第十一回 決戦の前
「トレーニングは続けてたみたいだな」
「えぇ、一応ね。でも良かったわぁ、帰って来たガイアが無精髭を生やしてなくって」
「髭剃りくらいなら常備してるって・・・・・・まぁ確かに、髭があっちゃ『あれ』はできなかったからな」
他愛の無い会話。それが二人にとっての幸せだった。隣に最愛の人が居て、語らう。それだけで十分だった幸せ。いつまでも変わらない幸せ。二人で居るだけでいい、そう思っていた。だがそれは昔の話。ある一線を越えた彼らには、それだけでは少々物足りなかった。
「・・・・・・でも本当に突然ね。ガイアからはしてくれないと思ってたのよ。こっちからしなきゃ絶対にキスできない、ってね」
「・・・そんなんだったか、俺」
「えぇ。このまま付き合ってたら、10年経っても何もないんじゃないか、って思っちゃう程よ」
「おいおい・・・」
だがガイアの本心は違った。彼も一応(?)男である。好きな人としたい事は山ほどある。妄想だってしてしまう。それを行動に移さなかったのは恥ずかしさもあったが、何より『いつやっていいのか』がわからなかったからであった。
「そりゃ大切にしてくれて嬉しいわよ?けど、時にはそういうコトだってしたいの」
ガイアには恋愛関係の経験も知識もない。いずれも思春期(以前)にほとんどの人が知ることだが、彼はその思春期を軍に捧(ささ)げてきた。仲間にも女性は居たが、異性として意識する暇など無かった。第一優先が、戦う事であり生き残る事。それのみを行動理念として生きてきた彼ゆえに経験も知識も持っていなかった。加減を知らない。見方を変えればそうとも言えるのがガイアだった。
「俺だって・・・したかったさ」
「・・・え?」
「・・・・・・だから、その・・・・・・」
だがその時、二人だけの世界を破壊する音が二人の耳に入った。呼び出しを目的とする放送が流れたのだった。
『ガイア、至急格納庫まで来てくれ。繰り返す。ガイア、今すぐ格納庫に来てくれ』
余程の事があったと見て間違い無い。バニッシュの声だったが、明らかに『至急』と『今すぐ』にアクセントが置かれていたのだ。
「・・・・・・何だよ、チクショー」
「ガイアも忙しいわねぇ。急いでるみたいだし、早く行ってあげたら?」
「・・・あぁ・・・」
とても残念そうな顔と声で言った後、しょんぼりした背中を見せてロールと別れるガイア。珍しくムードも高まり、自分の胸中を見せられそうになったと言うのに・・・・・・そんな後悔の念が彼に重く圧し掛かっていた。
それでも走った(むしろ早く終わらせたかった)ガイアは、数分後には格納庫に着いていた。自身の息切れも気にせずバニッシュに要件を尋ねるガイア。
「え?あぁ、俺じゃ届かないんで背中をかいて欲しくってな・・・」
ブチン。ガイアの頭の中で何かが切れたような音が響き、力を込めてバニッシュの背中をガリガリと引っ掻いた。その顔は憤怒の化身の如く怒りを浮かべていた。
「・・・まさか、これだけのために呼んだワケじゃあないよな・・・?」
「な、何言ってる、今のは冗談だよ・・・ははは」
バニッシュも顔が笑っていない、焦っている。ガイアの怒りをピリピリと感じ取っていたからだ。ガイアがどこで何をしていたか知らないバニッシュは、たかが冗談でここまで怒る奴だったか?と思っていた。
「輸送船の分析が終わった、とさ」
そう取り繕(つくろ)って、持っていた報告書をまだ怒りの残るガイアに(半ば恐る恐る)手渡した。しぶしぶ受け取り内容に目を通すガイアだが、その表情は見る見るうちに変わった。怒りから驚きを経て、喜びへと変わり、最後に難しそうな顔になった。その報告書の内容が彼の想像を超えていたからだ。
「こ・・・これは!」
ラグナロック隊が捕獲した輸送船の解析にはしばしの時間を必要としたが、時間をかけた以上に得たものは大きかった。惑星Ziの外――――宇宙――――からこの星に降りてきた輸送船ならば逆に、異星人の母船へ辿り着けるのではないだろうか。そこから生まれた疑問は数多くあったが、幸いにもエネルギーも十分あり、外装に損傷も無い。飛べる。輸送艦を利用し、異星人の母船に乗り込めるかも知れないのだ。要約すると、報告書にはそう書いてあった。
「そうだ。俺達の手で、異星人に引導を渡してやれる」
(厳密に言えば)惑星Ziに、スペースシャトル等の宇宙船は無い。戦争が彼らの技術を発展させ、大気の外よりも隣の敵を見ていたのだからだ。そのため早急にシャトルを開発しようと試みる者が少数、あとはただ手をこまねいて防衛をするしかなかった。自分達の無力さを改めて感じながら、それでも自分達には何もできない。根本(=母船)を解決(=攻撃)できなければ、いくらやっても無駄なのだ。アナザーゾイドと戦ってきた者は皆、大なり小なりその屈辱感を味わっていた。それが終わるのだ、この戦いが。
「・・・そうと決まれば、味方を集める他無いな。これと対アナザー用プログラムのデータは、連合全軍にまわしてあるんだな?」
「もちろんだ。各地で少しずつだが、輸送船の捕獲が始まっている」
「そうか」
少し笑った後、ガイアは再び難しい顔で報告書を見直した。何かがおかしい。最近どうも、うまく行き過ぎている。立て続けに明らかになる異星人の情報、対策、迎撃法・・・・・・これすらも、奴等の予想範囲だとでも言うのか。彼の頭の中で、結論のつけようが無い問答がいつまでも繰り返された。
「こちらHG連合軍第3特殊戦闘隊・隊長、ガイア=シュリナス中佐。予定していたグロファニムス=ラミディム少将との面会を求めます」
「少々お待ち下さい・・・・・・お待たせいたしました、只今お繋ぎ致します」
まだ母船に乗り込むには、テストも(輸送船を捕獲した)味方も少ない。その間に決意が揺るがないよう、自分の師に誓う。そうガイアは心に決め、事前に予約を入れておいた。通信設備を使用したリアルタイム回線で、顔を見る事ができるように。
デルポイに派遣されたガイロス帝国兵は、ヘリック共和国兵と比べると圧倒的に少ない。そのため必然的に指揮官も少なくなる。彼ら帝国兵をデルポイ内でまとめ上げている人間の一人が、ラミディムなのである。帝国首脳部との会談を行い、連合軍司令部の会議に出席し、部下達に気を配り、山のように積まれた雑務をこなす(軍法会議も彼の仕事である)。実は相当に忙しい人間なのだ。
「久し振りだな、ガイア」
「お久し振りです、師匠。心配と面倒をおかけしてしまいました」
「ばぁか、お前の心配なんぞ一時たりともしなかったぞ・・・・・・お前を信じていたからな」
数ヶ月振りの、師弟の会話。二人の会話に、ラニディムの傍にいた向こうの通信兵達も思わず微笑んでしまう。
「そうそう。お前さんに会いたがってるコ達が居るぞ〜」
ラミディムは少しにんまりとしたかと思うと、モニター用のカメラから身を引いて、後ろに居た女性達にその場を譲った。映ったのは、懐かしい者達。かつて同じ基地内で共同生活をした、ヘリオウィンダム隊の皆の姿であった。
「中佐、お久し振りです!」
「お元気そうで何よりです」
「ご無事なんですね・・・良かったぁ」
ガイアから見えるモニターの向こうには、20人もの見目麗しい女性達がひしめきあっていた。彼女らと別れを交わしたのはキングザウラーを追い始めた頃だったな、と一人思い出に浸るガイア。
「良かった・・・本当に、良かったぁ・・・」
モニターの向こうで涙を流すレベッカを見つけ、どうしたのかと尋ねるガイア。自分の顔を見ただけで泣かれてしまい、わけのわからない責任のようなものを感じていた。
「ご心配なさらないで、中佐。レベッカは中佐が無事で嬉しいだけですよ」
「そうよねぇ〜。あ、中佐。コマンドウルフのキットはレベッカが大っっっ事に預かっていますので」
「ホント、大事に大事にね〜」
「ちょ、ちょっと皆、何言ってるのよ」
その発言に、ガイアは驚いて素っ頓狂な声をあげた。あまりにも意外過ぎて。
「俺、ウルフ忘れてったのかぁ!?」
「そうですよ。アタックユニットのライフルが一門になって、サイドにブースターが付いてる改造機です」
「あと、ブレードも付いてなかった?」
ガイアの心の中に、ガーンという衝撃と後悔の音が暫く鳴り響いていた。間違いなく自分のゾイドは全て持ってきていたと思っていたのに・・・これではゾイダーとして失格だ・・・。
「モリス少佐」
「は、はいっ!何でしょうか!」
急に名前を呼ばれ、一瞬で緊張するレベッカ。何故かまわりも急に静まる。突然雰囲気が変わった事の原因を作った張本人であるガイアは、その雰囲気を不思議に思いつつも言おうとした事を告げた。
「・・・俺達が戻るまで、ウルフを頼む」
「・・・はい」
答えるレベッカの頬に赤みがさしていたが、ガイアは気付かなかった。だがアテナ基地では、ラミディムを含め皆がそれに気付いていたし、理由も知っていた。だが言おうとはしない。
「・・・さて、そろそろガイアと話をさせて貰っても良いかな、お嬢さん達?」
『し、失礼致しました!』
ラミディムに一言だけ言われ、慌ててその場を立ち退くヘリオウィンダム隊の皆。ラミディムの雰囲気が時々忘れさせるが、仮にも彼は少将なのだ。レベッカと比べても、軍は違えど4階級もの差がある。
「いや、別にそんな急がんでもいいんだが・・・まぁいい。それでガイア、用件は何だ?」
「はい・・・俺達の隊で異星人の輸送船を捕獲しました。十分な戦力が集まり次第、俺達は輸送船を使って異星人の母船に乗り込みます」
先程までの和やかな雰囲気とは全く違う、重い声が通信を通してラミディムとヘリオウィンダム隊に伝わった。それが彼の、彼らの決意だと誰もが知った。
「・・・そうか、お前の手で決着をつけて来い。そのための援軍や物資は、確実に用意しよう」
「少将、私達を増援に送るご命令を下さい!」
レベッカが、いつもとは違う感情のこもった声を発した。それに少々驚きつつも、ラミディムはガイアに訊ねた。こう言ってるがどうする、と。
「残ってくれ」
「中佐、私はあなたのお供をしたいのです!」
「アナザーゾイドと戦った経験があるのか?」
レベッカの想いを遮(さえぎ)るように、ガイアが言った。ただ否定しているわけではない。根拠をもって否定している。レベッカは、すぐには答えられなかった。
「・・・俺達に任せておけ。大丈夫だ、何も行けば確実に死ぬ、というわけでもあるまい」
明るい声で言ったその意見は、誰も否定できなかったが肯定もできなかった。何も保証できない、未知の戦いだ。不安も、恐怖もある。だがガイアは物怖じする素振りを見せない。そして笑い、こう付け加えた。
「それに、そこは重要拠点の一つなんだから。しっかり守っておいてくれ」
「・・・わかりました」
彼女達は、彼が何故そこまで堂々としていられるのかが不思議に思えた。母船に乗り込むという事は、宇宙に飛び出す事。予想も出来ない様々な危険がそこら中を漂っている世界なのだ。そして母船には、今までとは比べ物にならない敵が待ち構えているのだろう。なのに、何故それを恐れない?
「必要と思われる味方の数は?」
「戦闘ゾイド100機。アナザーとの交戦経験の多い者の中で、選(え)りすぐりの者を連れて行きたいと思っています」
これにラミディムは、いい数だ、と言った。経験が無ければ話にならないが、多過ぎては小回りがきかず、逆に数自体が重荷となってしまう。
「そうすると、遅くとも1週間後には集められるだろう。物資の不足は無いか?」
「徐々にですが、様々な物が不足しています。この戦いが終わったら、キングザウラーを追い直す前に一度、そちらに戻りたいと思います」
「お前がサバイサル生活をしていた時にか?」
冗談半分だったが、この問いかけにガイアは驚いた。ラミディムや他の皆の誰にも、テントや非常食をはじめとするキャンプ用品を敵兵・リオに渡した事は明かしていない。ラミディムは(基本的に)寛大だが、『敵兵と密会してました』とはさすがに言えたものではなかった。
「それもありますがね・・・軍服、新調できますかね?」
「軍服?どうしてだ」
「変更の要望がありまして・・・その、何といいますか・・・」
ガイアは苦心しながら、『タイトスカートじゃいざという時に格闘が出来ない』というロールの意見を伝えた。隊に軍服着用の義務は無いが、当人は『女性でも闘えるという事を認めて貰う証明だから』と言っている事も伝えた。
「成る程ね。用意しておこう・・・とか言いつつ、スカートの方が可愛い、なんて思ってるんじゃないのか?」
「いや、どっちでも似合うと・・・・・・って何言わせるんですか、師匠!」
顔を真っ赤にしながら、ガイアが叫ぶ。少し恥ずかしかったらしい。それを見てラミディムは、こんな冗談の通じる奴になって良かった、と思った。ガイアが以前は恋愛事に対してはクール過ぎた事を、ラミディムは少々心配していたのだ。だが、その心配も無くなったようだ。
「と、とにかく!・・・宜しくお願いしますよ」
「わかっている。楽しみにしてな」
「はい・・・ではそろそろ、通信を切らせて頂きます」
ガイアが話を終わりにしようとした時、ラミディムの表情が変わった。普段はひょうきん(?)で大概(たいがい)笑顔だが、今は違う。ガイアを導いてきた時に見せていた、真剣な表情。それは戦争を生き抜いた者として、彼を部下、弟子、そして我が息子のように見送る時の顔だった。
「ガイア、必ず生きて帰って来い」
「・・・・・・はい」
答えたガイアの表情も、先程までとは違っていた。自信が無く心配するような顔でも、自信満々で偉そうにしている顔でも無かった。ラミディムの弟子である事を誇りに思い、かすかに喜ぶ顔だった。その表情を見たラミディムも、同じ顔になった。これが二人の『絆』だった。
通信を切ったガイアは通信室を出た。そして格納庫に向かい、愛機のすぐ傍に座る。輸送船の調査をしていた部隊もここを後にしたため、また静かな場所に戻っていた。既に愛機の状態も完全なものにあり、思い切り動きたくてウズウズしているようであった。
「・・・カスタムU、師匠に言われたよ。『生きて帰って来い』ってさ。俺、思うんだ・・・あの人に出会えて、共に過ごして・・・『生きてる』って実感できたんだ。すげぇ幸せだよな?」
ガイアにカスタムUの声が聞こえた。起動していないので身体を動かす事は無いが、声で意思を伝える事はできるのだ。
「あぁ。俺とお前を出逢わせてくれたのも、師匠だもんな。感謝しないとな」
そこから少し離れたシーフの部屋。そこでシーフとクリスは、これからの事について話していた。
「・・・やっぱり、自分で戦うか・・・クリス、くれぐれも無茶はするなよ?」
「わかっております。『死ぬために戦うな』・・・あなたのお言葉、今も胸に刻み込まれています」
「そうか・・・」
シーフはクリスの両肩を掴むと、今までに見せた事の無い真剣な顔つきで言った。絶対に死ぬな、と。彼女はその言葉がなぜ自分に向けられているのかがわかった。彼がかつて亡くした、想い人と自分を重ね合わせているのだ。戦いの中で死んだ、彼の恋人と。
「ゲイオス!どうだ、カイザーの調子は?」
「すこぶる良好だな。心配していた重量増加による負担も少ない。あとはプログラムを少々書き換えれば完成する」
とあるネオゼネバス帝国基地。そこでは改装の完了したゲイオスのメテオカイザーが模擬戦を行っていた。相手は改造サラマンダー・メタルクローに乗るセティと、連合から強奪した改造ジェノザウラー・キングザウラーに乗るデュラン、そしてもう一人、ライトニングサイクスに乗る少女・リオ。1対3で実戦的な模擬戦を行っていたが、ゲイオスの動きは数での不利を簡単に覆(くつがえ)していた。
「・・・まだ書き換えるのぉ?もう3時間も続けてるのよ?」
「済まん、あと少しだけ頼む」
恋人であるセティの声でも、今のゲイオスは止められない。自分は今止まってはいけない、今は進まなければならない。そうゲイオスは思っていた。彼には決して捨てられない目的があった。その目的を達成するまで、自分は進み続ける。
「でも、あなただって疲れてるんじゃ・・・」
「セティ。ゲイオスはガイアって奴との再戦までに、万全な状態にしておきたいんだってよ」
「ガイア!?」
思わずリオが声を発した。全く不意に、つい先日まで共同生活をしていた男の名が出たのだから。リオがガイアの名に明らかに反応を示しているとわかった途端、ゲイオスはリオとのモニター通信を開いた。
「・・・知っているのか?ガイア=シュリナスを」
「い、いいえ!聞き違いですよ」
そして今のリオは、明らかに動揺している。間違いなくガイアを知っているのだ。そう思った時、ゲイオスは模擬戦を終わりにした。そしてセティを連れ、サイクスから降りたばかりのリオに話があると言った。
「ですから、私が勘違いをしただけです」
「違うな、あなたの目を見ればすぐわかる。彼を知っているんだろう?」
リオは断固として知らぬ存ぜぬと突き通した。敵軍の人間と関わりがあったと知られれば、自分の立場は悪くなるに決まっている。
「・・・ガイアは、俺の友だ」
するとゲイオスは、ガイアと出会った経緯(けいい)を話し始めた。戦場でない場所で出会えば、敵も味方も関係ない。ゲイオスのその言葉を信じ、リオはガイアの事を少し話した。
「・・・そうか、あいつに助けられたか・・・。話はわかった、ありがとう。怖がらせて済まなかったな」
最後に謝り、セティを連れてゲイオスはその場を去った。リオはその後姿を見つめながら思った。ガイアとバノード少佐は似ている。きっと話も合っていたに違いない。その二人が敵味方に分かれ、殺し合う。そんな理不尽な戦争という現実に、彼女は尚一層疑問を抱いた。
「何とかなるっしょ、あの二人なら・・・・・・」
リオは知らずに呟いていた。ガイアとゲイオス、互いを想う二人の男。彼らは今は敵味方に分かれ戦っているが、いつかきっと仲良く話せる日が来る。二人の事を考えると、そう思わずにはいられなかった。だから自分でも気付かずに呟いた。意識して喋ったわけではないため、いつもよりラフな口調だった。それはリオはもちろん、既に離れていたゲイオス達も気付かなかった。
「あの時の男がねぇ・・・『上がってくる』と思う?」
「必ず『上がる』だろう。奴は見送るような性格ではなさそうだからな」
彼らは思った、ガイアも必ず宇宙に上がると。彼らネオゼネバス帝国にも、異星人兵器(彼らはキメラと呼ぶ)を無効化し、輸送船を手に入れる術はあった。いや、正確に言えば、その術は伝えられた。送信者不明のプログラム。それを解析した結果、キメラの行動を抑え、輸送船までも操る事が可能と判明。そのプログラムを利用しているのだ。彼らは誰一人として知らなかったが、それは連合から密かにもたらされたものであり、ラグナロック隊が構築したものだった。
「ロールも、来るんでしょうね・・・また話、できるかしら」
セティが少し暗い声で言った。敵同士である互いの身、再び会い見(まみ)えるのは戦場でなくてどこなのか。そんな、ある種の諦めが混じった声だった。だが弱くて消え入りそうな微かな希望の方を、ゲイオスは応援した。
「お前達がそう望んでいるのなら、きっと話せるさ」
「お前達は、って・・・あなたはどうなの?あなた達は」
「俺達・・・俺とガイアは、戦う命運にある。宇宙で再会した時はわからんが、戦地で会ったならば戦うのみだ。どちらかが勝ち、どちらかが負ける。俺達男は、そういう宿命を背負っているのさ」
セティはゲイオスの瞳を見た。何かに魅せられているかのようだった。多分その瞳に映るのは、もはやガイアという男だけなのだろう。彼女は心配した。今目の前に居る彼が、いつか遠くに行ってしまいそうに思えて。
やがて連合側にも、十分な数の実力者を運べる輸送船が手に入った。ラミディムの言った通り1週間で集まったが、ガイアはこの事でより一層、これからの戦いに備えて気を引き締めた。各地で輸送船が捕獲されている事に対し、異星人の動きには何の変化も無い。今まで通り適当にアナザーゾイドで襲撃し、アナザーゾイドが倒される。それでいて、輸送船を手に入れた部隊には何の攻撃も無しだ。まるで、どうぞ来て下さいませとでも言われているようだった。
「・・・・・・まさか、な・・・」
そう口には出したが、自分の推測を信じずには居られない。もし本当に異星人が自分達を待っているのなら、もう『収穫』の時なのだろう。勇んで攻め込みに行った自分達を待ち構えているのは、アナザーゾイドを討ち破った自分達の力を超える超兵器かも知れない。絶対的な力の差を思い知ったまま、自分達は宇宙で果てるのか。
「どうしたの、ガイア?」
ロールに顔を覗き込まれ、ガイアは本来すべき事を思い出した。いくら考えたってしょうがない。俺達は戦地に赴き、戦うのみだ。
「いや、何でもない・・・まだ時間まで30分あるな。ちょっと、いいか?」
「え?あ、うん・・・」
ロールの了承を得ると、ガイアは彼女の腕を引いて今居た格納庫から離れた。すでに派遣されたスタッフ達が最終調整を行っているこの場では、話しづらい事だったのだ。倉庫のような所に彼女を連れ込むと明かりを点け、ガイアは扉を閉めた。
「な、何なの・・・?」
「スマン・・・・・・殴ってくれ」
ロールは聞き返した。いきなりこんな所に連れ込んで何をするかと思えば、殴れだって?あまりにも突拍子な事だったので、ロールはガイアが変な趣味に走ってしまったのかと心配した。
「正直言って、怖いんだ、俺・・・その臆病者を、戒(いまし)めてくれないか?」
だがロールは冷たい平手を喰らわすどころか、ガイアのほおに手を添え、そして撫でた。優しげな顔で。
「何言ってるの、怖がる必要なんてないじゃない」
だが、とガイアは続けたが、さすがに理由までは告げられなかった。もしこれを言ったら、彼女は間違いなく恐れてしまうだろう。そう思ったからだ。それを知ってか知らずか、ロールは口を開いた。
「あなたの傍には、いつも私が居るわ。あなたも、いつも私の傍に居てくれる。それでも怖い?」
ガイアは内心驚いた。彼女の言葉を聞いた途端、彼の恐怖心は無くなってしまった。二人一緒に居るだけで、こんなにも安心できる。それを教えてくれたのだ。ロールはこんなに強かったか?
「いや、もう怖くない」
「良かった♪」
嬉しそうにそう言うと、ロールは扉を開けた。パイロットスーツに着替えると言って出て行くその後姿を、少し残念そうにガイアは見つめていた。
「まだ話があったんだが・・・まぁ、帰ってきてからでいいか」
気持ちの上で整理をつけると、ガイアも倉庫を出て行った。戦うため、決着を付けるために。勝てる希望は、今の連合には限りなく小さいものなのかも知れない。だがその希望にすがってやろう。そして異星人に別れを告げ、明日のために戦おう。彼の胸の内は、期待と高揚感で一杯になっていた。
第十一話 終わり
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