第八回 竜、出現



 格納庫で、ブレイドがものものしい顔で愛機の足元に立っている。すでに自身のウォーミングアップを済ませ、起動しているブレードライガーSSの足元で、自分の出番を待っている。そのブレイドに声がかかった。

「クリスちゃん、中々やるぜ。とくに機動力じゃ、シーフとほとんど同じだ」

「そうか」

 あまり関心のなさそうな声でブレイドが短く返した。

「・・・まぁとにかく、そろそろ出番だ。やってくれ、ブレイド」

「おう、わかった」

 待ってましたとばかりに、コクピットに飛び込むブレイド。キャノピーが閉まり、ジェノブレイカー用のコンバーター、シールド、スラスターを背負った身体を揺さぶり、ブレードが出て行く。向かう先は、キャンプより北2kmの平地だ。

 今日はクリスがテストを受けている。以前にガイアとシーフが交わした『一ヶ月後のテストに合格すれば、参戦を許す』という約束のためだ。ガイアはまだ戻っていない。だが一ヶ月は一ヶ月だ、というシーフの言葉でテストを行う事にしたのだ。

「合格できるか否かはわかりませんが、精一杯やらせて頂きます」

 出撃前のクリスのコメントだった。正直言うと隊の皆も、彼女がまともに戦えるとは思っていなかった。パイロットの任がどういう仕事かを理解しているか彼らにとって、一ヶ月やそこらの訓練でゾイドに一人で乗ったことも無い少女が戦力になるとは思えなかったのだ。だが、違った。

「シーフ、お前どんな鍛え方したんだ?凄ェじゃねぇか」

 砲弾をホバーリングで回避し、ミサイルはミサイルで打ち消す。しっかりと判断できているクリスとサンダーラプトルをキャンプの通信設備で見ている隊員達。彼らの『目』も一つのテストになっている。いくつかの状況下でクリスがどうするかを審査しているのだ。

「正直、俺も驚いてるよ」

 シーフは少々嬉しそうにそう言うと、毛のふさふさした尻尾を振りながら足元に擦り寄ってくる小動物を抱き上げた。クリスに残された『友達』、イブである。クリスと一緒に居る時間の長いシーフにイブも慣れていて、演習の間は見ていて欲しいとクリスからも許しを得ている。特にイブは異常な程にシーフに懐(なつ)いていた。

「ほぉら、クリスが頑張ってるぞ〜。見えるか〜?」

「(変わったな、シーフ)」

 以前の彼は動物には全く興味を示さなかった。彼は戦闘ゾイドにしか触れなかったし、かつてグローバリーV世号からもたらされた『地球の動物』とは接触する機会すら殆ど無かった(あっても自分から避けていた)。その彼が動物を溺愛しているのだ。いつかの軟派姿とは別人のようだった。

「確か『機動力の優れる相手を相手にする時は、各個撃破でいけ』とおっしゃっていましたね・・・」

 回避テストが終わると、すぐにジープが数台現れた。荷台にはレブラプターの上半身を模した張りぼてが載っている。今度はそれを破壊するのだ。ジープと併走するクリスだが、ジープはかく乱するかのように走り回る。クリスも何台ものジープを目で追うのはかなり大変だったが、運転する方も必死だった。

「さあ〜て、体当たりでも喰らえ」

 その一人はキースだった。彼はジープをラプトルに向けて爆走させた。張りぼては相手役の機体が無いからであり、機体に当たれば減点の対象となる。本来ならば鋭い爪での一撃、悪ければカウンターサイズを喰らうからだ。だがクリスは冷静だった。片側だけブースターを噴射し方向転換をすると、腕部のブレードを稼動させ、キース車の張りぼてを一閃した。

「ほぉ〜、すげえ!」

 他の張りぼても運転手に被害がないように破壊すると、クリスはサンダーラプトルを待機させ一息ついた。

「ふぅ・・・これで残す所、あと1戦ですね」

「クリス、ご苦労。では最終段階に入る。覚悟はいいな?」

「・・・はい、準備はできております」

 ホークとの会話の後、格納庫から真紅の獅子・ブレードライガーSSが出てきた。最後にはブレイドとの一騎打ちを行う事になっている。コクピットから見ると、闘争心を剥き出しにさせられそうな紅いライガーの姿は圧巻の一言に尽きる。サンダーラプトルはオーガノイドシステム搭載機ではないが、それでもブレードの闘志がひしひしと伝わってくるのがわかる。

「遠慮するなよ。全力で来い」

 クリスはごくりと生唾を飲み込み額の汗をふいた。操縦桿を握る手も、すでに汗ばんでいる。無論、先程までのテストで現れた疲労もあるが、それ以上に気迫のある相手なのだ、ブレイドは。

 ブレイドも、今日は特に気合が入っていた。彼は最近、自分の戦い方をよく省(かえり)みるようになっていた。機体を改造してからだ。改造してからはその愛機を乗りこなそうと一生懸命になっている。そのため、演習と言えども一瞬たりとも気は抜かない。

「・・・行きます」

 静かにクリスが呟き、サンダーラプトルがホバーリングを始めた。ブレイドは巡航速度でブレードを走らせる。互いを目視できる距離になり、ブレイドが突然スラスターを点火した。慌てず激突を回避し、ライフル(模擬弾)を撃ち込む。それをフリーラウンドシールドで防ぎ、エクスブレイカーとレーザーブレードを展開する。もちろん、通電はしない。それを振りかざしラプトルへと向かうブレード。

「・・・アイツ、随分気合入ってるなァ・・・」

「そうだな・・・まぁブレイドの事だ。万が一、という事もあるまい」

 キリーとホークの言う通り、相当な気合がブレイドには入っている。ホークには、クリスがそのブレイドに気圧(けお)されているようにも見えた。動きが先程よりも、わずかに鈍っている気がしたのだ。

「くっ・・・負けません!」

 ストライクブレードで受け止めるラプトル。妙技だ。だが2つのエクスブレイカーを受け止めても牙が来た。慌てて跳び上がり何とか回避できた。ラプトル種は跳躍力がとても高いのが幸運だった。そしてラウンドシールドにミサイルを撃ち込み、距離を取る。だが距離を取った時、全ては決した。

「うおおおお―――――!!」

 ブレイドとブレードが、同時に吼(ほ)えた。耳を劈(つんざ)くような咆哮を間近で聞いたラプトルはスキを見せ、クリス自身にもスキができていた。少なからず、ブレイドの気合に気圧されているのだ。

「ッ・・・・・・」

 それでもストライクブレードを使い格闘戦に持ち込もうとするクリス。だがブレイドに格闘戦を挑むのは無謀以外の何物でも無かった。ストライクブレードの2連撃に加えバイトファングまでを紙一重でかわし、Eシールドを展開。ラプトルを吹き飛ばしたのだった。そこでラプトルのコンバットシステムがフリーズし、演習は終了とされた。

「終了だ、クリス、ブレイド。お疲れ様」

 ひとまず無事に終了し、ホッと胸を撫で下ろすクリス。ずっと握り締めていた操縦桿から手を離し、再び額の汗を拭う。

「我々の思っていた以上の実力だ。ブレイドの闘志にいささか戸惑ったようだが、力は十分にある」

 少し間を置いた後、ホークは公言した。

「・・・戦列に加わる許可を出す。無理はするなよ」

 ホークのその言葉に、歓声が上がるキャンプ。コクピットにいるクリスも喜びの表情を浮かべている。

「・・・ところでホーク。それじゃ、クリスちゃんを軍属にするのか?」

 キリーの問いかけに、ホークは首を横に振る。

「いや、正規の軍人ではなく傭兵として、正式に雇う。それなら本部も納得するだろうし、衣食住も確保される」

「・・・そうだな。それが一番だ」

 だがブレイドは物足りなかった。むしろ、演習で高まった気持ちが収まらなかったのかも知れない。

「・・・なぁ、リース、ブラッド。模擬戦に付き合ってくれねェか?」

「ブレイドさん?」

「何だ、急に」

 彼の発言に驚く二人。ブレイドはすでに、模擬戦を今ここでやっているのだ。2連戦、しかも相手がリースとブラッドという、それこそ格闘戦のプロフェッショナルを二人同時に敵に回すと言うのだ。いくらブレイドでも、勝つどころか歯が立つかどうかも疑わしい。

「・・・いや、やはり止(よ)しておこう。少し気持ちが高ぶったんでな」

「・・・・・・少し待っていて下さい」

 口調の少しおどけた、いつものブレイドに戻っていた。彼の心中を察してかリースは格納庫に向かい、愛機を起動させた。その行動を見ていたブラッドも観念したように格納庫へと向かった。

「クリス、格納庫に戻ってくれ」

「わかりました」

 ホークも気を利かせ、クリスを戻らせた。この戦いに参加するには、まだ少し荷が重いと判断したのだ。間近で見るだけでも危険だ。

「??・・・どうなってんだ?」

「1対2だってよ。さぁーって、ブレイドの奴がドコまでやれるか見物だな」

 デュークが野次を飛ばすがブレイドは気にしない。自分の為に出てくれる二人を待った。待ちながら呼吸を整え、万全なものとした。

「お待たせしました」

「・・・ったく、おいブレイド!やるからには、楽しませてくれよな」

「ああ・・・それじゃ、頼む」

 ブレードライガーSSと、ライガーゼロ・シュナイダーとジェノブレイカー。三機が距離を取り対峙する。先程よりも激しい緊張感が辺りを漂う。その光景に、誰もが息を飲んだ。

「!?敵機接近!2時の方向に3機、飛行するゾイド!」

 その場の雰囲気を破壊する発言がナギサより発せられた。同時に報告された方向を見る隊員達。キャンプのカメラがその姿をモニターに映し出した。

「アナザーゾイドか・・・」

 相変わらず白い装甲で、骨格は四角いパーツ。間違いなくアナザーゾイドだ。だが今までのよりも巨大だ。竜のように見える(マトリクスドラゴン)。

「ホーク、アレを試す時が来たな!」

「あぁ。全員出撃!アナザーゾイドを迎撃する!」

『了解!』

 号令の元、我先にと愛機の元へ走る。その中に、一度降りたコクピットに再び乗り込むクリスの姿があった。

「疲れてないのか?」

 シーフが優しく問い掛ける。その問いにクリスは笑顔で答えた。

「許可を下さいましたもの。私も出させて頂きます」

「そっか、そうだよな。クリス・・・危なくなったら、俺が守るからな」

「ありがとうございます」

 再びシーフに笑顔を送り、コクピットの装甲を閉める。その立派な姿を見て、俺も頑張らなきゃな、とシーフは思った。ついにあの子が戦線に出る。絶対に危ない目には遭わせない。自分が守る。そう胸に固く誓い、シーフもまた愛機に乗り込んだ。

 ホークから攻撃許可が出る前に、ブラッドは集束荷電粒子砲の発射体勢を取っていた。ブレイドもハイデンシティビームキャノンの照準を合わせる。飛行している一体目のドラゴンが狙いだ。そこにパンツァーが駆けつける。

「今回はコアの破壊だけが目的ではない。パンツァーからアクセスピンを撃ち込み、アナザーゾイドを無効化させる」

 キリーが言った『アレ』とは、先日完成したばかりの、アナザーゾイドの分裂を食い止めるプログラムであった。それを記録したアクセスピンを撃ち込み、実際に有効かどうかを試すのが今回の目的だ、とホークは説明した。

「りょーかい。1機残せばいいんだろ?」

「あぁ。各機、援護を頼む。戦闘開始!」

「おっしゃあ!」

 ホークの攻撃命令とほぼ同時に、ブラッドが荷電粒子砲を撃った。続きブレイドもビームキャノンを発射。それは分裂によって回避され、14機のラグナロック隊の前に3機のドラゴンが姿を現した。サイズはレブラプター並だが、キリーの報告によるとコアは4つほどらしい。出力が桁違いなのだろう。

「火器は背のライフル、ミサイル、肩のマシンガンと脚のショックカノンを確認。出力が高いと予想されるから、装甲に自信の無い奴は回避に重点を置け」

「キリー、Eドライバーは!?」

「敵が速い。効果は期待できないな」

 シーフはクリスのそばに居た。だが通信で援護を頼むと、シーフ自身は突撃していった。ラプトルは、本来パンツァーが扱う大型のマイクロミサイルを撃つ。アンカーで機体を固定し、8発同時にだ。それはドラゴンのマシンガンにより全て破壊される。高性能コンピューターでもそうそう楽には予想できない進路を正確に割り出し、最小限の弾数・挙動で相殺したのだ。それでもシーフは構わずブースターを点火させる。

「喰らえ!」

 バルカン発射。破壊されたミサイルが起こした爆炎の中にだ。その先に敵機が居ると信じて。だが感触は無い。シーフは一旦ブースターの火を消し、ドラゴンが居た場所へ向けてレーザークローを叩き込む。空振りし、着地するイエーガーの眼前に、ドラゴンの脚があった。そのままイエーガーの頭部を蹴り上げようとする。

「喰らえっつったろうが!」

 ドラゴンのその攻撃は失敗に終わった。再びブースターを点火させたシーフは、点火の直前にイエーガーを後ろに跳ばせた。ドラゴンの脚の爪が鼻先をかすめたが、大した損傷ではない。ブースターの加速により空中で前進するイエーガー。ドラゴンが反応するよりも一瞬早く、レーザークローがその身体を一閃した。胸部装甲を砕き、コアブロックの一つも砕く。直撃を受けたドラゴンは上半身と下半身が分断され、双方同時に地に落ちた。

 ブースターを切り替えたのは、タイミングをずらす為であった。そこまではアナザーも予想できなかったらしい。シーフ自身、自分がこのような行動を取るとは思っていなかった。思うより先に身体が動いていたのだ。戦場で培(つちか)ったカンによるものだ。

「リース頼む!」

「はいっ!」

 駆け出したブレードSSの後に、シュナイダーが続く。その上を砲撃がかすめた。パンツァーの援護射撃だ。ドラゴンは分裂せず移動によりレールガンを回避したが、そこにはブレードSSのエクスブレイカーが迫っていた。挟まれそうな右肩のみを分離させてエクスブレイカーをかわす。と同時に左腕にチェーンソーを装備し斬りかかる。それはフリーラウンドシールドで受け止める。若干削られたようだが、気にはならない。ラウンドシールドを上に上げ、レーザーブレードを突き刺す。が、ドラゴンは身体をくねらせ紙一重で避ける。ストライククローも外れた。

「ブレイドさん、行きます!」

 リースのシュナイダーが突撃をかけた。アナザーゾイドの回避能力は高い。先程のようにブレードは当たりそうな部分だけを分離させて避けられるし、砲撃は全身を分裂させる事でかわす。だが、そのアナザーゾイドでもそう簡単には避けられない攻撃がある。砲撃のような『点』でも、ブレードのような『線』の攻撃でもない。『面』による攻撃だ。

「シールドアタックか!考えたな、リース!」

 キースの歓喜の声と同時にEシールドを展開したシュナイダーがドラゴンに激突。ドラゴンも素早くシールドを張るが、シュナイダーのシールドの方が勝っていた。分裂もできず衝撃を受けるドラゴン。その胴を、ブレードSSのレーザーブレードが真っ二つに切り裂いた。

「俺達も負けてなんねェな。ナギサ、よろしくなー!」

「ちゃんと生かしておくのよ」

 そう指摘しながらも、ナギサは愛機マグナブレイカーの砲撃装備を一挙に発射した。無数の実弾とビームがドラゴンに迫る。分裂してかわし、合体する。その瞬間にライガーゼロが斬りかかってきた。輝くレーザークロー。だがそれを、ドラゴンは空中に逃げて冷静に回避した。空中での移動速度は、機体形状からは考えられない程のスピードだ。ゼロを気にもとめず、一直線にマグナに向かう。

「ナギサ!」

 無論ナギサも、それをただ呆然と眺めるような者ではない。ドラゴンに当てようとビームキャノンを撃つが、それをも簡単に避けてしまうドラゴン。肩のマシンガンで牽制(けんせい)し、マグナをその爪で引き裂こうとしたその瞬間。

「誰に断って手ェ出してんだコラァ!!」

 後ろから猛スピードで接近するゼロの爪にボディを砕かれた。デュークはイオンブースター以外の装甲を強制排除して身軽になり、ギリギリ爪を間に合わせたのだ。

「んもぅ!もう少し早く来られないの!?」

 少し怒ったような声だったが、デュークにはそれがナギサなりの礼だとわかっていた。そのナギサも、いくつかに分かれたドラゴンの身体にレーザーとミサイルを撃ち込み、バラバラに粉砕してしまった。

「悪い悪い・・・でもま、無事で何より」

「それよりも・・・生かしとけ、って言ったの・・・誰だっけ?」

 呆れ顔のキリーが、二人に通信を入れた。誰かがツッコんでやらないと、この二人はいつの間にか二人だけの世界で仲良く話している。戦闘中でもだ。だから必ず誰かが二人の間に立ってやらなければならないのだが、今回はその役目がキリーにあった。

「キリー、残りの一機を追い込んでくれ」

 ホークの、誰よりも冷静な突っ込みが三人に入った。表面上は指示しているだけだが、戦闘中に私語は慎(つつし)め、という意味も含んでいるらしい。

「アタシも手伝いましょうか?」

「僕もやります!」

 そこにヘレンとロベルト、ギガとフューラーが割り込んできた。相手を追い込む上で、この二人程頼もしい者はそうはいない。機動力・防御力・攻撃力全てにおいてバランス良く、また二人の腕も他に劣らず見事なものだ。キリーとの三人の連携で、すぐに最後のドラゴンをパンツァーの射線上に追い詰めた。

「さァ・・・そろそろオヤスミの時間よ・・・」

「ヘレンさんっ、やり過ぎです!」

 ロベルトが叫んだが既(すで)に遅く、ギガのクラッシャーテイルがドラゴンの胴にクリティカルヒットしていた。いくらコアブロックが4つあろうとも、ギガは機体サイズも威力も桁違いなのだ。

「あっちゃー・・・ゴメン、やっちゃった☆」

 顔の前で手を合わせ、ホークに謝るヘレン。コアを残せ、と言ったのに4つとも完膚なきまでに粉砕してしまったのだ。それを溜め息交じりで呆れながらも、仕方ない、と返すホーク。

「ホーク!こっちにまだ1機、腰と胴の離れた奴ならいるが?」

 ホークの機嫌を取るような口調でシーフが通信に割り込んだ。イエーガーの爪で残ったコアブロックを押さえながら。すぐに愛機をその方向へと向かわせるホーク。今回のアクセスピンは射程がとても短く、かなり接近しないと当たらない、もしくは当たっても効果を発揮しないのだ。

「そのまま押さえておいてくれ」

 その場所では、ブラッドがドラゴンの装甲パーツを踏み潰していた。以前誰かが言った『装備のみを完全に粉砕すれば、再生もできない筈だ』という事を実行に移しているのだ。それを察してか、残ったもう一つのコアブロックが出来るだけのパーツをかき集め、小型のアナザーゾイドになった。だがコアブロック1つでは、すでにタカが知れている。出番ないかなー、などとウロついてうたキースのエクスブレイカーに頭部を切断され、前脚も2本同時に切り落とされた。

「願わくば、これが我々の希望の光となるよう・・・効けッ!」

 換装されたほおから、アナザーゾイドを狂わせるプログラムの入ったアクセスピンが撃ち出される。イエーガーが踏んづけて押さえていたコアブロックに突き刺さり、途端、そのコアブロックは抵抗をやめた。周りのパーツも地に落ち、集まる気配が無くなった。

「やった・・・・・・のか?」

「わからん。ロール、超高空で輸送船が降りてくるか監視を頼む!」

「え・・・降りてくる、んですか?」

 ホークの言葉に疑問を持つロールに、キリーがプログラムの概要を説明した。アナザーゾイドと常に情報の更新、つまり送受信をしている輸送艦ならば、アナザーからウイルスプログラムが伝わり、ここに降りてくる。そのはずだ、と。実際に成功し降りてくるかは、ホーク達もわからなかった。できればそうなって欲しいが、失敗したかも知れない。希望と不安が入り混じる中、ロールは一人、上昇していた。

「現在、高度1万8000メートル。輸送艦らしいものは見つからないわ」

「・・・・・・」

 皆は祈った。ここで通用しなければ、また1からやり直しだ。いや、それよりもっと情況が悪化したかも知れない。効いてくれ。敵機のいなくなった今、全員が神に祈っていた。数秒が数時間のように長く感じられる。

「・・・・・・ダメか・・・」

 所詮机上の空論でしかなく、自分達に異星人を止める力は無いのか。そう諦めた時だった。

「来た!ホエールキング並のサイズ。台形で色はシルバー!下降していくわ!」

 誰かから歓声が上がった。成功したのだ。ホークも溜め込んでいた息をゆっくり吐くと、ソーダーからのデータと、過去にプテラスが撮影したデータを照合していた。

「ロール、警戒を怠るな!だれか周辺基地に教えてやれ!アナザーへの対抗策が出来た、ってな!」

 うれしそうにキースが言った。彼らが影で恐怖していた異星人の船。それを自分達の支配下に置いたのだ。その意味は大きい。



「皆、良くやってくれた」

 その数時間後。他の部隊から応援を呼び、一段落したラグナロック隊を集めてのホークの言葉があった。

「異星人の輸送船もアナザーゾイドへの対抗策も、同時に得る事が出来た。増援部隊が調査をしている間だけでも、休んでくれ」

 彼らにとって、異星人が現れてから一段落できたのは始めてかも知れなかった。対抗策の無い頃は毎日が心配の日々だった。それが一つ解決されただけに、皆の喜びとその分の疲れは大きかった。



「ヘレンさん、バニッシュさんが呼んでいますよ」

 ロベルトに呼ばれ、即座に振り向くヘレン。ロベルトが自分から彼女に話し掛けてきたのは初めてだった。普段ならここでからかう所だが、今日の彼女は違った。ロベルトを抱え込む(!)と一目散に格納庫へと向かった。バニッシュと愛機の所に。

「オッ、随分と早かったじゃないか、お二人サン♪」

 茶化すバニッシュにロベルトは否定の意を示したが、ヘレンは聞き流しバニッシュに訊いた。あれができたのか、と。

「だから呼んだんだよ。見てくれ」

 バニッシュの声と共に、ヘレンは見た。異星人の兵器・アナザーゾイドを利用し完成した、ゴジュラスギガ用のオプションユニットを。ギガに装着されてはいなかったが、ヘレン待望の砲撃装備が搭載されていた。

「アサルトライフル*2、2連装キャノン砲*2、ホーミングミサイル*2、2連装マイクロホーミングミサイル*2、2連装ショックカノン*2、ガンポッド*1。しかも翼がミサイルのマウントと装甲に加え、単体での飛行能力まで併せ持つ。戦闘中に必要になった時に発進させ、その場で装着できる無人のユニットだ。良く出来てるだろう?」

「すごい!戦闘中に、即座に装備できるのね!?ありがとう!」

 子供のようにはしゃぐヘレンに、バニッシュは告げた。設計者はロベルトだ、と。

「ホント!?ロベルト、大好き♪」

 (毎度の事ながら)ヘレンに押し倒され抱きつかれるロベルト。ヘレンが全力で抱きしめるものだから(柔らかい感触のせいもあって)、彼は恥ずかしさのあまり硬直してしまった。それにも気付かず頬(ほお)を摺(す)り寄せるヘレン。こんな戦況でも、二人は平和だった。

「・・・・・・試してみんのか?」

 バニッシュのその言葉に反応したのは、数分の後だった。その頃にはロベルトも色々と大変なコトになっていたのだが、ここではあえて伏せておこう。



「・・・とりあえず休憩、ってトコかねぇ」

「えぇ。調査で良い結果が出ればいんですけど」

 自販機の前では、キースとロールがジュース片手に話をしていた。今までより幾分か不安も無くなり、ジュースを飲みながらで話も弾む。あくまで仕事(任務)に関しての内容だが、それでも気持ちを和らげる事はできる。

「あーあ、ガイアのヤロー・・・いつまで油売ってるんだよ」

「そうですねー・・・今頃、街でゾイドのキットでも買ってるんじゃないかしら」

 キースには、ロールが声色の変わらないまました返事が不思議に思えた。言った直後に彼も気付いたのだが、彼女はまだガイア失踪から立ち直れていないのでは、と思ったからだ。だがロールはいたって普通に、むしろ少し冗談が混じったような言い方をした。

「でも工具類も一切置きっぱなしだから、ニッパー買い直してるわね、きっと」

「そうか。なら安心だな」

「えぇ。キースさんが言ったように・・・ガイアは強いから」

 だが少しだけ、ロールの言葉の最後は声のトーンが低かった。完全に立ち直れているわけではない、そうキースは気付いた。表情も少しばかり暗い。それをロール自身が振り払うかのように、瞳を輝かせてキースに聞いた。

「キースさんとガイアって、いつ出合ったの?」

 質問内容よりも、その表情がキースの意表を突いた。自分自身を励まそうと笑顔で話しかけたロールだったが、キースにはとても健気に見えて、正直可愛かった。胸が高鳴ったのを慌てて隠すように横を向くと、気持ちを落ち着けて話し始めた。

「そうだな・・・ありゃ確か、4年、いや5年くらい前だったかな・・・・・・」



ZAC2098年 ニクス大陸―――――

「・・・ほーぉ、中々いい女じゃねーか。どこで手に入れた?」

「この辺をウロウロしてたんですよ、キースのアニキ」

 キース=ゾルディアはその昔、街の路地裏で釘バットを持ったようなおにーさん達を束ねていた。その部下の一部が女を捕らえてきたという事で、彼らは機嫌が良かった。その女性は両手を縛られた上に口も塞がれ、これから自分の身に降りかかるであろう事態に恐怖していた。

「早いトコ、ヤっちゃいましょーよ」

「こんな若いのは久し振りだなぁ、兄貴!」

 狭い地下室に、発情した男の叫びがこだまする。部屋の真ん中にくくりつけられた女性は、とうとう泣き出してしまった。

「おーおー、カーワイイねぇ・・・」

 男の一人が下品な笑いを浮かべて女性に歩み寄る。彼女の口を塞いでいた布を取り去ると、焦(じ)らすようにゆっくりと服のジッパーを下ろしていく。

「さぁ、お前はどんな声を上げてくれるのかねぇ・・・」

 男が更に服を剥ぎ取ろうとした時、部屋のドアから音がした。コンコン、と誰かがノックしている。

「たす――――ムググ・・・」

 かすれた声で必死に助けを呼ぼうとした女性だったが、再び口を塞がれ声が届かなかった。その場にいた男達も静まり返る。

「んー・・・お留守かなぁ?」

 聞こえたのは、少年の声だった。そんなガキを見張りの奴等が通すはずはない。そうキースは思った。仲間に銃を構えさせる。だが構えるよりも早く、鍵をかけたはずのドアが開いた。一発の銃声と共に。

「なーんだ、居るじゃないか」

 ドアの先に居た少年はそう言うと、銃を構えた3人に向けて即座に発砲。銃弾は3人の肩を貫き、遅れて構えたもう2人の腕にも弾を撃ち込んだ。一瞬の事に我を忘れた男達だったが、すぐに少年に飛び掛ってきた。

「ンだ小僧ォ!!」

 数人が一度に飛び掛ったが、少年は身長差を利用してくぐり抜け、足や腕に冷静に銃弾を撃ち込む。それを見て倒れた仲間から銃を奪い発砲する男。少年の拳銃を貫いた。これで抵抗の手段を無くした、はずだった。だがそれに動じる事なく、少年は銃に向かって一直線に走った。慌てて2発目、3発目と撃つ男は懐(ふところ)に潜り込まれ、アッパーカットを喰らって倒れた。

「死にやがりゃあ!!」

 男の怒声と共に突き出される刃渡りの長いナイフ。だがそれすらも重心移動のみで交わし、後ろに回りこんで後頭部に肘鉄を入れる。普通じゃない。周りの男達もそう思い躊躇(ちゅうちょ)した。

「何やってんだ馬鹿野郎共!相手は一人だろうが!!」

 その言葉に少年はピクンと反応した。反撃のみをしていた先程とは違い、手当たり次第に男達を殴り始めた。自分の近くに立っていた最後の男を投げ飛ばすと、全員を威圧する闘気を放ちながら口を開いた。その声は見た目とは裏腹に低く、怒りを含んでいた。

「お前達と・・・俺達プロを一緒にするな」

 少年は縛られていた女性を解放すると、自分の(Sサイズの)上着を羽織らせた。上着の下に着ていたシャツには、ガイロス帝国の飛竜十字が刻まれていた。軍支給のシャツだった。

「もう少し待っていて下さい。じきに終わりますから」

「こいつ・・・軍人なのか?」

 女性に優しく声をかける少年を見て、男の一人が呟(つぶや)いた。キースもそう思った。

「だが所詮はガキ一人、何ができる!!かかれ!」

「くたばれェ!」

 再び男達が飛び掛ってくる。だが先程とは違い、少年の背には腰が抜けてしまった女性がいた。少年にとって不利である。少年は、今度は避けない。一人のナイフを気絶させて奪い、すぐに別の男に突き刺す。突き刺された男を蹴りとばし後ろを巻き込む。後ろから迫った男のみぞおちに当身を入れ、別の男の釘バットを見切る。早業だった。

「下がれ野郎共!俺が教えてやる・・・誰に喧嘩を売ったのかな!!」

 キースが声を上げすと、男達は道を開け遠巻きに少年とキース、そして女性を囲んだ。

「おいガキ・・・名前は何だ!!」

 キースは目の前の少年を威圧した。ここにいる男達でさえおびえる怒声でだ。だがその少年はプレッシャーをさらりと受け流した。

「ガイア。今日はお前達が捕らえたというこの女性を助けに来たが、ついでに全員逮捕しようと思っている」

「そうか、ではガイア君。死んで貰おうか!」

 ダッとキースが踏み込んだ。ガイアは微動だにせず待ち構えていた。先手はキースが取った。誰もがそう思った。だがキースが殴りかかる寸前、鋭い蹴りを顔面に喰らったのだ。

「顔、出し過ぎ・・・」

 少し呆れたような口ぶりで、大きく踏み込んでの裏拳を続けざまに顔に叩き込む。初手、2手目共に奪われたキースも反撃した。ガイアの両肩をつかんでの頭突き。それも読まれていた。頭突き前にキースも両肩をつかまれ、腹に膝蹴りをもらった。その場所を抱えてうずくまる。

「期待外れだな・・・」

 そのガイアの言葉にキースはキレた。怒りに任せて拳を突き出していた。だがすぐにキースの頭は冷える事になる。突き出した腕をつかまれ、背負い投げの要領でフワッと身体が宙に浮いた。そして背中を思い切り叩きつけられる。起き上がろうとするも胸板を踏みつけられる。

「あー、こちらシュリナス軍曹です。ボスの動きを封じたんで、そろそろ来て下さい」

 取り出した無線機に話した数秒後、機関銃を持った軍人が5人、部屋に入ってきた。その一人が全員に壁を向き両手を上げて立つように命令すると、ガイアは女性の肩を優しくつかんだ。キースには軍人が銃を向けている。

「災難でしたね。立てますか、スカーレット准尉?」

「た、助かりました・・・・・・」

 まだ腰は抜けているらしい。ガイアは背を向けて座り込み、自分に乗るよう促(うなが)した。小さな身体だが、力強く彼女をおぶさると出口へ向かう。軍人の一人に後を任せて出ようとした時、キースが話し掛けてきた。

「おい・・・ガイア。この借り、必ず返してみせるぜ」

「ケッ。やるならせめて、軍で俺に追いついてからにしろ。でないと相手にならねーよ」

 そう吐き捨てると、女性をおぶさりながらも楽に階段を登っていった。

「外に車が停めてあります。基地には俺のセイバーで帰りますかね?」

 それから先は、キースにはよく聞こえなかったし見えなかった。ゆっくりと意識が遠のいていったのだった。



「・・・それからガイアに追いつく為に、努力したんだぜ〜。あ、この時の奴等はもう解散させてる」

「5年前って・・・ガイアはまだ15歳?」

「そういうコト。あいつ、ガキの頃から鍛えられてたらしくってな・・・今も敵(かな)わねーんだわ」

 キースがおどけたような口ぶりで締めくくったので、ロールは思わず笑ってしまった。自分にも目の前の少女を少し楽しませる事ぐらいはできるんだな、とキースは思った。ロールが笑ってくれたのが嬉しかったからだ。



第八回 終わり




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