第十回 コマンダー



 ラグナロック隊が異星人の輸送艦を捕獲して半日、調査は行き詰まってしまった。調査部隊の主力は分析能力や潜入戦に長けたコマンドウルフやシャドーフォックス。輸送艦はさながら前線基地並の広さと施設を持っていたが、途中から極端に通路が狭くなっていた。普通のゾイドでは到底入れず、コマンドゾイドは今回一緒ではない。もちろん調査部隊の隊長は、歩兵での潜入調査を考えた。だがその考えは部下達の命を捨てさせるようなものだった。

「誠に申し訳無いのだが・・・我々では調査を続行する事は不可能だ」

 すでに侵入当初からガードロボットのようなものには遭遇していた。それはゾイドの力で破壊できたが、この先はゾイドでは進めない。重要施設と予想されるその通路の先には、より多くの防衛装置があるに違いない。それに歩兵では勝てない、と隊長は判断したのだ。この部隊は先の偵察任務で多くの先任仕官を失ったため新兵ばかりで、歩兵訓練が不十分だった。調査部隊の隊長はその旨(むね)をホークに伝え、最後に頭を下げた。

「経験も無い若者をむざむざ死なせる事も無い。そこから先の調査、我々が引き継ごう」

「本当か!?・・・すまない」

 ラグナロック隊の隊員達は、少なくとも新人よりは身体能力が優れている。様々な理由からその筋の経験を積んだ者もいる。だがホークは、そんな曖昧な理由で引き継ぎを決意したわけではない。自分達は早くからアンザーゾイドと戦闘を行ってきた。いざという時の対応も、ゾイドでの戦力もある。彼なりに考えた結果、それが最善の策だと思い至ったからだ。無論、危険は大きい。それを踏まえ、隊員達に参加するかどうかを自由選択させた。誰もいなくとも、一人で調査すると心に誓って。

「俺が行かなくて、爆薬扱えると思ったのか?」

「銃の用意も使用も、俺に任せてくれ」

 最初に参加の意を表したのはデュークとバニッシュだった。デュークは所属部隊の経験から爆発物の扱いに長けており、バニッシュは様々な銃器を所持(コレクション)している。彼らが居れば心強い。そう思ったのかどうかは定かではないが、皆が参加すると言い始めた。

「全員で行く必要は無い。半分は機体に乗り外で待機。万一の場合に輸送艦を破壊して貰う」



「・・・ブレイド、ちょっと話があるんだが・・・」

「何だ、どうした?」

 格納庫でイエーガーの整備をするシーフと、通りがかったブレイド。一方は外で待機を命じられたが、もう一方は潜入する事になった。潜入用に防弾装備やヘルメット、耐熱スーツを着用しているブレイドに少し驚きはしたが、気を取り直して頼んだ。

「お前は潜入するんだろ?ならさ、あの『ハイパードライブユニット』っての、貸してくれないか?」

「・・・何故だ?イエーガーの機動力じゃ、足りんとでも言うのか?」

「とにかく、頼む」

 さすがに実戦で慣れればよい、というユニットではない。ブレイドはそう思い、拒否しようとした。シーフが戦闘中に戸惑い不利になる事を恐れてのことだった。だが、言葉を続けられない理由ができた。シーフの真剣な眼差しが、真っ直ぐにブレイドの眼に向かっていたのだ。その眼差しからは、彼がいかに真剣で、覚悟を決めているかがひしひしと感じられた。戦士の眼だ、そう思いブレイドは承諾した。ブレードライガーSSに装備してあるハイパードライブユニットを、イエーガーに貸すと。

「けど、ヘマはするなよ」

 帝国高速ゾイド乗りの中でもエースの腕を持つブレイド。その彼でさえ、ドライブユニットの加速力と操作性には苦労した。いや、未だにその苦労は続いている面がある。あのユニットは、機体に爆発的な推力を与える。最高速度がグンと上がる上に加速性も高い反面、身体への負担も並ではない。加速性の高いイエーガーに乗っているシーフにもきついはずだ。そう思ったからこそ初めは拒否し、承諾した今も注意するように呼びかけたのだ。

「・・・すまねぇ、今回限りだから。おーい、班長!人手を集めてくれ!」

 一言礼を言うと、調査部隊が共に連れて来た整備班の班長を呼び、作業に早速取り掛かってもらった。



「これより侵入調査を決行する。再確認するが、まず行ける所までシャドーフォックスの兵員輸送用コンテナで移動。ゾイド侵入不可の地点の到着し、2班に分かれて調査をする。先の構造は不明だが外形から察するに、そう広くは無い。外との交信は極力避けろ。やむを得ない場合は爆薬にて外壁を破壊し外へ脱出した後、ゾイドで輸送艦を破壊する。以上だ」

「特にショットガンは取り扱いに注意してくれ。いざって時に暴発しちまう」

「あまり使わないと思うが、後退の時にガードロボに追われてたら、センサー爆弾を使ってくれ。俺からは以上だ」

 作戦考案者のホーク、銃器提供者のバニッシュ、爆薬提供者のデュークからそれぞれ説明があった。この隊で生身の潜入戦をやるのは2度目。デスザウラーの居た基地以来だ。それだけに緊張や不安もある。

「あの時は2人ずつだったが、今度は4人ずつだ。心配しなくとも大丈夫だろう」

 ブレイドの発言が、皆の意識を高めた。肉弾戦で無類の強さを持つこの男が居る。それだけで、彼らには漠然(ばくぜん)とした安心感が溢れた。

「準備はいいな?では、出撃!」

『了解!』

 ホークの号令でコンテナに乗り込む隊員達。シャドーフォックス2機の腹部に取り付けられたコンテナに4人ずつ入り、フォックスは慎重に狭い地点まで皆を運んだ。途中に出没すると予想されるガードに対しブラッドのジェノブレイカーと調査部隊が護衛についたが、敵は全く姿を見せなかった。

「ここまで何事も無く済んで幸(さいわ)いだ。では、潜入開始!」

 その狭い通路はゾイドこそ通れないものの、歩兵が通るには十分だった。ホーク率いる第1班が先行し、ブレイドの第2班が後に続く。途中何度か折れ曲がったりはしたものの、施設やドアなどのものが見つからず一本道の廊下をただ歩いているようなものであった。

「入り口もなんにもないわね〜。これなら班に分けるコトもなかったんじゃない?」

「静かに。その入り口がある」

 ホークの推測では、最深部のここがブリッジになっている。コントロールルームを制圧すれば、後は分析なり何なりでき、我々の勝ちだ。だがそれだけに、慎重に行かなければならない。何か新たな防衛策があるのやも知れぬ。そこまで思い至った後、ホークは静かに呟いた。

「扉に爆薬をセットしてくれ。少し距離を置き、様子を見ながら進む」

 ホークの指示で素早く爆弾を設置するデューク。初めて見る人間もいるため、感嘆の声があがった。

「準備OKだ。下がってくれ」

 少し後退した所で、起爆スイッチを押した。爆炎こそ届かない位置だが、爆風は届いた。同時に振動も伝わったが、彼らはじっと爆煙の先を睨みつけていた。その先で何かが動いたのを、キースは見逃さなかった。

「何か居―――――」

 だが彼が言い終える前に、彼らを銃弾が襲った。一度壁に隠れて銃弾を凌ぎ、一番に飛び出したバニッシュは驚いた。そのガードロボットの形は、アナザーゾイドそっくりだったのだ。サイズは小さい。対人専用らしくコマンドゾイド並の大きさだが、武装は遥かに豊富だ。マシンガン、レールガン、電磁キャノン。各兵器をここまで小型化できる技術力に彼は驚いたが、すぐに銃を撃ち応戦にでた。

「何だよありゃあ!?」

「俺が知るか!」

 敵の姿に驚きながらも手に持った銃で攻撃を加えるキース、デューク。だが前面を分厚い装甲で覆っている奴に、サブマシンガン程度では全く歯が立たない。それをいち早く察知したホークは、バニッシュの用意した『とっておき』=『対ゾイド用ライフル』を構えた。

「三人とも、戻れ!」

 その言葉を合図に、バニッシュ、キース、デュークの三人が同時に手榴弾を投げた。数秒の後、爆発。煙からわずかに敵の姿が見えた時、ホークは引き金を引いた。強力な貫通力を持つ弾が直撃した、誰もがそう思った。だが弾は避けられていた。

「・・・!ナギサ、ショットガン用意!」

「え!?何なの!?」

「いいから早く!!」

 慌てて肩にかけたショットガンを用意するナギサ。それを構える前に、敵を包み込んでいた煙が吹き飛んだ。先程の下半身が戦車のように地についている状態ではなく、浮いていた。ホバーリングをしているのだ。そして下半身が変形し、2本の脚を地に下ろした。完全に人型になったのだ。

 そいつの左腕がら炎があがり、ミサイルが放たれた。自分達の所まで届いたら、確実に全滅する。そのデュークの意図を理解したナギサは、ショットガンを何度も撃った。全て撃ち落すよう、皆も手持ちの銃でミサイルを破壊する。ギリギリの所で相殺できた。だが爆風の向こう側から、敵が直接迫ってきたのだった。背中と腹のスラスターを使って。

「なッ!」

 こう近付かれては爆薬もバズーカも使えない。至近距離と言えど、ハンドガンでは役に立たなかった。

「バニッシュ、ガトリングガンよこせ!」

「バカ、兆弾するぞ!」

「よこせ!!」

 バニッシュから奪い取るようにガトリングガンを借りたブレイド。かなりの重さのはずなのに、ブレイドはそれを肩にかついで敵に突っ込んだ。

「きっと後ろが弱点だ!」

 確証は無い。だが前面にこうまで武装を施しては、後方用にまでエネルギーがいかないと思ったからだ。突っ込んでくるブレイドに気が付き、ライフルを向ける敵。そいつの気を、キースが決死の覚悟で引き付ける。両手にサブマシンガンを持ち、吼えながら乱射した。

「助かった!」

 ブレイドが敵の背中に回りこんだ。幸運な事に、背中に武装は無かった。だが腕の部分がレーザーソーになっており、その腕を振られた。間一髪、狙いがそれて壁に当たった。だがその壁を一瞬で切り崩し、ブレイドを狙う。何か確実な弱点はないか。ソーをかわした時、その弱点が見えた。コアブロックだ。どうやらこいつは、本当にアナザーゾイドと同じ構造らしい。ブレイドは迷わず敵の背中に飛びついた。2基のブースターの間には、実に3つものコアブロックが密集していたのだ。

「こうやってベッタリくっつかれちゃ、分離もできんだろう!?」

 コアに向けて、ガトリングガンをほぼ零距離で、フルオートでバラまいた。サブマシンガンとは威力がまるで違う上、弱点を突かれたのだ。銃弾の跡が無数に付き、ついにコアブロックは機能を停止した。と同時に敵の全システムも停止したようだった。情況を確認した後、安堵する皆。

「・・・終わっ・・・た?」

「念のため、全てのコアブロックを破壊しちまおう」

「いや、コア以外のブロックを破壊し、コア自体は回収する。役に立つかも知れないからな」

「イスに丁度いいんじゃない?」

 ナギサの冗談で、場の雰囲気が明るくなった。目立った怪我もなく、皆が無事。喜ぶ理由はそれだけで十分だった。ここからコントロールルームも見える。制圧が完了したのだ。

「応答せよ、こちらホーク。内部の制圧を完了した」

「ホーク!ならそっちからアナザー共に命令を出してくれ!こっちは攻撃を受けている!」

 声の主はブラッドだった。通信機越しに戦闘の音が聞こえる。それは潜入していた皆にも聞こえた。

「リース、解析できるか!?」

「10分下さい!」

 コアブロックの解析にも携わった事から、アナザーの基本的なプログラムはわかる。解析も全力を注ぎ込めばできる。それだけの技術と経験を持っていたからこそ、10分でできると言ったのだ。

「聞こえたか、ブラッド。10分もたせてくれ」



「皆、あと10分で解析が終わる!それまで耐えろ!」

 ブラッド、ロール、シーフ、ロベルト、ヘレン、クリスの6人はアナザーゾイドの攻撃に必死に耐えていた。敵機は6機。翼の付き方が変わりサイズも大きくなっている強化型シザースが2機、機敏な動きと火力を両立させ、こちらを撹乱(かくらん)する強化型ラギアが3機。それと一機、全く違うタイプのアナザーが居た。まるで悪魔(デーモン)のような雰囲気を漂わせる、人型の飛行ゾイド。頭部の角のようなアンテナが目を引く。

「っ、速い!」

 効果的な編成だった。シザースの低空飛行での突進攻撃は直撃こそしなかったものの、翼や頭部の機銃に苦しめられた。ラギアの機敏な動きから繰り出される格闘と射撃のコンビネーションはブラッド達を防戦一方に押さえ込み、アナザー側に勢いをもたらした。だがデーモンだけは攻撃には加わらず、空中でじっと静止していた。誰もがおかしいと思った。

「傍観者気取りはやめなさい!」

 ロールがストームソーダーのウイングソードを展開し、一閃しようとした。だがラギアの豊富な火器に動きを制限され、危うくシザースの突進攻撃の餌食になる所だった。間一髪で二つの攻撃をかわした頃には、デーモンはすでに移動していた。ソーダーのすぐ後ろに。

「なっ―――――」

 言葉を言う暇も無かった。幸いだったのは、デーモンに強力な格闘装備が無かった事。それとコアブロックの数の少なさ。その2つのお陰で致命傷は避けられた。オーガノイドシステムの再生力で何割かは修復できたが、それでも飛行能力は確実に落ちていた。最悪、足手まといにならないとも限らない。

「まだ戦えるか!?」

「なめないで!」

 シーフの言葉を突き放すロール。OSの影響のせいか、彼女は戦闘中に少し性格が変わるクセがあった。それをよく理解していないシーフは、戦闘の焦りもあり、勝手にしろと言い放った。そしてシーフは、ハイパードライブユニットのスロットルを開けた。

「くうっ!!」

 途端、彼の全身を強烈なGが襲った。まるで戦闘機の外に乗って風圧を直に受けているかのようだ。イエーガーで慣れている、そんなレベルで通用するものでは無かった。ちくしょう、ふざけんな。そんな言葉を吐き出しそうになるシーフ。ブレイドよりもガイアよりも身体が弱い彼に、突然のこのGは耐え切れなかった。必死の思いでスロットルを閉めた。とんでもない代物だ、そうシーフは思いいつもの戦い方に戻った。

「・・・・・・?」

 だがシーフはそこで、ある事に気がついた。広く展開した6機の自分達にアナザーは、まんべんなく攻撃を加えていると思っていた。特にシザースは突進攻撃の軌道も毎回バラバラ。だがシザースの軌道を思い出すと、すべてクリスにのみ近付いていないと判明した。何故だ?一応ラギアからの射撃目標にはされている(毎回シーフが弾道をそらしている)。だがアナザー達はまるで、サンダーラプトルだけには近付きたくないようであった。

「皆、待たせた。これからアナザーの活動停止を促す信号を送る」

 ホークからやっと連絡が来た。これで終わりだ、誰もがそう思った。だが何秒経っても、目の前のアナザーは全く変わらず攻撃を仕掛けてきたのだ。

「ホーク!信号が届いて無ェぞ!?」

「そんな筈は無いのだが・・・何かあるか、リース」

「活動用プログラムが、アナザーゾイドの一機から出ています!」

 何と言う事だ。輸送船を介さなくとも、アナザーゾイドは母船からの戦闘プログラムを直接受信し、戦況を送信できるのか。誰もがそう思い、落胆した。だが何名かは疑念を抱いた。そんな事ができるのなら、普通は既にやっているだろう。そうだとすると、輸送船以外にも母船とアナザーとを介する物がある筈(はず)だ。しかも自分達のプログラムを無効化できる物。そいつを探す。別に上空に居る輸送船かも知れない。ホークは制圧した輸送船のカメラを使い、空に目を向けた。

「クリスちゃん、上、通るわよ」

 ロールの声と共に、再び攻撃態勢に入ったソーダーがラプトルの近くに迫った。だがそこで、ソーダーに異常が発生した。速度がいつもと違う、高度も落ちている。はじめは先程の損傷によるものと思い、マニュアル操作で修正しようと試みた。だがいくらスティックを引いても愛機が上昇しない。

「マ、マグネッサーシステムが全機能停止!?」

 本来マグネッサーウイングから発せられる強力な磁力反発で飛行ゾイドは飛んでいる。だが今、その機能が全てフリーズしているのだ。物理的故障では説明のつかない事態だった。

「何やってんだ、ロール!?」

 シーフはその光景を見ていた。このままいくと、ラプトルにソーダーが激突するコースだ。それに、いつもの翼の輝きが見られない。飛行中、マグネッサーシステム作動中に見える輝きが、だ。システムフリーズか、と疑った。

「このままじゃ、墜落・・・?」

 せめてラプトルは避けなければ。その思いでどうにかソーダーの姿勢を制御し、コースをそらす。だがシステムは回復しない。ロールの思考を死の恐怖が襲った。

「い、嫌ぁぁぁ!!」

 その声に振り向いたブラッドだが、間に合わない。シーフも、見てはいたが把握とスタートが遅過ぎた。誰も間に合わない。

「間に合わせろカスタムUゥ!!」

 その彼らの間を、青い物体が弾丸のような速さで駆け抜けた。それが何なのか皆が認知した時、それはEシールドの出力調整と相対速度を利用してソーダーを背でキャッチしていた。恐怖で目をつぶっていたロールは、思いのほか弱い衝撃を感じ自分が死んだと一瞬思った。

「シーフ、ロールを少し頼む。アナザーは6機だけだな?」

「あ、あぁ、そうだが・・・・・・お前、帰って来たのか?」

「俺以外に、カスタムUを操れる奴が居るか?」

 薄れた意識の中、ロールは二人の男の声を聞いた。一人はさっきまで共に戦っていた。だがもう一人の声は、違う・・・・・・。

「まず一機!」

 ガイアは一瞬エネルギー残量に目をやり、ハイパードライブユニットを稼動させた。爆発的な加速力はら生み出される運動エネルギー。それにストライクレーザークローを加えた速度と破壊力で、分裂の間もなくシザースを撃破。すぐにもう一機も破壊し、まず航空戦力を奪った。残るは射撃を繰り返すラギアと、能力も謎のデーモンの計4機。

 その様子を、シーフはじっと見つめていた。同じユニット、ハイパードライブユニットを使っている筈だ。いや、基本出力が強化されている分、カスタムUの方がイエーガーのものよりも、更にGがきつい筈だ。なのにガイアはそれを全く感じさせず、一瞬で敵機を葬った。これが、自分とあいつとの決定的な差なのか。そうシーフは落胆した。

「貴様の角、指揮のためと見た!」

 ガイアのその声に、皆が一斉にデーモンの方を向いた。するとまるでガイアの言葉を聞いたかのように、デーモンが動いた。観念したかのように、組んでいた腕をゆっくりと解き銃の照準を合わせている。

「ガイア、ヤツがアナザーへプログラムを送ってるのか!?」

「ビンゴ♪」

 再びカスタムUが加速した。デーモンに一直線・・・では無く、わずかだが右にずれている。それを皆は整備を受けていないための誤差だと思い、デーモンは別のアナザーを狙っている、もしくはギリギリで方向転換し突撃を仕掛けると判断した。

「・・・貰う!」

 デーモンの推測は後者が当たっていた。カスタムUはレーザーブレードを展開し軌道は変えなかった。直前まで引き付け、ブレードが当たる部分だけを分裂させる。だがそうやってブレードを避けたデーモンは、背中から溶けた。ハイパードライブユニットが排出する熱エネルギー(イオンブラスター)を浴びたのだ。かろうじてコア一つは残ったが、本来の機能の殆どを失っていた。そして振り返ったカスタムUにそのコアさえも噛み砕かれた。

「ホーク!」

「わかっている!」

 デーモンが破壊されたのを見届けたシーフの声と同時に、ホークが再びアナザー停止のプログラムを送信した。すると今度は、効いた。残っていたラギア3機が沈黙し、ラグナロック隊は勝利したのだった。



「・・・お疲れ、カスタムU。すぐに補給してやるからな」

 一番最後にキャンプ内の格納スペースに愛機を停止させたガイア。その愛機から降りたガイアには(たった一週間だか)何もかも懐かしかった。その懐かしい者の一人、キースが目に映った。

「キース、留守にしてた間はスマンかったな」

「・・・それよりも、ガイア。お前にはやる事があんじゃねェのか?」

 キースの声には何か気持ちが含まれているような声だったが、ガイアは気付かなかった。

「あぁ、カスタムUの補給もあるし、暫(しばら)く居ない間に俺が考えたコトを―――――」

「そうじゃねェだろう!?」

 突然キースが怒鳴り声をあげた。ガイアへ向かって一直線に走り出したと思うと、力任せなキースの拳がとんできた。突然の事に戸惑いながらもガードするガイア。だがキースの攻撃は2発、3発と続いた。戸惑いとキースの猛攻により、ガードし続けるガイア。

「お前はあの子に、ロールちゃんに真っ先に会えよ!」

 だがキースの口からロールの名が出た瞬間、ガイアの動きが止まった。何かにハッと驚き思考が停止しているかのようだ。そしてガードのできないその身体に、キースの気持ちのこもった拳が炸裂した。

「うっ!!」

 拳の当たった腹を押さえてかがんでしまうガイア。咳(せ)き込む彼にキースは容赦(ようしゃ)の無い蹴りを加えながら怒声を浴びせた。

「あの子はなぁ、お前を信じて待ってたんだぞ!?お前が無事だって信じて、でも心のどっかにお前が戻って来ないとか、そんな想像があって・・・・・・それでもお前を待ち続けてたんだぞ!?」

 ガイアは震えていた。痛みでも、咳(せき)のせいでも無い。キースの言葉に、ロールの想いに震えていた。そしてキースは攻撃の手を止めた。そして膝(ひざ)をつきかがみ込んだガイアを見据え、自分の想いを吐き出した。

「こんな事なら、俺があの子を慰めてやりゃあ良かった・・・・・・お前なんか忘れさせてやりゃあ良かった!!」

 そこまで言った時、ガイアが立ち上がった。と同時にキースに殴りかかっていた。それを待ちわびたかのようにガードするキース。ガイアの表情が先程とは全く違う。キースを睨(にら)みつけるその表情の奥に、一つ吹っ切れたガイアが居るのをキースは感じた。

「お前にも、誰にもロールは渡さん!」

 今度はガイアが攻撃をする番だった。キースよりは軽いが、速い上に的確にスキを狙ってくる突き、蹴り。キースは無表情でそのラッシュを受けていた。何かを隠し、何かを待っているかのように。

「ロールは俺が・・・俺が幸せにする!」

 ガイアの精一杯の想いと共に突き出された拳は、今までとは全く違う重さをもっていた。しっかりガードしたはずのキースでも受けきれず、ダウンしてしまった。キースは一瞬、ガイアの追撃を覚悟した。だがガイアはそれ以上の攻撃をしなかった。自分の言った事に、少なからず動揺していたからだ。

「・・・そういうコトは、本人に言ってやれ。そこの通路を曲がったトコで待ってるぞ」

「・・・キース、お前まさか・・・・・・いや、ありがとう」

 問いかけをやめ、ガイアはキースの指差す通路に走った。これから始まる何かに想いを馳(は)せながら。ガイアには、キースがなぜあそこまで感情を丸出しにしてきたのかが何となく理解できた。自分とロールの関係を察しての事だったのだろう。ガイアはそう思ったが、それがキースの全てでは無かった。

「幸せにしてやりな、ガイア」

 キースはその背中を眺めながら、ポツリと呟いた。そしてガイアの拳が当たった個所を押さえながらゆっくりと立ち上がった。

「イテテ、あいつ強くなったな・・・・・・ケッ、酒でも呑まねーとやってらんねーよ」

 キースはロールに惹かれた。それが彼をガイアへの激励に駆り立てた本当の理由である。彼女の容姿だけでは無い。一つ一つの動作、一生懸命な性格、そしてガイアを想うその気持ち。全てに惚れた。彼女を心の中で愛した。たとえガイアという、彼には敵わない者が居たとしても。その未練がましい想いをズルズルと引きずって来たある時、そのガイアが居なくなった。それをチャンスと思う自分と、思わない自分がキースの心に存在した。葛藤の末に彼が出した結論。それが、ガイアとロールの幸せだった。だからガイアにああ言ったのだ。それはキースが自分の中でケジメをつけた結果。ロールを完全に諦める事の表れだった。



 キースの言った通り、ロールはそこに居た。格納庫から司令室に向かう通路の真ん中に、ロールは俯(うつむ)き加減で立っていた。ガイアが彼女を認識した時、ロールも足音に気付き顔をあげた。悲しみ、驚き、怒り。そんな感情の入り混じった複雑な顔だったが、すぐにガイアからその表情は見えなくなった。彼は一度止めた足を再び走らせ、彼女を抱きしめたのだから。

「・・・ガ・・・イア?」

「今、帰った・・・」

 その直後から、ロールはもう何度流したかわからない涙をこぼした。それに驚き腕を緩めたガイアの胸に、握り拳に変えた両手を何度も叩きつけた。もう今の、今までの気持ちを言葉や涙だけでは表し尽くせなかった。気持ちを制御する事も力をセーブする事も、彼女にはできなかった。

「バカ・・・バカバカ!ガイアのバカ!」

「・・・俺は・・・」

 ガイアは再びロールを抱きしめた。先程よりも強く、けれども彼女が痛がらないように。そして彼女の耳元に自分の口を近付け、暫(しばら)く離れていた事は謝る、と囁(ささや)くように言った。そして彼は続けた。

「でも、仕事だと抑えていても・・・俺は、ロールが居なくて寂しかった!」

 先程とは違うが、ガイアの精一杯の言葉。ロールはただそれだけが聞きたかった。

「私も、寂しかったんだからね・・・・・・ガイアはもう居なくなっちゃうんじゃないかって思って、それで・・・・・・いっぱい嫌な思いしたんだからぁ」

 そこまで言うと、ロールの涙は絶頂を迎えた。今まで流した中で、一番多いかも知れない量の涙を。そしてそれを全て、ガイアの胸が受け止めた。

「でも、帰って来たのよね・・・」

「あぁ、ロールの元に」

 今のガイアに怖いものは無かった。恥ずかしさも吹き飛んでしまった。それはロールも同じで、二人が互いを見詰め合った後の行動がそれを証明した。彼らの、初めてのキスが。

「・・・・・・」

 無音のひと時。それを噛み締めるかのように、二人のキスは長かった。やがて名残惜しそうにゆっくりと唇を離した時、二人の顔は火のように紅潮していた。



「・・・ロールとガイアもついに、かぁ・・・こりゃヘリオウィンダム隊の人達、ショックでしょうね〜」

「まだまだだな。キスってのはもっとこう・・・」

「あっ・・・・・・んん・・・」

 そのすぐ傍で、覗きに来ていたデュークとナギサがイチャついていたのには二人とも気付かなかった。互いに夢中であったために。



「・・・いやー、皆に面倒かけた!スマン!」

 満面の笑顔で謝るガイアに隊の皆は少なからず恐怖した。こんな笑顔は今までに一度たりとも見た事が無い。普段から彼はよく笑っていたが、こうまで幸せそうにしているのは初めてだった。

「随分とお幸せそうで、何よりですよ」

 ブラッドが皮肉を込めて言った。彼は、いやここにいる隊員達は全員知っていた。先程ガイアとロールの間に何があったのかを。デューク達が言いふらしたのだが、いつの間にか話に尾ひれが付き誤解している者も居た。ブラッドもその一人だった。

「ガイア、この一週間の間にアナザーゾイドに2回襲撃を受けた。この短い間隔から、異星人との戦いの終わりが近いと思う。お前はどうなんだ?」

 一方、恋愛事には全くと言っていい程興味を持たないホークは冷静に尋ねた。意見を求める事と、今まで何をやっていたかを尋ねる事。二つの意味が含まれていた。ガイアは前者にはすぐに答え、後者にはもったいぶって答えた。

「正確なタイムリミットはわからないが、もう時間は無い。俺の考えている事が奴等の真の目的ならな」

 これはあくまで自分の推測に過ぎない、と前置きを入れた上で話を進めた。その話は、彼らの中でこれまでただひたすらに戦い抜いてきた者はもちろん、データ解析やウイルス構築に携わった者でさえ驚愕の意を示すような話だった。

「そんなっ・・・異星人は、この戦いを育成ゲームとしか見ていないの!?」

「そういう事だ。理想の力に育て上げて手に入れる。畑か農場のようだな」

「他人事じゃねェんだぞ!」

「わかっている」

 にわかには信じ難(がた)い。これまでの襲撃がただの『レベル上げ』で、異星人は自分達やゾイドを自分好みに『育てる』行為だった。帝国との戦い以上に緊迫して戦っていた自分達が弄(もてあそ)ばれていたのだ。アナザー対策に努力を費やしてきた自分達を否定されたような心情だった。

「一つ疑念が残る。『軍の拠点を砲撃したのは異星人への恐怖を呼び起こす事』と先程聞いたが、ルシェミー王国の件は何の為だ?」

「それはロールが知っている。ロール、さっきの戦闘中に墜落しそうになった原因は?」

 ガイアの声に合わせて一同の視線がロールに集中する。実際に現場に居たのはこの内の半数だったが、話は聞いていた。もっとも戦闘終了直後にガイアとのひと時を楽しむ彼女に直接聞いたわけではないため、誰もが知りたがっていた。

「・・・クリスちゃんのラプトルに近付いた時、マグネッサーシステムがダウンしたの。後でウォーラスを調べたけど故障じゃなかった」

 静かな会議室の中に、ロールのはっきりとした声は響いた。それは整備不良や故障ではなく、他に原因があるという意思の表れ。愛機の不調では無い、愛機を信じるという気持ちの表れだった。

「そこから俺は考えた。『ルシェミー王国のベロキラプトル型ゾイドは特殊能力を持ち、自分の周りのマグネッサーシステムを無効化できるのではないか?』とな」

 しばしの間、ざわつく隊員達。無理もない。マグネッサーシステムで飛行する野生ゾイドは居ても、発生させる磁気風を無効化するゾイドなど考えもしなかったからだ。無論、ガイアにも確証があったわけではない。彼が話している事全体に、確証はない。だが現時点で最も合点がいく、と隊員達は次第に納得した。

「俺はその説を信じる。さっきの戦闘でも、飛び回ってるヤツはラプトルにだけ近付かなかった」

「シーフ、そうか・・・もしこのサンダーラプトルについての説が正しければ、クリスのラプトルは異星人の天敵になる唯一のゾイドだ。だから異星人はあそこのラプトルを攻撃した」



 ガイアの説明が終わるとすぐに、サンダーラプトルの調査が始まった。ガイアの説を実証するためだ。実験に時間はかからなかった。ロールのソーダーだけでなく、調査部隊のプテラスやレイノスが近付いても、マグネッサーシステムは作動しなかった。そしてもう一つ。解析し再プログラムした事で武装として使用できるコアブロックとアナザーの武装。コアブロックを起動させたラプトル近づけると、コアブロックはその機能を停止。武装との連結も解かれてしまったのだ。

「・・・本当にそうなのか・・・・・・」

「信じられない・・・・・・アナザーに天敵が居たなんて」

 ついに惑星Ziは、異星人に対しての有効な戦力を手に入れたのであった。たった一機のゾイドが戦局を動かす。そんな数十年も昔の事が現実によみがえりそうな、そんな期待感が彼らの間に生まれた。



第十話 終わり




←前 戻る 次→