第六回 隊長不在の中で・・・
「ガイアの捜索を打ち切ると、本部から通信が」
ホークの報告に、その場は静まり返った。
トリケラとの戦いより4日。戦闘中にトリケラと共に行方不明となったガイアは、帰還していなかった。他の部隊が捜索を行ったが、見つかったのはトリケラの残骸。撃破はしたようだが、肝心のカスタムUは装甲の欠片程度しか見つからなかったのだ。
「あのバカ、何で帰って来ねェんだ?」
「・・・やられてなんか、いないよな?」
「!・・・当たり前じゃない!!何言ってんのよ」
それから更に2日。ラグナロック隊のキャンプの格納庫には、虚(むな)しくハンガーが一機分空いたままだった。一方、フューラーやゼロの修理もあまり進んでいなかった。各々も多少は機体をいじれるのだが、修理ともなるとやはりバニッシュに頼るしかなかった。以前はガイアも作業に参加していたが、今はいない。そのためだった。
「さァ、今日は高機動戦闘の練習だ」
「ハイ♪」
シーフとクリスは、訓練を続けている。残り1週間で、サンダーラプトルを乗りこなす。そして、ガイアに認めてもらう。彼が帰ることを信じ、二人はテストに備えるのだ。二人の仲も、上々だった。特に男と女という意識はなかったが、信頼し合える者として。
クリスの腕は着実に上がっている。しばらく難航していたブースターでの高速移動も習得し、イエーガーと高速戦闘の演習を行っている。
「・・・・・・・・・」
それを見ている人が一人。ロールだ。彼女はガイアがいなくなってからずっと、気落ちしていた。ろくに休まず、キャンプ内を歩いている。彷徨(さまよ)っているかのように。
コンピューターの前で頭を抱えるホーク、キリー、リース。先日の戦いより、ついに生きたままコアブロックを回収できた。だが、ブロック結合プログラムは彼らの思ったよりも複雑で、解析に4日かかっている。ほとんど不眠不休での作業を続けていた。休まずに続けているのは、彼らの心に希望が見えていたのだからだ。これを完全に解析し、意図的に狂わせるような信号を発信できれば、アナザーゾイドは無力化するはず。その想いが、彼らを働かせ続けていた。
「お疲れさん!少し休んだらどうだ?」
「あ、ブレイドさん。すみません・・・」
キリーはリースをボーッと見ていた。
「リースってさー、ブレイドに対してはホント嬉しそうなカオすんのね〜」
「いいんじゃないか?それもブレイドの力だ」
キリーは、ホークの言葉が少し意外だった。呆気にとられるように、ホークを見つめる。
「・・・・・・どうした?」
「いや、ちょっと意外なコメントだなぁって」
それを聞き、フッと軽く笑うホーク。ブレイドとリースを見ながらこう言った。
「・・・この隊にいて、俺も随分変わったからな」
その横顔が、キリーにはとても新鮮なものに見えた。
「・・・甘いわよぉ、ブラッド!」
「負けるかっ!」
「なッ、レーザークローを避けやがった!?」
「そーそー当たらないぜ?」
エクスブレイカーを避けたジェノザウラーがスマッシュテイルをしならせ、シュトゥルムがライガーゼロのレーザークローを紙一重でかわした。
ナギサ、ブラッド、デューク、キースはシミュレーターでの訓練をやっていた。ナギサのみ自分の愛機が再現できない(簡易シミュレーターのため)のでジェノザウラーでだったが、他は愛機と同じゾイドを選択して戦っていた。
「フゥ、危ないあぶな―――――」
スマッシュテイルを受け流し油断したブラッドのディスプレイには、ジェノのレーザーライフルがほぼ零距離で直撃した映像と『YOU LOSE』の文字が映っていた。一方デュークはエクスブレイカーで脚をもぎ取られた上に荷電粒子砲を至近距離で受け、負けていた。
『ああぁぁぁ、やられた!!』
ブラッドとデュークの声が重なり、シミュレーターが終了した。
「今度はチーム戦やろうぜ!」
「じゃ俺はもちろんナギサと」
デュークはヒョイッとナギサの腕を引き、自分の腕の中に抱き寄せて頭を撫でた。子猫を可愛がるように。恥ずかしいながらも、ちょっと嬉しそうなナギサ。始めは二人の関係を隠していたものの、いつの間にか隊長公認となっている。その幸せそうな二人を見てブラッド、キース共に笑顔でいたが、反面羨(うらや)ましくもあった。
「ふぅ〜、汗かいたわねぇ。一緒におフロ行きましょうね♪」
「どうぞお一人で・・・って無理矢理にでも入れるつもりですかぁ!?」
ヘレンとロベルトが楽しそうに(かなり一方的に)廊下を歩いていた。パイロットとは言え、己自身の身体も鍛える。そうやってきたロベルトにヘレンがくっついて、一緒にトレーニングしていたのだ。ヘレンはロベルトにつきっきりだが、その想いは常に一方通行だった。真面目なロベルトに色仕掛けで迫っているのがダメなのだろう。
「イヤです!僕は一人で入ります!!」
「あ〜ら、照れちゃってぇ。カワイイ子にはおねーさんがぁ、イイコトしてあ・げ・る♪」
それらの光景を見ていたロールは、フラフラと色々な場所に歩いて行った。格納庫、休息室、鍛錬場・・・・・・最後に彼女は、個室の方へと足を向けた。やがてある部屋の前で足を止め、小さくドアをノックした。しばらく待つが、返事はない。それもそのはず、ここはガイアの部屋だった。彼女は、ガイアを探していた。ガイアの面影を。
カギは開いていた。カギをかける暇も惜しみ、出撃していったのであろう。部屋に入ったロールは、辺りを見回した。作りかけのゾイドのキット、しおりを挟んだままの本、干してある軍服。主がいないなど到底思えない部屋。その部屋の片隅に、彼女は何かを見つけた。写真立てだ。それを手に取る。
「・・・ッ・・・・・・」
その写真は、彼女とガイアのツーショットの写真だった。格納庫でナギサに撮って貰った、初めての二人の写真。ガイアはそれを、大事に写真立てに入れて飾っていたのであった。
「・・・・・・ば・・・か」
ロールの目には、いつの間にか涙があふれていた。悲しい時に流れる、冷たい涙。それがとめどなく流れ落ちていく。
「何で・・・戻らないのよ・・・・・・かお・・・見せてよぉ・・・」
ガイアに会えない。それだけで悲しい。ロールも彼が生きていると信じたかったが、この状況では万が一という事もあるかも知れない。アナザーが頻繁に出没している今では。そんな風に考える軍人としてのもう一人の自分が、ロールはイヤだった。
「さみ・・・しいんだからぁ・・・ねぇ、なにか・・・言ってよぉ」
そのまま彼女は泣き続けた。泣いた所で彼が戻ってくる訳ではない事が分かっていても、彼女は泣くしかなかった。この悲しい気持ちを少しでも吐き出すために。
だがそんな時でも、戦いは無情だ。アナザー接近の警報より数分。迅速な行動で愛機に乗り込み、現地へと向かう隊長を欠いたラグナロック隊。前に一度ガイアを欠いて出撃し、そのまま戦闘になった事がある。エレファンダーとの戦いでだ。その戦いでは結局、ガイアが到着してから反撃に移れた。だが、今度はそうもいかない。そんな予感があった。
「敵5機!・・・ウネンラギア型の強化機のようだ!どうするホーク?」
「・・・陣を組んでの格闘戦を展開する!ロールはサポートだ!」
『了解!』
隊員達の士気は落ちていたが、敵に容赦は無い。今度はアサルトライフルだけでなく、レールガンや電磁キャノンが追加装備されている。装甲も増え、2まわり程も大きくなったように見える。
「来るぞ!避けろ、ロール!」
「・・・はっ!!」
一瞬反応が遅れただ、なんとか当たらずに済んだ。彼女の頭からは、ガイアの事が離れない。戦闘中にもかかわらず。集中できていないのだ。
「よっ、はっ、ほおっ!喰らえ!!」
シーフが一気に間合いを詰め、強化ラギアの背中にレーザークローを突き立てる。連射される数々の射撃装備をいとも簡単にかわしたのだ。ここ最近で、彼は腕が一気に上がった。クリスの教官としてイエーガーと数々の訓練を行っていたからだろう。それと、気持ちの面でも限りない成長を見せていた。真の才能の開花、と言っても過言ではない程。
「やるな、シーフ!なら俺も!!」
デュークも触発されたように駆ける。シーフと同じように動き斬りかかる彼のレーザークローは、避けられた。分離してゼロの上空を通り、ゼロの方を向いて合体。そのまま反撃に移ろうとした強化ラギアは、ナギサに撃ち抜かれ蜂の巣と化した。デュークは最初から、ナギサの狙いやすい位置におびき寄せるのが目的だったのだ。
早くも2機もの仲間失った強化ラギアだったが、まったく動じず冷静だった。パイロットのいない、機械だからこそ全く動じないのだった。そのラギアのレールガンが、本調子になれないロールのソーダーを襲った。
「!!」
気付いた時には、弾はもう当たっていた。だが当たったのはソーダーの腹ではなく、シュトゥルムのシールドだった。ギリギリでキースがかばっていた。ガイアのように。
「す、すみませ・・・」
「バカ野朗!負けるぞ!!」
コクピットに、キースの怒声が響いた。ざらつくモニターに映るキースの顔は、怒りマークが額(ひたい)についていた。
「・・・気持ちはわかる。けどな・・・」
キースは、ロールの返答を待たずに言葉を続けた。
「・・・あいつが居ねェ間にやられたら、あいつは悲しむぜ」
そのセリフに、心を打たれるロール。ガイアは、今は留守にしているだけ。そして、自分達は留守番をしなければならない。負けてはならない。キースは自分に、そう言ってくれている。
「・・・ありがとう、キースさん!」
キースにモニター越しの笑顔を送り、通信を切る。フッ、と笑みがこぼれた。こんなカッコ悪い所、ガイアに見せられない。そう思った。急降下し、対空防御より先に攻撃。ウイングソードとその衝撃波で残った3機に、かなりのダメージを与えた。
「止めだ!ナギサ、バニッシュ!!」
『O・K!』
ホークの号令の元、パンツァー、マグナブレイカー、ヤクトの一斉射撃に強化ラギアは完全に沈黙した。勝った。ガイアの留守を守れた。その喜びが、隊を活気付けていた。
「・・・そ、それホントなの!?」
ヘレンが驚愕の意を示した。彼女の愛機であるゴジュラスギガに、武装が増えるのだという。彼女にとって、それは吉報だった。今までアナザーゾイドと戦ってきたが、その機敏な動きと小型機ならではの機動性に、格闘戦のみのギガでは対応できていなかったのである。
「あぁ。回収できたコアブロックを使えば、今まで手に入れたアナザーのパーツを使った武装が付けられるぜ」
バニッシュが話してくれた。今回の戦闘で、奇跡的に無傷のコアブロックを手に入れる事ができたのだ。願っても無かったこの幸運に、技術屋のバニッシュが特に喜んでいた。
だが、彼はここ数日ほとんど寝ていない。修理・整備に加え、コアブロックの解析にも加わっていたのだから。
「とっても嬉しいわ!・・・けど、アナタも休んでね。倒れそうになるまで働くなんて、体に良くないに決まってるもの」
「あぁ・・・スマンな」
第六回 終わり
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