第七回 共通の目的



「おらァ!!」

 スラスター全開で鼻と鼻を突き合わせる程の至近距離に潜り込み、レーザーファングでトリケラのコアブロックを噛み砕く。辛うじて、カスタムUは勝利した。

 ガイアは無事だった。たった今、コアブロックを5個も搭載したアナザーゾイドを倒す事ができた。だが、彼はしばらく隊に帰るつもりは無かった。

「さて・・・やつらの目的がわかるのと、こっちのエネルギーが尽きるのと。どっちが先かな・・・」

 彼は軍のデータバンクに、ハッキングされた跡がある事を師のラミディムより聞いていた。アナザーゾイドに関するデータのみ。もしかしたら異星人がハッキングしたのかも知れない、という考えからガイアは姿をくらまし、裏から異星人を調べる。これがガイアの出した結論だった。

「!?」

 急にカスタムUが反応したのに合わせて、ガイアはカスタムUを思い切り宙に跳ばせた。次の瞬間、カスタムUが居た場所にビームが撃ち込まれた。ただのビームキャノンじゃない。集束荷電粒子砲だ。

 急いで射撃された方を見ると、ジェノザウラーが一機、こちらに飛んできた。はっきりとネオゼネバスの国旗がペイントされている。敵だ。

「フン、2連戦か・・・」

 今のガイアはトリケラとの戦闘と、それに伴うカスタムUの操縦で少なからず疲労している。だがそう気を抜いてもいられない。こちらも距離を詰め、二、三度交錯する。だが倒せない。

「やるな・・・」

 敵は強い。今までのジェノと違う。機体もチューンナップされているようだし、それ以上に相手の腕を強く感じる。一流のパイロットなのだろう。ガイアは、冷静に状況を分析した。接近戦を繰り返しながら。

 向こうは集束荷電粒子砲を撃ってこない。反動を恐れてか、けん制のためか。どちらにしろ、もっとも恐ろしいのは荷電粒子砲。それに備えて距離を取りたいが、恐らく少しでも離れればその瞬間に撃ってくるだろう。その距離では、避け切れない。展開したEシールドも貫かれ、俺は負けるだろう。なら、距離を詰めての格闘戦で決める。

「・・・・・・できるか?」

 ガイアには、不安要素があった。しばらく隊に戻らない、という事は、しばらく補給も受けられない、という事だ。そんな中、省エネで戦える相手ではない。全力を出したいが、今後の負担になると考えた。

「・・・実弾と、ファングぐらいしか・・・使えん」

 そう思うとグレネードランチャーを撃った。それが目くらましとなり、ジェノは一瞬ひるんだ。その一瞬のスキを突いたガイアは、ロングライフルを発射。当たった。脚に直撃し、装甲を砕いた。そして、接近。レーザーファングで決める。

 だが、敵も一流。すぐにカスタムUにパルスレーザーを浴びせ掛ける。それを危うく回避し、眼前にまでジェノに迫った。だがガイアは、一つ見逃していた。頭部のレーザーガン。それにアタックブースターを片方撃ち抜かれた。

「!?でも、いける!!」

 被弾したアタックブースターを排除し、ジェノの頭を噛み砕く。そして、体当たり。さらに、空中にいるジェノにグレネードランチャーを再び撃ち、パルスレーザーライフルを破壊した。

「・・・生きてるな・・・」

 ジェノザウラーは、コアもコクピットも胴体にある。そのため、頭を失っても動く事は可能だ。だが装備の大半を破壊されたジェノでは、目の前のゼロに勝てない。あれだけの動きができるという事は、間違いなく歴戦のパイロットだろう。ならば、そう判断するだろう。そう確信し、ガイアは向こうに周波数を合わせ通信を入れた。

「ジェノザウラーのパイロットへ告ぐ。投降すれば身の安全を保障する。武装解除し、機体から降りてくれ」

 反応はあった。だがその反応は、ガイアの望んだものではなかった。

「・・・負けたよ。しかも、敵に情けをかけられるとはな・・・だが俺はヘリックや、ましてガイロスには屈しない。そうするよりも、死を選ぶ」

 その通信と共に、ジェノザウラーは自爆してしまった。距離を取っていたのでカスタムUに影響は無い。だがガイアは、その光景が悔しかった。くそ、と怒りを吐き出す。なぜ死ななければならないんだ。



 その戦闘の10分後、ガイアは森林地帯にいた。今はアナザーの出現でそれどころでなくなってはいるが、ここは前線。いつネオゼネバス帝国軍と接触し、再び戦闘になるかわからない。先程のように。そしてその結果が向こうの自爆。また一人、人間が死んだのだ。今だけでも接触したくない。だから森に愛機を隠し、自分は異星人についてゆっくり考える。もしかしたら、そのままにしておいたトリケラの残骸がアナザーを引き付け、自分に向かってくるかも知れない。

「・・・ま、とりあえず野営の準備だな。ハァ、非常食尽きたらどうしよう・・・」

 そう言いながら、彼は愛機の背中によじのぼった。そのままマイクロホーミングミサイルポッドを外から開ける。と、顔を出したのはミサイルではなく、キャンプ用具だった。機体を覆える布もあった。

 彼は普段から、非常時のための道具を機体に載せていたのだ。サバイバル用のナイフ、テント、食料、燃料・・・それらを取り出した後、愛機を起動させる。腹のロングライフルを排除し、カスタムUを寝転がせる。

「(・・・しばらくこれで戦わなくちゃならんからな・・・)」

 ライフルを背中に装着し、使いやすくした。ビームキャノン等のエネルギー消費の大きい武装が使えない時のために用意していた、サブウエポン。それを着け終わったら布をかぶせ、隠す。それからテントをテキパキと設営し、早めに寝た。



 明朝、森を歩く一人の少女。小柄でほっそりしている。だが腰には拳銃とナイフを備え、軍服を着ている。階級章は、軍曹。その少女が、昨日ガイアがテントを張った場所の近くに来ていた。そして、テントを見つけた。

「(・・・人がいるの?)」

 拳銃を構え、ナイフを確認しながら恐る恐る近付く。寝言のような、言葉にならない音がテントから聞こえてきた。間違いなく、人がいる。しかも眠っている。バッとテントの正面に立ち、勢いよく入り口を開けた。

「動くな!!」

 だが、中に人はいなかった。確かに先程声がし、今ここに布団もある。おかしいな・・・そう思いながらテントを出た瞬間、横から声がした。

「その物騒なモノを捨てて、両手を上げな」

 男だ。Tシャツに長ズボンとラフな格好で、服装は民間人に見える。だがこちらに銃を向けるその顔は、間違いなく軍人だった。

「!?」

 戸惑いながらも片手に持っていた拳銃を男に向けようとした。だがその銃は男の構えていた銃に一瞬で撃ち抜かれた。正確に拳銃だけを破壊し、少女の手にはまったく傷を作らずに。それでもナイフで斬りかかる少女。

「そんなんまで・・・ったくゥ」

 すでに男の拳銃は少女のナイフで弾き飛ばされ、男は素手だ。だがナイフの切っ先を正確に見極め、確実に避けている。驚異的な動体視力と身のこなしだ。少女は自分のナイフがことごとくかわされているのに苛立ちを覚え、焦っている。

「くっ、くそっ!」

「女の子がそんな言葉遣いじゃイケナイよ」

 ついに男がナイフを持った少女の腕をつかみ、もう片方の腕で腹に拳を入れた。ドスッという鈍い音がして、少女はその場に倒れこんだ。



「この基地、随分と騒々しいな」

「何か捜索隊を出したら、その一機の信号が消えたってよ。連合との戦線付近で、だ。どう思う、ゲイオス?」

 ガイア達ラグナロック隊がまだ行った事のない土地、それと同時に現在ネオゼネバス帝国に統治されている土地。そこにあった元共和国軍基地・現帝国軍基地。その一角では、メテオカイザーのパイロット・ゲイオスと、キングザウラーのパイロット・デュランが話をしていた。格納庫のハンガーに固定されている、それぞれの愛機を眺めながら。

「ジェノザウラーからは音声も何も発信されていなかったのだろう?もっとも、現状では無線も役立たずになっているが・・・部隊と接触したとは考えにくい。少数の敵機と遭遇し、やられた・・・というのが妥当(だとう)か」

「そうだな・・・しかしその敵、今こんなに突出するのは自殺行為じゃないか?」

 デュランの言う事にも一理ある。アナザーゾイドの出現に連合軍は少しずつ一般部隊を後退させているが、ゼネバス軍は現状を維持している。ダークスパイナーのジャミングブレードの出力を上げれば、アナザーゾイドの行動にも制約を与える事に成功したからだ。(制約を与えるだけで、完全に操る所までは行っていない。アナザーゾイドの操縦データが明らかに異質のものだからだ)そんな中を連合側が下手に突出すれば、孤立してしまう。

「そのライトニングサイクスのパイロットは、若い女性か・・・無事だと良いのだが・・・」

「バノード少佐、メテオカイザーのプランが決定されました。しかし・・・本当にこれでよろしいのですか?」

 この基地の若手の整備兵がゲイオスに、メテオカイザーの改装プランが立った事を報告した。整備兵が手渡した企画書に軽く目を通すと、書類の端にサインを入れた。

「あぁ、頼む。この企画書通りに完成すれば、何も文句は言わないさ」

「ハイッ、ありがとうございます!」

「いや、こちらこそ」

 ゲイオスに敬礼をすると、整備兵は駆け足で整備班長の元へ急いでいった。それを見送るゲイオスの表情は、とても穏やかなものだった。

「・・・これでガイアと再戦できる・・・」

 彼と共に整備兵を見送っていたデュランだったが、ゲイオスが低く呟いた名前が気になり聞いた。ガイアとは誰か。

「ギルベイダーを破った青いライガーゼロ、『青の閃き』のパイロットだ。腕が良いと噂には聞いていたが、対峙した時に初めて分かるものだな。・・・想像以上の強さだった。俺と同等か、それ以上・・・」

「ヘェ、お前が相手を認めるなんて珍しいな」

 ゲイオスでも、パイロットになってから無敗というわけではない。だが彼はゼネバス系の人間故(ゆえ)に、与えられた機体は旧式。機体性能で歯が立たない相手には、勝てない事もあった(その不利を覆(くつがえ)す事の方が多かったのだが)。性能が互角なら、彼は無敗だったかも知れない。その想いが彼に自信を付けさせていた。

 だが鉄竜騎兵団に所属し、共和国のウラをかきデルポイに侵攻。与えられたバーサークフューラーを改造して彼に欠けていた『機体性能』を手に入れた時、『好敵手』が現れた。性能で劣っていたのかも知れないが、ごく小さな差でしかない筈(はず)だ。勝負は引き分けに終わったが、あのまま続けていた時、彼に勝利はほぼ無かった。自分をそこまで追い詰めた者。だから、初めて敵を認めたのだった。

「お前も注意しておけ。奴からは、何か底知れない『想い』を感じた」

「そうか・・・油断できんな」

 そして二人は、一旦装甲を外され素体をあらわにしたメテオカイザーを見上げた。デュランは被弾した時に見るいつもの光景だ、としか思わなかったが、ゲイオスは違った。強くなれ、俺と共に。そう思っていた。

「それはそうと、第4武器開発局で『キメラ』の利用実験機を造ってるそうだ」

 不意にデュランが言った。『キメラ』とは、ネオゼネバス軍が異星人兵器(連合軍で言うアナザーゾイド)を指す時に用いる通称だ。複数の動物を掛け合わせたような外見からそう名付けられた。つまり彼の言葉の意味は、軍部も本格的に異星人兵器を利用しようとしている、という事だった。

「もう大方の検討はついているらしいな。テスト機はジェノザウラー、属性は電磁波。ダークスパイナー並のジャミングウエーブを形成する、と聞いた」

「ジェノか・・・コア出力を見るならバーサークフューラーの方がいいと思うんだがな」

「寿命の短い『使い捨てゾイド』で済まそうという魂胆だ。コストの面からもな」

「酷ェもんだ。寿命が短けりゃ、もし死んでも構わないという事か?」

 あまり知られていない話だが、オーガノイドシステムを搭載したゾイドはコアの寿命が極端に短くなる。そのため(コア出力向上の面もあるが)共和国は高速戦闘の主力機をブレードライガーから、ライガーゼロやケーニッヒウルフへと交代させた(戦争が長期に渡ると推測していたのかも知れない)。

 一方ネオゼネバス帝国はバーサークフューラーの製造にかかるコストと手間(野生体捕獲等)を惜しみ、ジェノザウラーを使い続けている。フューラーが配備されるのはあくまで一部のエリート部隊に限られているのだ。基本形態の製造にはライガーゼロより更に多くのコストがかかり(そのためシュトゥルムは構造を簡略化し、コスト削減を図っている)、東方大陸に残るティラノサウルス型究極野生体の捕獲にも大変な労力がかかる。あくまで効率を優先した結果、ネオゼネバス帝国軍の主力機はジェノザウラーなのである。

「キメラの技術解析は少なくとも連合側よりは進んでいるため危険は少ない、というのが第4局の意見らしいな」

「その技術が完成して、パイロットやゾイドを殺さずとも勝てる時が来れば良いのだがな、ゲイオス」

「あぁ。殺し合いの時代が終わる、そう思いたいものだ」

 犠牲を最小限に抑えて勝つ。軍内では数少ない彼らの想いだからこそ、皆がそうなって欲しいと二人は願う。特に、敵軍の中にガイアという友を見つけたゲイオスは尚更(なおさら)そう思う。



「う・・・・・・ん・・・」

 しばらくして、少女は目を覚ました。起き上がろうとして腹部に痛みを覚え、自分に何があったのかをゆっくりと思い出した。自分が隠れ蓑(みの)にする森で昨晩聞こえた物音。それの出所を掴むため明朝出掛け、一人の男と格闘した。それから気絶させられ、今に至る。

「ん?あぁ、やっと起きたか」

 気が付けば自分は、片手が木に結ばれている。手錠はかけられてはいないものの、武器もなくなっていた。その武器の所在は、目の前の男がすぐに明らかにした。先程と同じ男だが、表情は民間人のようだった。

「悪いが、ナイフは預かってる。銃は使い物にならないみたいだ・・・と言っても、俺が使えなくしたんだがな」

 そう言いながら、男は少女の正面に座り込んだ。

「俺はガイア、20歳。お前は?」

 少女には、しばらく理解ができなかった。つい先程まで殺し合いをしていた相手に、自己紹介をしている。夢か?一瞬そうとすら考えた。だがそんなはずはない。とにかく実におかしな人間だ、しばらくしてそれだけ思った。

「・・・リオ。16歳」

 少し戸惑ったが、名前だけは言う事にした。何となく礼儀を優先してしまったのだ。

「・・・そうか。じゃ、所属は?ネオゼネバス帝国のリオ」

 ガイアは敵国の軍服にはっきりと付いている、ゼネバスの国旗をよく覚えていた。以前向こうの街に潜入した時に、軍人を見ていたからだ。ゲイオス=バノードという敵国の軍人を。

「・・・・・・言えん・・・」

「あっそ。ま、もうわかってるんだけどね。ネオゼネバス帝国機動陸軍特殊工作師団・第12高速戦闘大隊だろ?ライトニングサイクスのパイロット、リオ=ミュンツァー?」

「!・・・何故それを!?」

 出会ったばかりの男が、自分の詳細なパーソナルデータを知っている。愛機まで。自分は特別有名というわけでもないのに、何故。

「ほれ、アレ見な」

 ガイアが指さした先には、リオの愛機・ライトニングサイクスが立っていた。隣には、リオが前に話で聞いたことのあるゾイドがいる。青いライガー。

「・・・『青の閃き(ひらめき)』?」

「ん?そう呼ばれてるのか?」

 『青の閃き』とはそこの青いライガー(ライガーゼロ・カスタムU)の帝国側の呼び名だ、とリオが説明した。機体色であるブルーと、ギルベイダーやレッドG(ネオゼネバス側の新型ゴジュラス)を倒した戦闘力。それが由来だ。もーちょっとカッコ良くならないかな、とガイアが漏らした。だがそれは嘘だった。

 彼は戦いを好んではいない。ギルベイダーやレッドGを殺した事をたたえられても、微塵も嬉しくない。戦争での功績など、出来れば得たくなかった。それでも戦うしかない現状。それにうんざりしていた、と言うのが本音だったのだ。

「・・・とりあえずサイクスのデータはコピーさせてもらった。残念ながら、ロックは無駄だったよ」

「な、何!?ロックを解除したのか!?」

「俺も昔、乗ってたしな。もー少し難しいロックをかけといて欲しいねぇ」

 だが実際、リオの機体にかけられたロックは複雑なものだった。普通の人間にはもちろん、技術者や並大抵のハッカーが集まっても解除できないようなものがかけられていたのだ。ガイアはそれを『ウラワザ』で通過し、それでさらにパスのいる個人情報を吸い出していたのだ。彼女は驚くばかりであった。

「まぁそれはそれで置いといて。・・・とりあえずメシにしないか?」

 そう言うとガイアはテントに入り、簡易食料を持って出てきた。調理のいらない、あたためる必要もないゼリー状の食料。食欲を満たすよりは栄養補給を優先したモノだった。それをガイアは、2人分持ってきたのだ。

「見たトコ、コクピットにはなかったが・・・お前、食料はあるのか?」

「・・・確かに私の食べ物は尽きたが、敵の物など食わん」

 その言葉とは裏腹に、体は正直だった。グーッとおなかが鳴ってしまい、ガイアは思わず微笑んでしまった。それを見てリオは顔をしかめる。

「な、なにが可笑(おか)しい!!」

「い、いやスマン・・・カワイイもんだなと思って」

「!!」

「プッ・・・そんな警戒しなくても、別に何もないってば。ホラ」

 ヒョイッと放った食料を、結ばれていない方の手で受け取る。反射的に受け取ったが、まさか本当に渡してくるとは思っていなかった。こいつ、目の前の人間が何に見えてるんだ?

「お互いイロイロあるだろうけど、とりあえずエネルギーを補給しないとな」

 ガイアは自分の分の食料を口に運ぶ。だがリオは栓を開けようとしない。まだ警戒している。

「・・・・・・フゥ」

 ガイアはため息をつくと、無言でリオの方に歩み寄る。男が近付いて来る事でリオに恐怖心が生まれ、目を閉じてしまった。自分は拘束されて逃げられない上、ここには女である自分と敵軍の男の二人しかいないのだ。何をされるかが容易に想像できる。

「ホレ、そんなに怪しいんなら俺が口付けた方を食えよ。毒なんて入れてないから」

 恐る恐る目を開けると、目の前にガイアの分の食料が差し出されていた。それともう一つ。リオと木とを結んでいた縄(正確にはタオル)がほどかれたのである。これで彼女を拘束するものはなくなった。彼女を捕らえた男が、彼女を放したのだ。実に不思議に思えた。

「・・・アンタ、変だよ」

「なにが?」

「普通、捕虜を放したりしないんじゃない?」

「だってよ、そうでもしないとお前食わないだろ?ホラ」

 自分の行動が間違っているとは思えない。相手も人間、とりあえず自分の差し出した食事も食べてくれないようでは、話もできない。餓死されては困るのだ。

 そう、ガイアはまず話をしたかった。べつにネオゼネバスの重要機密を聞き出すつもりでも、こちらをどれ程の軍と見ているかを聞くつもりもない。異星人が出現し両軍の戦闘が中断されている今、わずかでも協力態勢を取りたい。それだけだった。向こうの戦力を利用したい訳でないのも確かだった。



「・・・ッフー、食った食った」

 とは口に出しても、満腹感を得られる気配はない。ようやく自分に与えられた食料を口にしたリオも同じだった。無理もない。二人は、ゼリーを少量胃に入れただけだ。じきに吸収され、再び空腹感がやってくるだろう。思ったよりもすぐに。だがガイアにも、もう少しマトモな食料がないわけではない。ただ何日かかるのかわからないため、なるべく節約をしておかなければ、すぐに死んでしまう。サバイバルを軽く見る者の末路は、良く知っている。

「さぁーって、カスタムUも少しは回復したかなー?」

 ガイアは愛機のコクピットに飛び込み、システムを起動させた。ディスプレイでエネルギー消耗率を確認するが、状況は芳(かんば)しくない。レーザーブレードの使い過ぎか。まだしばらく、軍から姿をくらまそうというのに。やれやれといった表情で彼は再び愛機を休ませ、背中を登っていった。

 昨日やられた、右のアタックブースター。一度排除したものを一応持ってきてはいたものの、中心を完全に貫かれており、ビームキャノンもブースターも、ミサイルポッドすらも使えずにいる。とりあえず残ったミサイルを反対側に装填する。オマケ程度に付いていた小型ミサイルにすら、今はすがるしかない。武装強化時に実弾も装備しておいて良かった、とガイアは思った。

 この機体に限らず、ほとんどのゾイドはビーム・レーザー兵器とスラスター系やEシールド、それに本体の燃料を共通のものにしている。腰に追加装備したエネルギータンクが尽きたら、後はコアの生み出すエネルギーだけが頼りだ。だがそれは時としてゾイドの寿命を縮める事にも繋がりかねない。特に、スラスターを併用した高い機動力を必要とする対アナザーゾイド戦では。それが悩みだった。

「・・・異星人の目的、見つかるかなぁ・・・」

 だがもう、後悔している暇すらないのかも知れない。そう思い、食べ終わってからずっと座っている少女に目線を向けた。

 リオは一応逃げ出す気でいた。だが武器は全て取り上げられ、手元にあるもので使えそうなものはテントの支柱ぐらいだ。もう腕は繋がれていないので機体に乗ろうと思えば乗れるが、起動させる前に目の前のゼロから攻撃を受けるだろう。そう判断し、何もできなかったのだ。

「・・・んで、リオ。いくつか聞きたい事があるんだが」

「・・・・・・何だ?」

 もし軍の機密を聞き出すつもりなら、絶対に喋らない。舌を噛み切る覚悟で聞き返した。

「なぁなぁ、あのサイクスって何年製?」

 はぁ?理解に苦しむ質問だった。軍の機密と関係のある質問とはリオには到底思えず、普通に答える。

「・・・ZAC2102年製だが・・・何故そんな事を?」

「へぇー、そっかー。もう開発から2年経つけど、機体構造はまったく変わってないなー。やっぱりサイクスも優秀なゾイドだよな〜」

 はしゃぐ子供のような表情で、ガイアが感想を述べた。本当に子供のようで、リオには軍人かどうかすら疑わせた。

「しかし、ここまで生き抜いてるお前の腕も大したモンだなぁ」

 何とこの男、自分を誉め始めたではないか。益々リオの疑惑が深まり、思わず聞いてしまった。

「・・・あなた20歳だってさっき言ってたけど、階級は?」

「え?中佐だけど・・・なんで?」

 その階級にしては非常に若い。『青の閃き』はゴジュラス系新型機の『レッドG』数十機を相手に一歩も退かず、鬼神のように戦ったと聞く。隊長機であり、冷静な判断力と洗練された操縦技術を持つ熟練兵だとも聞いた。それが、たった20歳だと言う。全てがウソのようだ。自分は夢でも見ているのだろうか。

「・・・あんまし誇らしいコトでもないがな」

「え?・・・何で?」

 ポツリと呟いた独り言を聞き返され、ガイアは少し重苦しそうに真意を語った。いずれ話すべき事だったので、整理はついていた。

 この階級は、ガイロス帝国摂政の命令で共和国軍人とゾイドを沢山殺して得たものだと。俺一人のこんな階級のために一体何人の人が、ゾイドが死んだか。それを思い出すと、胸が詰まってどうしようもなくなる、と語った。

「・・・・・・」

 それをただ黙ったままでリオは聞き続けた。聞き終わり、目の前の男の印象が変わった。今までゼネバス系の兵であった自分を虐げてきたガイロス兵とは明らかに違う。この男は敵も味方も死ななければいいと思っている。甘い考えだ、そうも思えた。そうやって相手を気遣っていては、必ず命を落とす。戦場では本来、一瞬の油断が死を招く。その戦場で男は、相手を殺さないように加減して戦っているのだ。甘い男。だがそれと同時に、優しいとも感じていた。

「殺し合う必要なんて、ないんだ・・・・・・まァ話がそれたので、本題に入る。異星人の兵器と交戦した事があるか?」

 やっと男の聞き出したい事がわかった。

「2度ある。フクロウ型2機と、合成型5機」

「そうか。お前さんの部隊は?」

「何機かやられたゾイドはあった。だが、パイロットは全員無事だ」

 それを聞き、リオの部隊はラグナロック隊と同程度の戦力だと判断した。条件は自分たちとそう大差はない。

 この後の質問は予想していたので、聞かれる前に答えた。この男は、何か違う。リオにはそんな曖昧(あいまい)な安心感があったからだ。

「私はその2度目の襲撃で本隊と逸(はぐ)れて、救援信号を出しながら待っているの」

 ガイアは我が耳を疑った。救難信号などを発信すれば、それが異星人に傍受(ぼうじゅ)される可能性は高い。もし異星人が惑星Ziの侵略を目的としているなら、躊躇(ちゅうちょ)する事なく新たなアナザーゾイドを派遣し、潰しにかかるあろう。もし、ゾイドを全滅させる気ならば。

「そ、その信号を出したのはいつからだ!?」

「えーっと、3日位前だったかしら・・・でもそんなに慌ててどうしたの?」

 3日か・・・、そう呟いてガイアは考え込んだ。一言も喋らず、微塵(みじん)も動かず、思考のみに集中した。発信からすでに3日経つなら、もうとっくに感知はされているのだろう。だが、攻撃してこない。まるで眼中にないかのように。

「何々?私にも教えてよ」

 いつの間にか口調が少し変わっている。多少雰囲気が和んだようだ。この雰囲気を自然と感じさせるのも、ガイアの性格からくるものだった。

 あぁスマン、と言って自分の思考の中身を教えた。その中には前線にいるラグナロック隊だけが持つ情報もあったが、ガイアはためらうことがなかった。

「・・・そっか、危なかったのね。でも、それならなぜ異星人は来ないの?」

「うーん・・・こうは考えられないかな。今は他の場所に派遣するので手一杯、とか・・・」

「でもあれだけのものを造れるなら、量産態勢も取れていると思うけど?」

 そうだよなぁ、と言ってガイアはゴロンと寝転んでしまった。いくら考えていても、結局は推測の域を出ない。

「・・・サテライトビームが撃たれたのは、軍事拠点とルシェミー王国・・・共通するのは、やはり軍事力か」

 とは言いつつも、王国が撃たれた理由が理解できなかった。確かにあの国のサンダーラプトルは、優秀なゾイドだ。だが全体で考えれば、王国よりも両軍の拠点を潰した方が戦力を削げる。にも関わらず異星人はまるで、あの国のベロキラプトルを絶滅させるように撃ったのだ。それが不思議だった。裏があるのか、はたまた何もないのか。

「ま、今考えても腹が減るだけだ」

 そう言ってむくっと体を起こし、リオの顔を見て友人のように話しかけた。

「食料を調達して来る。お前はどうする?」

 突然の事にリオは悩んだ。ここで待ち、ガイアが離れた瞬間にサイクスに乗れば逃げる事ができる。普段なら迷わずそうする。だが今日は違う。もっとこの男と話がしたい。そう思うもう一人の自分がいるのだ。

「・・・手伝う」

「ん。いい返事だ」

 微かに笑い、森に足を踏み入れるガイア。今、リオに背を向けている。返事と同時に立ち上がったリオは、またもや不思議な気持ちになった。敵に背を向けるこの男。余裕なのか、自惚れなのか、はたまたただの馬鹿なのか。変な奴だ、終いにはそう思いながらガイアの後に続いた。



同じ頃 ヘリオウィンダム隊―――――

「はーぁ、最近この辺りはのどかですねぇ」

「敵さんも異星人のお相手で忙しいのね。こっちには異星人が来ないけど・・・?」

 アテナ基地周辺は、ここの所ネオゼネバス軍の襲撃がない。たまに出現するアナザーゾイドの迎撃が、今の所の任務。そのアナザーゾイドも大した脅威でもない程度のもの。すでに司令部から送られたデータにある、はじめの頃に出てきたアナザー(レオやラギア)が数機。一方ラグナロック隊は様々なタイプのアナザーと交戦し続けていると聞く。

「多分、シュリナス中佐達が異星人の目を引き付けているんでしょうね」

 隊長であるレベッカも、割合自由時間があった。整備担当のフラニーも仕事がなく、基地内の電気機器を改造して回っている程。ヒカリに至っては、趣味である踊りに精を出していた。各々が自由だったのだ。実に平和的だった。

 だが過去の戦闘記録と比較して平和過ぎるこの日々が、レベッカを不安にさせた。何かが起こる前触れ、とでも言えるような漠然とした予感が彼女にはあった。幸い、その内ラミディム少将が再びこの基地にやって来ると通達があった。彼女らにとって、とても頼もしい者である。例え彼がガイロス兵だとしても。

「隊長は最近、中佐の事ばかりですね」

「そうそう。キングザウラーが強奪されて、ラグナロック隊が出て行ってからと言うもの・・・レベッカったら部屋の模様替えしたり、何を話していても二言目には中佐中佐って。おまけに中佐が忘れていかれたウルフのキットを、大事そうに保管してるんだから」

「それにどことなく、しょんぼりしてるのよねー」

「ちょ、ちょっと。みんなして何言ってるのよ!」

 慌てて皆を止めようとするレベッカに、アリスの一言が刺さった。

「好きなんでしょ、中佐の事が」

 ハッと皆がレベッカの方を向くと、彼女は顔を赤らめていた。笑顔を取り繕い、それを隠そうとした顔だった。

「なっ、なん・・・(///)」

 その顔を見た皆も、急に頬を染める。モジモジと口を開く女性達。

「ま、まぁ、中佐カッコ良かったし・・・」

「レベッカの言った通り、尊敬もできたし・・・」

「隊の皆様も、とても良い方ばかりで・・・」

 そんな微笑ましい光景を砕く、警報が流れた。多少温和な日々に染まろうとも、彼女達の心構えは変わっていない。恋する乙女から、瞬間的に軍人の顔へと変わる。

『基地に迫るゾイド有り!数は1!戦闘員の方々は、出撃願います』

「出撃準備!・・・一機だからって、気を抜かないでよね!」

『了解!!』



 10分後、ブレードライガー20機は敵の目の前に来ていた。先程から、敵機が停止しているのだ。おかしいと思いつつも、いつものフォーメーションを取る。隊を5つの小隊に分け、前に2つ、後ろに3つ展開させる。それぞれが散らばり敵機を包囲するような形で布陣を完了した。だがそれでも、敵は微動だにしない。それどころか、コア反応すら微かに動く程度。完全に停止しているのだ。

 敵機は本当にただの一機。狼型のように見える。サイズはコマンドウルフと同じ程だが、形状はまるっきり違う。

「こちらはHG連合軍所属・ヘリオウィンダム隊である!貴殿の信号はネオゼネバス軍のものと判明している!即刻この場を立ち去らぬ場合、我々に敵意のある者とみなし戦闘行為を―――――」

 レベッカがそこまで通告した時、微かに敵機の眼が光った。機体が起動したのだ。すぐさま迎撃態勢を取る隊の面々。だがそれは遅かった。次の瞬間、敵はその場に居なかったのだ。それと同時に、近くにいたアリスのブレードライガーの四肢が飛んだ。

「!?」

 アリスの名を叫ぶ前に、今度はフラニーのライガーが、胴体から爆発を起こした。部隊の外にいたライガーの胴が、完全に貫かれていた。幸いコクピットには損傷が少ない。無事だろう。だがそう安心してもいられない。破壊された機体に目を向ける度に、別の機体が沈黙する。伏兵がいるとは考えづらい。おそらくただ一機が、超高速で動いているのだ。ライガーを攻撃する一瞬ですら、敵機の姿が見えなかった。ほとんどの者には。

 レベッカが駆けた。感じる、敵機に搭載されているあのシステムを。彼女のブレードライガーは初期型で、オーガノイドシステムのレベルが軽減されていない。そしてそのライガーが感じているのだ。過剰な闘争心を煽(あお)られるのは、敵機にもオーガノイドシステムが搭載されているという事。

 レーザーブレードとEシールドを展開し、空中に跳ぶ。その時キィンという高い音がし、レベッカのブレードが2本同時に砕かれた。同時にEシールドジェネレーターが破壊され、ストライククローがもぎ取られ、ショックカノンが切り裂かれ、レベッカは攻撃の手をほとんど失った。いくら何でも、速過ぎる。ぐっと歯を食い縛るレベッカ。だが彼女は、まだ諦めてはいない。

「・・・・・・中佐、私に力を下さい。少しで構いません・・・仲間を、守りたいんです」

 ロケットブースターを点火し、爪を無くした四肢が大地を蹴って口を開く。唯一残っている牙で、敵を捉える。今の彼女には、敵機の姿がはっきり見える。先程は微かに見えただけで、その結果武器を失った。だが今なら敵の動きが見える。先程よりも強く、ライガーが感じている。向こうもオーガノイドシステム搭載機なのは間違いないが、それ以上敵機について思ったりする余裕は無かった。それだけ、この一撃に懸けていた。

「止まれェェェェェェ!!」

 眼前の敵がこちらに気付き、迫ってくる。Eシールドの無い今、頭に直撃を受ければ命はない。だが避けない。今や部隊で動ける者は自分だけだ。ここで避けたら、全てが終わる気がした。

「レベッカ!!」

 隊員達が叫んだ。鈍い音の後、2機が同時に着地した。敵は後ろ足の装甲が溶けている。当たったのだ。だがレベッカのブレードライガーは、着地と同時に腹が裂けた。下半身が爆発し、上半身も分解する。肩が、胸が、そして首が宙を舞った。その首から、シートが射出される。

「ライガー!」

 レベッカの目の前で、愛機が再び爆発。炎上してしまった。ドスンと着地し、特に怪我もなく地面に立つレベッカ。ふと周りを見回すと、他の機体も同じように悲惨な状況だ。あるライガーはゾイドコアが露出し、あるライガーは全身がズタズタに切り裂かれていた。そのどれもが、生命反応を失っている。徹底的に破壊された残骸の山。仲間が生きているのかどうかもわからない。その目線の中に、敵が入ってきた。こちらを睨みつけている。

「・・・・・・」

 レベッカは、がたがたと震えている自分に気が付いた。装甲式で中の見えない敵のコクピットから、殺意が伝わってくる。自分達は殺される。それを肌で感じる。今まで生きてきて、これほどまでに恐怖を感じた事は無かった。ミサイルが眼前に迫った瞬間ですら、こうはならなかった。

 ヘリオウィンダム隊の全てのブレードライガーを瞬く間に全滅させた敵。そいつは数歩歩き、そして静止しレベッカに照準を合わせた。もはやレベッカはすくんでしまい、その場から動く事もかなわなかった。

「――――!?――――」

 敵機が突然駆け出し、レベッカを飛び越えた。次の瞬間、敵機が今の今まで居た地面が爆発した。その後ろで咆哮が轟(とどろ)いた。恐竜型特有の重い咆え。だがどこかに威厳や怒りを感じる。ゴジュラス系列の咆哮だった。

「・・・少・・・将?」

 誰かが呆然と呟いた。咆哮の主は、改造ゴジュラスとそれを駆るラミディムだった。ロングレンジバスターキャノンを撃ち、辛うじてレベッカを救った。そのまま全速力で接近し、敵機にビームブラスターを浴びせ掛ける。それを避け、ゴジュラスに飛び掛る敵。速い。並のゾイドとパイロットでは反応できるはずのない動き。だがその敵機を、ゴジュラスのクラッシャーテイルが捉えた。直撃だ。装甲は粉砕され、本体にも強烈なダメージを受けた。敵は空中で体勢を整えると、すぐさま撤退した。間髪入れず砲撃を加えるが、すべて外れた。最高速度も機動力も、凄まじい機体であった。



第七話 終わり




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