフは抱き締めていたクリスを放した。そして跪(ひざまず)き、クリスの片手を取ってこう言った。

「今は、待っていて欲しい。いつか必ず、攫(さら)いに行くから」

 そして彼女の手の甲に、口付けをした。微かに笑い、まるで物語に出てくる王子のようだった。その行為に頬を染めながら、クリスはコクンと頷いた。

「待っています・・・いつまでも・・・」



 ZAC2103年、8月。ラグナロック隊はクリスをシーフの家に送り届け、サンダーラプトルを封印した。シーフがクリスを攫いに来た時、再び起動させると誓いを立てて。そして彼らは、ヘリオウィンダム隊とラミディムの居る、アテナ基地へと向かう。後にこの約2ヶ月の戦いは、『アナザー戦争』と呼ばれることになる・・・・・・。

アナザーとの戦 完






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