第九回 敵同士の二人
「・・・コレは?」
「それはシロマンゴウモドキ。よく似た実をつけるけど全く違う植物で、果実も有毒」
ガイアとリオは森に入り、食べられそうな物を探していた。森の中には果物やらキノコやらが多く自生していたが、ガイアがそれを取ろうとするとリオが制止する。彼女には専門的な知識があり、有毒植物等を見分ける能力があった。
「このキノコ、さっき言ってたうす茶の輪郭があるけど?」
「でもカサの下に黄色い斑点があるでしょ?それは突然変異が増殖したもので、食べると体調を崩すのよ」
「そっか・・・それにしても、よく分かるなぁ」
リオの方を向いて屈託のない笑顔で話すガイアに、彼女は顔を背けてしまった。
「薬品系が得意だからね、私は。薬の材料にもなるし」
リオがそっぽを向くので、ガイアはそれ以上言わなかった。そして辺りを見回した。森はまるで果樹園の如く果物がなっていたが、リオはこの殆(ほとん)どが有毒だと言った。確かに、あからさまに怪しい色だとか形だとかの物もある。だが、大抵は普通に目にする食材と何ら相違点は無いように見える。もし自分一人だったら、10分前に毒にあたって死んでいるだろう。それを考えると、協力がいかに大切かを改めて思い知らされた。
数十分後、二人は食料を持って森から出てきた。それからはガイアのキャンプ用具で簡単な調理を行い、二人で食べた。
「あ〜、んまかった!やっぱり自然の食品は一番だな」
「えぇ。でも調理器具があって本当に助かったわ」
「それなら、その料理の腕に俺は助けられたな。料理上手なんだな」
「えっ・・・」
軍に志願してからというもの、人から料理の腕を誉められた事などなきに等しかった。実際、作っても食すのは自分一人。人に食べさせる機会がなかったのだった。それだけに、嬉しい。感情が隠し切れず、笑顔が出てしまった。
「あっ、やっと笑った」
ガイアがそう言った瞬間、先程までいた森で大きな音がした。キュゥンという、飛行ゾイドが空を斬るような音だった。
「・・・確かめてくる。お前はここに居ろ」
「ううん、私も行く」
「そうか。悪いが事態は早急に把握したい。遅れるなよ!」
そう言うと、ガイアは駆け出していた。音のした方向に向かって真っ直ぐに。慌ててリオもその後を追う。
「・・・クソッ、すぐ近くまで来てたのか・・・」
ガイアとリオのすぐそばに、長大な砲塔をくわえたゾイドがいた。アナザーゾイドだ、とすぐにわかった。コクピットがなく、胴体が四角いブロック状のものを連結させている。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・あれが敵?」
リオは息を切らしていた。ガイアについていくには、ほとんど全速力で走らなければならなかった。リオは華奢(きゃしゃ)な体つきながら、基礎体力のトレーニングもキチンと行っている。だがガイアの体力は、レベルが違う。カスタムUを乗りこなすために鍛え上げた身体には、並大抵の者では追いつけないのだった。
「あぁ。魚と・・・なんだろうな?だが合成獣、キメラでもある」
機体色は、アナザー共通のグレー。広い額と太いひれを持ち、魚のような尾がついている。口にあたる部分には長砲身の砲撃装備が一つ。空中を飛行しているのではなく、浮遊している。何かを探しているようにも見える。
「レールガン持ち、か・・・」
そこまで言った時、アナザーがクルリと地表で方向転換した。巨大な樹木がなぎ倒され、その一つが二人の上に覆い被さろうとしていた。
「ンのやろォ!」
ガイアが気合を込めて木を蹴り飛ばした。砕けはしなかったものの、倒れる方向を変えるには十分な威力だった。間一髪の所で二人は助かった。だが、アナザーがその二人に気付いてしまったのだ。目を光らせ、二人をそのレールガンで狙う。
「くっ!」
ガイアはリオを突き飛ばすと、自身も横に跳んだ。刹那、二人のいた地面をレールガンの砲弾が吹き飛ばした。
「お前は戻って、自分のサイクスを起動させろ!」
「え!?」
「俺が時間を稼ぐ!」
素早く立ち上がり、拳銃でアナザーを撃ちながらガイアが言った。だがゾイドに拳銃程度の武器が通用するはずもなく、アナザーはガイアに狙いを定めた。それが目的だった。レールガンが放たれる直前、銃口がわずかに光る。それを合図に全力で跳ぶ。大丈夫だ。これなら、じきに弾が切れる。そうすれば撤退するなり、体当たりを仕掛けるなり。現状よりはこちらに有利になるはずだ。
「早く行け!このまま死にたいのか!?」
ガイアの怒声に蹴られ、リオは来た道を全速力で駆けた。ガイアはそれを確認すると、時々光る目の部分に向けて拳銃を撃った。
「だがまずァ、状況を良くしねェとな・・・」
リオが全力疾走で愛機の元に帰り、起動させて撤退するまでおよそ10分。その時間を稼いでやる。あんまり話はできなかったが、あいつにも死んで欲しくない。こういう森に隠れて救援を待ってるのだから、サイクス一機でアナザーと渡り合えるかどうかは自覚しているはずだ。
だが犠牲になるつもりもない。異星人の存在が確認された頃、兵員誰もが未知なる兵器を恐れたという。だが、そんな別次元のものじゃない。確かに自分達より上の技術レベルだが、基本は現代兵器と同じだ。今まで戦場で生き残り培(つちか)った身体能力、観察能力、そして勘(かん)。それで何とか生き延びる。主砲とおぼしきレールガンが弾切れを起こせばどうにかなる。もっとも、それまで体力がもてばの話だが。
「!!」
ガイアは全速力でアナザーの真下に潜り込んだ。レールガンだけでなく、機銃も装備されていた。アナザーを再度見直した時、見えた。案の定、レールガンでは当たらないと判断したアナザーが機銃掃射を始めた。ガイアの動きを学習したのか、今度はどう動いてもピッタリとくっついてくる。機械の意表を突けない。まずい、当たる。
だがアナザーは突然砲撃を止め、分裂した。その隙間をレーザーが通り過ぎた。ガイアはそのレーザーが撃たれた方向を振り返った。そこには、ライトニングサイクスがただ一機、たたずんでいた。リオだと確信した。
「これであなたが行方知れずになったら、気分が悪いじゃない」
マイクと外部スピーカーでガイアに語りかける。だがその声に余裕はない。すぐにアナザーの砲撃が再開された。今度はサイクスに向かって。
「(・・・ま、何とかなるっしょ)」
だが機銃なら大した事は無い。レールガンさえ避けていれば、致命傷は避けられる。死ぬ事はない。リオはそう思った。そして心の中で、自分を励ます口癖(くちぐせ)を呟いた。
「さァ、今度は私が相手よ!かかって来なさい」
自分を奮い立たせるように、リオが大きな態度で叫んだ。それに呼応し、アナザーは攻撃の手を一挙に強めた。断続的だったレールガンが連射モードに変わり、機銃はフルオートで弾丸をばら撒く。さらに敵は半月形の頭を自ら発射した。横からレーザーカッターが顔を出し、思いもよらないスピードでサイクスを襲った。
「んっ!」
首を狙ったその攻撃をかわしきれず、右肩がやられた。右の前足が根元から落ちてしまった。その上体当たりを受け宙を舞うサイクス。二度目のカッターを今度は尾に受け、さらに本体の体当たりも受け大地に叩きつけられた。
「かはっ・・・」
ひどい衝撃。高速戦闘にもなんとか耐えられるリオだが、クラッシャーテイル並のこの打撃までは耐えられない。頭を強く打ち、意識が朦朧(もうろう)としている。何とか立ち上がろうとするが、操縦桿を握る手にも力が入らない。大見得きって挑んだのに、ひどい様(ざま)ね・・・。自分でそう思った。目の前に、アナザーがいる。三度カッターを使い、ついにトドメといった所か。死を覚悟し、目を閉じて最後の瞬間を待った。
「諦めるな!」
その怒声に驚き目を開けると、正確にコクピットを狙って発射されたカッターが四散した。敵の頭部ごと、粉々に。その光景を呆然と見ていたリオだが、ハッと我に返り全周波数に向けられている通信を聞いた。
「無事か!?」
大きく返ってきた声は、まさしくガイアのものだった。そして見ると、彼は愛機に搭乗している。彼女のいるネオゼネバス帝国軍内で最も警戒されているゾイドの一つ、青の閃きが自分のすぐ傍にいるのだ。
「お陰で機体の所まで戻れた・・・今度は俺が助ける番だ!」
そしてカスタムUは走り出した。あの重武装からは考えられないダッシュ力。すぐに高く跳躍し、アナザーに向かってグレネードランチャーを撃った。通常弾ではなく拡散弾頭に換装してあり、直撃したもののダメージは薄いように見えた。だが一瞬だけひるませた。そこにレーザーブレードがきたものだから、アナザーは分裂しか手立てがない。その分裂の直後を、ガイアは狙っていた。ブレードを避けられれば自分は通り過ぎ、満足に動けない自分をアナザーが後ろからレールガンで狙い撃ちとする。そしてアナザーは、思った通りに動いた。銃口はまっすぐに、こちらに向かっている。
「(・・・今だっ!)」
レールガンから弾が撃ち出されようとした瞬間、斜め下からレーザーの直撃を受けてアナザーは沈黙した。2本のパルスレーザーライフルは胴体を正確に撃ち抜き、コアブロックの機能を奪い去った。そのまま落下し、レーザーを撃った張本人・リオの前でパーツに砕けた。もう動かないのを確認し、彼女はホッと胸を撫で下ろした。
「ナーイス!」
ズズンと大地を揺るがして着地したガイアから、気楽そうな賞賛の声がきた。機体を歩み寄らせ、自分のコクピットを開けて己も地面に降り立った。
「・・・・・・」
リオも機体から降りたが、無言のままだった。ガイアをじっと見つめたまま、無言で近寄る。手を伸ばせば互いの顔に触れられる程の距離まできて、リオはようやく言葉を発した。
「その・・・アリガト」
「ん?いや、助けられたのは俺の方だ。こっちこそ、ありがとう」
その後キャンプ地点まで戻った二人は、リオと彼女のサイクスの応急手当てをした後、就寝する事にした。一日三食などはこの状況では無理だし、戦闘とその処理で日が暮れてしまい、森に入るのは危険だと判断したからだった。
「・・・寝袋まで持ってるなんて、用意がいいのね」
「まーな。あ、テントの中にカイロがあるから、ちゃんとあったかくして寝ろよ」
まだ夏とはいえ、夜になれば想像以上に冷める。昼夜の気温差が激しいこの地方に配属されているぶん、温度調節にも余念がなかった。リオに寝袋とテントを貸し与え、自分は予備の毛布に包(くる)まると焚き火の前に座った。正直言って、寒い。だが細い体つきの女より自分を優先する気には到底なれなかった。
「・・・あー、今日は色んなコトがあったなー・・・」
毛布に包まったまま横になり、うつらうつらと眠気が彼を襲ってきた。ここ最近マトモに寝ている事も少なかった上に、今日一日のイベントの多さ。さすがに疲労もピークに達し、そのままガイアは眠ってしまった。
リオはテントの中で、今日一日を思い返していた。早朝ガイアと出会い捕獲され、共に食事を取って、アナザーとの戦闘。この一日を経て、自分と相手は互いに戦争での敵だという事を、リオに忘れさせたあの男。なぜか不思議な魅力があるようにも思われた。それと、今日の戦闘。脚一つ失い移動もほとんどできない上に、射角の狭いレーザーライフル。その射程内に、狙い撃ちできる動きをさせてアナザーを誘い出す事をやってのけた。手柄を自分に譲ったが、あの男一人でも十分勝てたろう。噂を信じる性分ではなかったが、目の前で見せ付けられては信じる他ない。
『青の閃きは、連合最強だ』
「・・・戦争、か・・・・・・」
ガイアの言った『殺し合う必要なんて、ないんだ』という言葉が彼女の頭にちらついている。敵を倒せば、自分達が最強だと示せばこの星は治まる。そう思っていた。だがそれまでには、数多くの犠牲が必要だ。敵も味方も、双方の多大な数の人とゾイドが死ぬのだ。それは憎しみへと変わる。そして憎しみは新たな憎しみを生み出す。そうまでして最後に残るものは、一体何なのか。その問答が頭の中で、繰り返される。
「・・・・・・」
リオは眠りについた。カイロと寝袋の暖かさのせいだろう。そしてガイアをありがたく思いつつ、リオも夢の世界におちていった。
翌朝ふと目を覚ましたリオは、テントの外に出た。自分の愛機も、青の閃き(=カスタムU)もちゃんといる。そしてガイアは、寝ていた。燃え尽きた焚き木を前に、スースーと寝息をたてている。余程疲れていたのだろう、彼女が近寄ってもまったく反応しなかった。ただ一つ。寝言が聞こえたのだ。
「・・・ー・・・ル」
だが全部は聞き取れなかった。好奇心が先立ち、耳を近付ける。すると布団の中でモゾモゾと動き、にゅっと出た片腕が彼女の細腕を引っ張った。意表を突かれた事と崩れた体勢のせいでそのままガイアの上に倒れこんでしまうリオ。さらにガイアの腕は動き、立ち上がろうとしたリオを抱き寄せた。
「き、きゃ・・・」
「ロー・・・ル・・・・・・好きだ・・・」
何もかもがいきなりで、悲鳴をあげるのも無理はない。だがその声は、ガイアの寝言と同時に止まった。どうやらガイアは、自分を誰か別の女性と間違えているらしい。寝ているのに抱いて愛の告白をするなど、けっこう深そうな仲だと思った。そう思うと何となく身の危険を感じ、なおも自分を抱き寄せる腕をほどいた。
「・・・青の閃き、か・・・・・・」
自軍、特にこの地域に配属されている戦友の、ほとんどが恐れているライガーとそのパイロット。そいつも普通の男で、普通の人間なんだ。完璧な人間なんていないし、何もできない人間もいない。そんな当たり前の事すら忘れていたリオにとって、珍しい男に思えた。その寝顔を見ていると、戦場すら忘れさせる。無防備なその寝顔を今一度見て、リオは一瞬だけ全身の血が止まったような感覚に襲われた。その次の瞬間から、まるで激しい運動をしたかの如く脈が激しくなった。
「えっ、えっと・・・そ、そう!朝ゴハンよね!」
自分の身体の反応に心当たりがあるリオはその想いを必死に振り払い、とにかく仕事をする事にした。
そこからしばらく離れた地・アテナ基地では、唯一駐屯していたヘリオウィンダム隊が、壊滅の危機に襲われていた。謎の高機動ゾイドの襲撃から二日経った。負傷した仲間の容態も安定し、戦闘員20名は全員生き残る事ができた。だが・・・
「フゥ。まさか全機やられてるとはな・・・」
ラミディムが、報告書を読みそう言った。報告は悲惨なものだった。ブレードライガー20機、全機使用不能。いずれもゾイド核を破壊された、と。すぐに新たな乗機を補給しなければならない。もし今この基地が攻撃されれば、まともな戦力はラミディムのゴジュラスただ一機なのだ。
「司令部に、最優先での補給を要請した。モリス少佐以下パイロット全員は、怪我の治療に全力を尽くす事。以上だ」
深く静かに息を吸った後、低くラミディムがそう言った。事が事なだけに、そう明るい声で言えたものではない。それを察してか、レベッカが深く頭を下げた。
「・・・数々のご配慮、有り難く存じます」
「そう意識するな。上に立つ者として、当然の事をしたまでだ」
その優しい言葉が、レベッカの心にしみた。かつてガイアは、ラミディムに鍛えられていた事をレベッカは耳にしていた。師匠のこの優しさが、弟子にもしっかり伝わっている。そして、師弟両方からその優しさを受けた。
「・・・あの高機動ゾイドの方は、シャドーフォックスをはじめとする機動偵察部隊が調査している。情報が入り次第、ここにも届けるよう言ってある。だが・・・ココの防衛をする部隊までは送ってくれんらしい。一部のカタブツが、この戦況で向こうはもう動かないなんて言って居やがる・・・・・・まぁ、もしまた攻撃があった場合には私が出て何とかするつもりだ。だから少佐は、心配せんでも良い」
優し過ぎる。これだけしてもらっているのに、自分はあのような醜態(しゅうたい)しか晒(さら)せなかった。その後悔の念と、愛機を失った悲しみに耐え切れなくなるレベッカ。それでも人の前だと自分を抑え、必死に堪(こら)えている。
「少佐」
「何でありましょうか」
「・・・泣きたい時にゃ、泣いとくべきだ。時にその涙が、強さに変わる」
しばらく、二人の間に沈黙が流れた。やがてレベッカがゆっくりと口を開くとこう言った。
「・・・ありがとうございます・・・でも、私は大丈夫です。隊の皆が無事ですから」
その言葉を静かに聞いていたラミディムは、その後この話題に触れる事は無かった。レベッカが自分の中で、精一杯しぼり出した言葉だろうと思ったからだった。
「それと、ガイア・・・失礼。シュリナス中佐の件だが・・・あいつの事だ。すぐに隊に復帰するだろう」
ラミディムは自分の教え子の事を名字ではなく呼び慣れた名前で思わず言ってしまったが、相手が教え子以外なので慌てて訂正した。彼も、公の場では教え子を一人の部下として、兵士として扱う。それを心に決めていた代わりに、プライベートの時には親しく名前で呼ぶ。だから教え子達に好かれていた上、教え子達もラミディムと同じように自分達の部下に接してきたのだ。
「えぇ、そうですね」
ガイアが行方不明になった事は、この基地の誰もが知っている。かつての空爆の際に最も早く駆けつけ、敵指揮機をあっという間に倒したのだからだ。年齢と階級のミスマッチ、人柄の良さ等での人気も高かった。そしてその戦いぶりには、誰もが心躍らせた。その人物が行方不明というニュースはすぐに伝えられ、広まったのだった。
「それでは、失礼します」
「おーう。大事にな」
部屋を出たレベッカは、駆け出し、自分の部屋を目指した。だが間に合わず、もう涙はこぼれていた。その滴(しずく)を一滴一滴落としながら自室に着くと鍵をかけ、少し泣いた。死なせてしまった愛機への想いと、ラミディムの暖かさ。中佐が居てくれれば、事態は変わったかも知れない。そう思う自分が少し情けなかった。どうしても頼ってしまう、あの人。だが彼さえも、この激戦の中で行方不明。生きていて欲しいと思うが、最悪の事態も考えてしまう。そんな自分を戒(いまし)めた。
ガイアとリオの共同生活か始まって早や五日。あの日以来アナザーを見かける事もなく、ただ二人で野営をしているだけ。だがガイアは自分でまとめた異星人に関する書類を、幾度も見直していた。
「・・・ダーメだ、全くわからん」
「ガイア?お昼はあなたが当番じゃなかったっけ?」
「おぉ、スマン」
今の所、二人で同じ釜の飯を食べている。仲も、以前より良くなった。リオも自分を名前で呼んでくれるようになった。以前は専ら『アンタ』だった。だが名前に変わってから、リオがこちらに対し一定の距離を保っている。何かしたかな、俺・・・。そう思いながら、ガイアが唯一作れる料理、『おにぎり』をにぎる。白米ではなく玄米だが、白米と比べリン・鉄分・ビタミンB1等の様々な栄養源が豊富だ。食料として沢山積んでおいて良かった。そう思っていた。
だが玄米まで出してしまった。これはガイアが現在所持する中でも貴重度の高いもの。つまり残りも少なくなってきた、という事だ。このペースでは、もって残り四日。すでに半分以上を二人で食べ尽くしていたのだった。
「(・・・麦飯の方が握りやすいなー・・・)」
苦心しながら玄米を数個の握り飯に変えるガイアの傍で、リオは黙々と何かを読んでいた。ふと見ると、それはガイアが先程まで見直していた資料だった。だが、すでにリオに自分の持っている情報を口伝(くちづ)てではあるが公開していたため、そう気にする事でもない。余計な事は考えず、手の動きに集中した。やがて6個の玄米お握りが出来上がり、二人は昼食に取り掛かった。
「・・・さっき見せて貰ってた資料だけど・・・自分でまとめたの?」
「あぁ、その通りだ。まったく、厄介なモンを持ち込んでくれたよ・・・」
その返答に、リオは少し驚いたような顔をし、彼の意見に同意した。
「向こうの方が、技術力も生産体制も上ね。でも・・・」
「でも?」
リオは少しためらいを見せた後、彼女の意見を提示した。
「なぜ異星人は、こんな小規模な戦いしかしないのかしら。部隊を打ち破って侵略をする、なんて聞いてないし・・・」
そう。異星人は始めこそ宇宙からの狙撃でいくつかの拠点を消滅させはしたが、それからは各地にアナザーゾイドを数機ずつ送り込むだけ。一旦自分達の力を誇示した後にはあまり本格的な攻撃に出ず、アナザーゾイドに至っては殆(ほとん)どが撃破されている。それに伴う連合・ゼネバス側の損害も、大局的に見ればそう影響もない程度のものだった。経験を積み、少しずつではあるが優勢になってきているのだ。
「・・・確かに不思議だ。逆に、俺達は強くなっている・・・・・・」
「そうね。まるで私達が育てられているみたい・・・」
「・・・!?い、今何て言った!?」
血相抱えて食いかかってきたガイアに少し怯(おび)えながら、リオは自分の言葉を復唱した。
「え・・・『まるで私達が育てられているみたい』って・・・」
「・・・・・・何て事だ!そういう事だったのか!!」
リオの言葉で気付き、それに確信した。と同時に、もう時間が無い事も悟(さと)った。
「わかったの!?」
「あぁ・・・」
ガイアは重々しく口を開き、自分の推測を聞かせた。
異星人の目的は、この星の最強兵器、ゾイド。この星の戦う力がどれだけのものかを測り、その力を育てて自分のものにする。アナザーゾイドがゾイドに似ていたのは、自分の戦力とした時の運用を試験していたのだ。最初に大規模な攻撃をしたのは、『異星人』という脅威に対抗させ、全力を出させるため。現在の小規模な戦いは、その力を更に理想的に育て上げるため。言わばこの惑星Ziは、兵員養成所とみなされていたのだ。やがてはこの星のゾイドを『回収』しにやって来るだろう。そうなってはもう遅い。抵抗すれば切り捨てられ、滅ぼされてしまうだろう。そうガイアは語った。
「・・・信じられない・・・」
「俺だってそうさ。けど、これが一番説明のつく憶測だ」
そうガイアは意味を込めて言った。この話はあくまで一個人の仮説であり、信用できるかどうかは不明だ、という意味を込めて。
「それと、そっちの救援はどうだ?」
「・・・まだ、来そうにないわね・・・」
「そうか・・・なら・・・」
ガイアはカスタムUのコンテナに積んである残りの食料・燃料等を全てリオに渡した。寝るのに使用したテントや寝袋、布団一式も。
「俺はもう戻らなきゃならん。とりあえず、これで一週間はもつだろう。スマンが今の俺に出来るのは、この位だ・・・」
「え・・・いいの?」
「構わん。コイツの全速ならすぐに隊と合流できるさ」
ガイアは親指で自分の愛機、ライガーゼロ・カスタムUを指した。今まではエネルギーの節約のためにブースターを極力使わないようにしてきた。だが隊に戻れば補給ができる。ならばもう力を加減したりする必要もなくなる。久し振りの最高速だ、そう思っていた。
「それとサイクスのレコーダーから、カスタムUの映像データを消しておいてくれ。俺もサイクスのデータは全部消す。こういうのが残ってると、立場が悪くなるかも知れんからな」
「・・・うん・・・」
一方リオは突然の事に驚きと落胆を覚え、それを強く振り払った。二人でのサバイバルは、本来ならばあるはずの無い時間だったのだ。その時間が彼女にとって幸せな時間であり、戦地で戦場を忘れる事のできた貴重な時間だった。それが終わるのが正直惜しい。芽生えてはいけない感情だ。そして、忘れなければいけない。そう彼女は思った。
「じゃあ・・・・・・サヨナラね」
「あぁ。出来る事なら・・・戦場では逢いたくないな」
「それは私も、同じよ。この戦争が続く限り、私達は会うべきではないわ。でも、もし・・・」
リオは黙りこくった。これまでで沈黙は幾度もあったが、今までで一番長い沈黙だった。ゆっくりと開いたリオの言葉が、ガイアの胸に突き刺さった。
「・・・戦場でライトニングサイクスを見かけたら、躊躇(ためら)わずに倒して。あなた程の人に殺られるなら本望よ」
「俺は誰も殺さない。それが俺の戦う理由だ」
愛機を振り返り、リオに顔を見せずに言った。その後に低く短く呟(つぶや)いたが、リオには聞こえなかった。
「―――もう二度と―――」
そして愛機のコクピットに前脚を伝い乗り込んだ。だが装甲を閉める直前、最後にリオの顔を見て叫んだ。彼の想いを、一つの言葉に詰め込んだ。
「死ぬなよ!!」
そしてカスタムU、ガイアは走り去ってしまった。リオはその姿を暫(しばら)く眺め続け、ため息をついてゆっくりとその場に座り込んだ。
「・・・とことん、甘いのね・・・でも、正しいわ」
森を抜けるとガイアは索敵を開始した。下手にブースターを使い熱放射を感知されれば、また厄介な事になりかねない。と、レーダーに一つ点があった。敵を示す赤い点。しかも近い。出来れば気付かないでくれ。だがその思いは叶わなかった。真っ直ぐにこちらに向かって来たのだ。すぐに目視できる距離になった。
機体色は暗い赤。セイバータイガーのようだが、形状は少し違う。改造機か、試作機か。どちらにせよ警戒しなければならない。こちらの出方を伺い、無闇に撃って来ない。だが警戒してか、視認できてからは時々横に跳び、弾をかわすような動きをしている。
ガイアはそのタイガーに背を向けると、ブースターを点火して戦線離脱を試みた。向こうは追って来る。やはり普通のセイバータイガーじゃない。推定速度は300km/hを越えているのだ。そう易々(やすやす)とは逃げさせてくれないらしい。だがこちらから攻撃するわけにはいかない。奴はおそらくリオの救援でここに来たのだろう。たった一機でか偵察でかは知らないが、ここで撃墜すればあいつへの救援の手が、更に遅れる事だろう。
「ッ!今あるモンで使えそうなのは・・・」
ガイアは迷う事無く武器を選択し、トリガーを引いた。尾から最後のミサイルがタイガーの進路上に2度に分けて撃ち込まれ、大地を吹き飛ばした。立ち昇る砂埃(すなぼこり)が降りた頃には、タイガーのレーダーからカスタムUの姿が消えていた。
「・・・逃がしたか。これ以上追うよりも、ミュンツァー軍曹の捜索をした方が懸命だな」
口惜しそうに、タイガーのパイロットが呟いた。
第九話 終わり
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