第五回 異星人の目的



 目の前に赤いゾイドがいる。赤き暴風・セイバータイガー。それは部隊の半数を撃墜し、もう半分も小破・中破させていた。隊長機のシールドライガーも炎上し、パイロットもすでに生きてはいないだろう。周りにはコマンドウルフの、仲間達の残骸が。もはや満足に戦闘が行える者はいない。たった一機のセイバータイガーに全滅させられる。絶望だけが頭を支配していく。もう抵抗する気もない。乗機のウルフも首を噛み切られ、息も絶え絶えだった。

 だがセイバーは自分達に飛び掛る事なく、あたりを見回した。そして自分達に背を向けた。何だ?自分達を殺すのではないのか?困惑し曇りかけた視界に、違うゾイドが飛び込んできた。味方のウルフ。純白だったコマンドウルフだが、前脚の片方はもげ、装甲各所に砲弾のかすった跡、岩にぶつけた跡などがある。ビーム砲も一本が捻(ね)じ曲げられているが、構わずビームを撃つ。それをかわすセイバーに、エレクトロンファングを稼動させて飛び掛る。

―――――やめろ。

 頭にそう響いた。勝てるはずがない。敵は傷付いたウルフではどうにもならない相手だ。命を捨てるようなものなのだ。

―――――やめてくれ。

 セイバーも反撃に移った。ウルフの牙と爪を避け、ストライククローでウルフを吹き飛ばす。ウルフは岩に打ち付けられたがゆっくりと起き上がり、三本の脚で再び突撃する。セイバーはそれを微動だにせずじっと睨(にら)みつけていたが、ウルフがビームを撃つとそちらも走り出した。

―――――やめろ、やめてくれ。

 空中での一瞬の交錯。着地したセイバーのほおには、ストライククローのかすった跡がある。ウルフは攻撃を受けていない。だがウルフが着地する事は無かった。セイバーの尾から発射された2本のレーザーで貫かれた。

―――――やめろ!やめろ!

 レーザーの直撃で、ウルフは一瞬だけ時が止まったように空中に静止した後、内部から爆発を起こした。ゾイドコアが爆発し、機体は粉々に砕け散った。ビーム砲も、四肢も、コクピットである頭も。岩にぶつかり、炎上した。

―――――そんな、そんな!!

―――――いやだああああああ!!


「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・」

 シーフはベッドから飛び起きた。彼は悪夢のような、過去の記憶を夢で見た。できれば忘れたい、だが忘れる事のできない忌まわしい記憶を。

「・・・くそっ・・・」


 あれから2週間が、あっという間に過ぎた。その間、異星人への対応策を検討し続けたガイア達だったが、あまり先に進まなかった。作戦を決定するには、まだまだ判断材料が足りなかったのだ。

「とりあえずの所、生きてるコアブロックからウイルスを送信し、こちらで輸送艦を操る。それしか無いよな?」

「だが、それだと今までと全く違う戦い方をせにゃならんぞ?」

 ブレイドが言った事は本当だった。これまでは、繰り返される分離・合体のモト(=コアブロック)を破壊する事で勝利してきた。だが、今度はそのコアを生け捕りにしなければならない。

「装備のみを完全に粉砕すれば、再生もできない筈だ」

「あ〜あ、モビーディックやサラマンダーが上空から輸送艦を捕獲してくれりゃ、早いんだけどな〜」

「いっそのこと、ダークスパイナーくれよ〜」

「アホ、こっちに回せるんならもうとっくに、連合は勢力を盛り返してるよ」

 彼らの論議は毎晩遅くまで続いたが、確実な手立てが未だに思いつかなかった。


 一方、クリスはシーフの期待以上の成長をしていた。王室護衛隊のゾイドだったためか、サンダーラプトルもクリスと心を通わせかけていた。もう少しで、サンダーラプトルの力を引き出せる。そこまできていた。

「ガイアのテストまで、まだ2週間もあるんだ。少し休め」

 シーフが声をかけるが、クリスはコクピットに座り続けている。

「まだ走る事もできていないんです。どの様なテストかは分かりませんが、それでは受ける事もままなりません」

 その成長の反面、クリスの疲労もたまっていた。彼女は時間の許す限り、ラプトルのコクピットにいた。かつてのアーサー・ボーグマンと同じように。

「・・・無理はするなよ」

 それに応えるべく、シーフも力の限りゾイドを動かし、少しでもコツを教えた。

 二人は、心身共に疲れきっていた。


その晩―――――

「・・・ブースターを使うと操作性が別物になる、とシーフさんが言ってましたが・・・どの様に違うのでしょうか?」

 クリスはシーフの部屋へと向かっていた。また一つ増えた疑問を解消し、自分の力へと変えるためだ。

「・・・いらっしゃいませんね・・・」

 何度もドアをノックするが、返事は無い。と、クリスはある事を思い出した。シーフから、部屋の合鍵をもらっていたのだ。部屋に入るが、やはりシーフはいない。暗かったので、手探りでスイッチを見つけて明かりを点ける。

 シーフの部屋に(むしろ、男性の部屋に)入るのは初めてだった。それがクリスには新鮮だった。知らないモノが至る所に置いてある。本やCD、ゲームに始まり、家族らしき人と一緒の写真などがあった。その写真が貼ってあるボードの下に、伏せてある写真立てがあった。なんだろう、と思ってクリスはその写真立てを手に取った。

「・・・想い人でしょうか」

 女性だった。若い女性(16,7歳位だろうか)とシーフが一緒に写っている。二人とも、とても幸せそうだ。特にシーフの方は、今まで見てきた笑顔より数段生き生きとしていた。

『99/09/20 オリンポス山』と片隅に書かれていた。その字は少しにじんでいた。まるで水で濡らしたかのように。

「・・・・・・」

 クリスはしばらく黙ってしまった。あまり戦場を知らない彼女だが、その日付にその場所で、何が起こったかは知っている。オリンポス山頂の制圧に向かう共和国とそれを迎える帝国との壮絶な戦い。そこにこの二人はいたのだ。

 写真立てを置き、ふとベッドを見た。途端、彼女を急に睡魔が襲った。この最近の疲れが来たのだろう、布団にもぐりこんだ。その時、手が何かに当たったが、クリスにはもうどうでも良かった。眠気が頭を支配し、すぐに夢の世界へ飛んでいったのである。同時に、部屋の明かりが消えた。シーフは案外横着な面も持ち合わせていて、枕もとに電灯のスイッチを増設していたのだ。そしてそれにクリスが偶然触れた。


「あ〜、今日も終わったな〜」

 それから少しして、シーフが部屋へと戻ってきた。彼はかなり疲弊していた。疲れきった表情で、部屋の鍵が外れている事にすら気付かない。明かりも点けずに部屋へ入り、カギもかけずに軍服の上着を脱いで仮眠に入った。

「・・・抱き枕なんて買ったっけ・・・ま、いぃや」

 その抱き枕(?)はとても気持ちよかった。太さも長さも、丁度いい。そんな事を思いながら、シーフもまた夢の世界へと落ちていった。


「う、う〜〜〜ん。ッハーッ、朝が涼しいと寝覚めも気持ちいいなー」

 廊下を歩いているのは、ガイア。その隣を、ロールが歩いている。

「そうね、ここ最近にしては珍しく涼しいわねぇ」

 今日は二人で早朝練習を行う予定だ。たまには生身での訓練を、とロールが言い出したのが始まりで、ここ数日ずっとやっている。主に格闘技の組手だ。間もなく二人は鍛錬場に着き、動きやすい格好へと着替えた。

「さぁ来い、ロール!」

 その声に呼応して、ロールが間合いを詰めてきた。刹那、鋭い蹴りがガイアの頭部に迫った。それを表情一つ変えることなく片手でさばき、ロールの背後をとるガイア。それに一瞬で対応するロール。肘で脇腹を突く。だがわずかに体勢が崩れたのをガイアは見逃さない。丁寧にガードしてから冷静に腕をかけ、そのまま地面に落としてしまった。そこまで対応できずに、倒れてしまうロール。ガイアはその腕に続けざまに関節技をかけ、起き上がる事もできないようにした。

「まだ大技の後がフラつくな。もう少し腰を落とした方がいい」

 腕を解き、言いながらロールの手を取り立たせる。だが言葉を言い終えた次の瞬間、ガイアは拳を突き出していた。

「さァ、まだまだいくぞ!」

「ハイッ!」

 この数日間で、ロールの動きも抜群に良くなった。まだブレイドやガイアには届かないものの、下手な男よりも立派に戦えている。そうガイアは思った。時々意表も突かれる。

「たァッ!」

 気がつけば、ガイアの眼前に拳が。慌ててそれをかわし、そのまま背負い投げに持ち込む。だがロールは強くなった。ガイアが背を向けた一瞬で首をしめ、投げられないようにする。ならばとばかりにその腕を掴みわずかなスペースを空け、自分から回転しスルッと首を抜くガイア。そしてそのまま回転の軌道に乗り腕を締め上げる。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・やっぱりガイアには、まだまだ敵わないわね」

「そうでもないさ。日に日に良くなってる。その内俺を追い越すかもな」

 あまり長い時間、組手を続けるわけではない。適度に動き、適度に休む。今回は10分間全力で動いた。それだけでかなりの体力を使ってしまうロールに対し、ガイアはほとんど息切れしていなかった。そこが一番の差なのかも知れない、とロールは思った。

「そしたらもう、ブレイドか俺の師匠に稽古をつけてもらうしか無くなるな」

「そうなるのは一体いつの話かしらね♪」

 二人は、この時間が好きだった。スポーツの後はスッキリするし、早朝なので二人の邪魔はほとんどいない。二人だけでジックリ語らう事ができるのだ。

「・・・ねぇ、一つ聞いてもいい?」

 不意にロールから笑顔が消えた。それを心配するような口ぶりでガイアは聞いた。

「ん?どうした、そんなあらたまって」

「うん・・・ガイアって、女の人と付き合った経験ある?」

「ないけど」

 あまりに即答だった。自分と何ら関係ない答えのように、感情を込めずガイアはそう言った。ロールにも、嘘を言っているようには聞こえない。

「・・・10で軍に入ったけど、そン時から任務だけに一生懸命でな・・・17でサイクスに乗ってからは、ひたすらに力を求めた・・・」

 ガイアは静かに語った。今までに幾度と無く振り返ってきた己の過去を。異例の幼さで軍に入隊し、疎(うと)まれた事。それを解消するために、必死に腕を上げた事。そして、かつて彼の隊が彼を除いて全滅した事。それはこの戦争としては日常茶飯事であり、この歳としては非日常的な出来事の塊だった。

「本国に撤退して混乱が起きて、それで・・・恋愛なんかしてられなかった。心休まる時間が無かったんだ・・・」

 ガイアは深く溜め息をついた。話している内に暗くなってしまった感情を吐き出し、気持ちを落ち着かせるためだ。それからロールの顔を向き、微笑みながら今の自分の気持ちを伝えた。

「でも今は違う。ロールといると、戦時下なのに安らかな気持ちになる。俺にこういう優しい気持ちがあったなんてな」

「私は、そういう気持ちだけじゃないの・・・」

 ガイアから目線をそらし、わずかに頬(ほお)を紅潮させながらロールは言った。小さな声で、はにかみながら。

「その・・・今よりももっと仲良くなりたい、と言うか・・・・・・」


シーフの部屋―――――

 こちらはこちらで、二人の朝を迎えていた(ちょっと違う)。

「う・・・うーん・・・」

 日の光が眩しくて、クリスは起きた。だが、身体が起きない。何かが身体にからみついている。

「ん・・・」

 男の腕だ。シーフが一緒のベッドで寝ていたのである。

「え、あ・・・シ、シーフさん、起きてください・・・」

 そう言いながら、必死に腕をほどこうとするクリス。が、起こさなければならないという気持ちと、睡眠を邪魔してはいけないという気持ちが入り混じり、どこか本気になれない。それでも自分では一生懸命に起こそうとする。だがその努力はむなしかった。

「ムニャ・・・まだ寝るぅ」

 寝言が聞こえたかと思うと、シーフに抱き寄せられた。彼の顔が自分の目の前(距離にして数センチ)にある。これはたまらなかった。

「キ・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 その悲鳴は、ガイア達にも聞こえた。

「この声・・・クリスちゃん?」

「何だなんだ、ナンかあったのか!?」

 二人は同時に走り出していた。ウォーミングアップはバッチリだったので、速かった。

 声の元は、シーフの部屋からのように聞こえた。

「シーフ!いるか!?」

 鍵が開いていたので中に飛び込むガイアとロール。二人はそこで信じられないものをみた。悲鳴で半分起きたシーフが、クリスを抱いている。

『・・・あの・・・これは・・・?』

 そのまま二人の頭は真っ白になってしまった。


 その後、二人の弁解が始まった。シーフにとってはたまったものではない。朝起きたら、自分の腕の中にクリスがいたのだから。

「ホントぉ〜〜〜にそうなの?シーフさん」

「ほ、ホントだよ。昨日は疲れてたんだからぁ。信じてくれよ」

 ロールはナギサから、前の『着替え事件』を聞いていたため、必要以上にシーフを疑った(もっとも、ガイアと二人きりの時間を邪魔されたという恨みもこもっていたようだが)。だが今回も、クリスもそう言うのでこれ以上はできなかった。

「ねぇ、ホントにシーフさんに任せといていいの?」

 以前に一度聞いた。今はその時よりも疑念が深まっていたロールに対し、ガイアはあっけらかんとしていた。

「だーいじょーぶだって」

「でも、次は未遂で終わらないかも知れないのよ!?」

 ロールは心配だった。一番最初に自分を信用してくれた少女なだけに、クリスの身を案じ続けていたのだ。

「後でシーフにクギを刺しとくから」

 もちろんこれは、注意しておくという意味だ。事情聴取の上、トイレ掃除でもさせるんだろうか。

「・・・案外、あの二人もアレでいい仲じゃないかな?」

「え・・・そう?」


「・・・まさかベッドに居るとは思わなかったんで・・・とにかくスマン」

「寝起きは弱いのですね。少し意外です」

 クリスはフフッと笑った。結構ガイアのカンも当たってるじゃないか。

「ところで、差し支えなければ・・・そこの写真について、聞いても宜しいでしょうか?」

「・・・あの、写真か?」

 さっき気付いたのだが、今までずっと伏せておいたはずの写真が、立っている。どうやらクリスが見たようだ。シーフは写真を手に取り、クリスに見せた。

「こいつ・・・・・・死んだんだ」

 クリスの予想は当たっていた。それからシーフは、写真の女性について話し始めた。

「こいつとは同じ部隊でな・・・俺との仲も、結構良かったんだ・・・コマンドウルフに乗ってたんだ。日に日に共和国の戦線が縮まる中、司令部から命令を受けてね。『オリンポス山頂を制圧せよ』って。そこで、セイバータイガーと遭って・・・」

 シーフは言葉を詰まらせた。もう4年近くも前だが、やはり苦い思い出は話しにくい。

「俺達の部隊は負けたんだ。たった一機のセイバーにな。あいつのコマンドは片脚を失ってなお、突撃してな・・・反撃を受けて、爆発したんだ」

 つらい、現実だった。彼女は敵に殺されたのだった。

「・・・だから、言ったんだ・・・もう無理だ、って・・・なのに・・・」

 シーフは悔しかった。憎むべきは、そのセイバータイガーのパイロットでも、出撃を命じた司令部でもない。戦争が、彼女の命を散らしたのだ。そして自分は守れなかった。最愛の人を。その後悔の念が残りつつも、まだ軍人として戦場に立ち戦争をやっている。もはや逃げられない現実が、最も彼を苦しめていたのだった。

 それから二人は、しばし黙ったままだった。クリスには、かける言葉が思いつかなかった。自分が今まで見てこなかった、『戦争』という名の悲劇が、彼女にも重くのしかかっていた。

「・・・悪い、こんな暗いハナシしちまって・・・、でも話せたおかげかな、少しスッキリしたよ」

 シーフは無理を言っていた。自分の弱い部分を、自分から隠した。そうやって心の奥底から目を背け、仮面をかぶる。シーフがいつでも、ただひたすらに笑顔でいたのは、そのためでもあった。

 その気持ちを、クリスは否定した。

「・・・隠さないで下さい・・・。つらさを・・・悲しみを」

 その言葉は、シーフの感情に影響を与えた。

「つらい時は・・・苦しい時は、泣いてもいいのです」

 ハッと胸を突かれた。今まで誰も気付かなかった、心の一番奥に触れられているような気持ちになった。初めて自分を、全て理解してくれている。そう思えた。

「・・・クリス・・・」

 穏やかな気持ちになれた。全てを包み込んでくれている。と、逆にクリスの方が泣き出してしまった。

「・・・ありがとうな。救われたよ」

 目の前で、感情移入し涙を流す少女の頭を軽く撫でる。それと同時に、一つの考えが頭に浮かんだ。

「もう・・・ナンパはしなくていいな」

 彼のナンパは、自分の心の隙間を埋めてくれる『誰か』を探していたのかも知れない。だが、これ以上探す必要はなくなった。見つけた、その『誰か』を。


 けたたましい警報に追い立てられ、愛機のコクピットに飛び込むシーフ。

「ったくゥ・・・濡れ衣が晴れたと思ったら、今度は敵襲かよ・・・」

 ぶつくさ言いながらもイエーガーを加速させ、現場に直行する。クリスはまだ留守番だが、『お前の分も、俺が戦ってくる』とキザったいセリフで彼女を落ち着かせて来ていた。

「ガイア!状況は!?」

 カスタムUはすでに戦場に来ていた。誰よりも早く出撃し、全速力で駆けつけていた。一刻も早くアナザーを倒し、これ以上の被害が出ないように。異星人侵略の被害者であるクリスと会ってからは、尚更そう思う。被害を受けているのはこの辺りの他にも、西方大陸東部やネオゼネバス領などの軍事拠点がある。そういえば、何故異星人はルシェミー王国を攻撃したのだろう。そこまで思い至った時、先行するブラッドから通信が入った。

「リザードが5機!奴ら、次第に戦力を増やしてきたな」

 まずい、そう思う。今までは電磁波等の攻撃で分裂を封じ、辛うじて勝ってきた。だが、いまだに電撃を操れるのはキリーのイクスただ一機のみ。イクスの換装パーツが、手元に無いのだ。ガイロス帝国内でもごく少数のみ生産されたライガーゼロ。そのための専用パーツの数はさらに少ない。鉄竜騎兵団やプロイツェンナイツに大半を持っていかれたアーマーはそれほどまでに品薄なのだ。

 以前ロールが行った、マグネッサーシステムを使う戦法も無理だ。アサルトライフルが上に向いているリザードに急降下攻撃は、難しい。しかも腹部を向けるため、致命傷になりかねない。

「まず弾薬を切れさせるんだ!それから接近戦で仕留める!」

 口で言うほど簡単ではない。コアブロック二つ分のエネルギーを注がれれば、ただのハンドガンでも強力な武器になる。それを回避し続ければ、どちらが消耗するかもわからない。それでもシーフは走った。

「ケッ、当たりゃしねェぞ!」

 ブースター全開での急な方向転換を繰り返し、レーザークローで斬りかかる。ただ避けるのではラチがあかないと思った。だがクローは虚しく大地を砕き、以前より合体スピードの上がったリザードのアサルトライフルで、イエーガーの肩を貫かれた。恐るべき反応速度。

「のあァ!!」

 苦し紛れにバルカンとショックカノンを撃つ。当たりはしたが、装甲でガードされた。破壊できない。

「シーフ、上に跳べ!!」

 その声に急いで跳び上がるイエーガー。その真後ろから、荷電粒子砲が渦を巻きリザードに迫る。が、それを待ち望んでいたかのように一瞬でリザード達が密集し、同時にEシールドを展開した。

「っのヤロォ!」

 荷電粒子コンバーターをフル稼働させ、粒子砲を撃ち続けるブラッド。熱に砂塵が舞い上がる。その砂に向けて、バニッシュの更なる連撃が加えられた。だが、全ての砂が降りきった先にいたものは、無傷のリザード達であった。

 そのEシールドが切られた時、上空から咆哮が聞こえた。ティラノサウルスに似た声だ。その次の瞬間、ロールの目の前を通り過ぎ、異形の怪物が大地に降り立った。

 声でティラノだと判断したブレイドは、一瞬我が目を疑った。ティラノらしい所は頭だけで、身体がとても小さい。その頭には、トリケラトプスと似た二本の角があった。キメラか。

「!?ブラッドォ!」

 この時先頭にいたブラッドが狙われた。粒子砲の影響で、一時的なシステムフリーズに陥っていたブラッドが。急いで飛び込むガイアだが、それよりも速くキメラが動いた。角で、ブレイカーの喉元を狙ったのだ。ギリギリで回復し、とっさにラウンドシールドで防御するブラッド。キイィィィンという高い音がして、特殊チタン合金の盾が削られた。

「マグネーザーか・・・?」

 そのような気がした。形はまったく違うが、似通っている点があった。回転させながら迫ってくる時、わずかながらキーンという音が聞こえたのだ。以前対峙したブラッドだからわかる、マグネーザーの特徴の一つだった。

 キメラはバックし、リザード2機と合体した。ガイア達が邪魔する暇もなく、あっという間に合体が完了してしまった。

「脚四本だと、トリケラに近くなるなァ・・・」

「そうだな、シールドを張られると厄介だ・・・ブレイド、仕留めるぞ!!」

 カスタムUとブレードSSが同時に吠えた。二機同時に突撃し、意識を分散させる、はずだった。だがトリケラは迷わずブレードSSにマグネイズスピアを突き出した。恐らく、機体色である赤が興奮させているのだろう。

「・・・こいつ、ほとんど本能で動いてやがる!」

 ラウンドシールドに真っ直ぐに突っ込み、跳び上がるトリケラ。レーザーガンで迎撃するが、それよりも早く動き、今度は噛み付く。それを阻止せんと立ちはだかるカスタムUにはザンブレード。レーザーブレードで受け止めるが、逆にこちらが折られてしまった。出力が違う。

「クッ、やはり・・・ホーク!残りのリザードは!?」

 ホーク達もリザード相手に、かなり苦戦していた。ただの一機でも非常に強力なリザード。それが3機まとめてかかってくるのだ。

「決定打のアサルトライフルは回避している。だがこのままでは、じきにこちらのエネルギーが―――――」

 ホークのパンツァーに、ライフルが直撃。辛うじて装甲を貫通はしなかったが、動きが止まった。さらに、ハンドガンとアサルトライフルが迫る。

「ホークさんっ!!」

 その前に出たのは、ロベルト。フューラーのEシールドと重装甲を盾に、ホークを守ろうとした。だが展開するEシールドより速く弾が当たり、脚の装甲を貫通。駆動系をやられた。幸いな事に、胴体は無事だ。

「・・・ブレイド!みんなの方に加勢するんだ!!」

 ガイアが叫んだ。素早いリザードに対抗するには、高速戦用の機体が一機でも多く必要だ。だがそれでは、トリケラの相手がガイア一人になる。そうブレイドは返した。その心配そうな顔に向かって、ガイアが言った。

「コイツをここから引き離す。これ以上リザードと合体されれば、もう手が付けられなくなる」

 ブラッドのブレイカーはシールドを破壊され、ロベルトのフューラーも動けない。デュークのゼロやリースのシュナイダーも消耗し、戦闘の続行が難しい状態に見える。

「無理すんなよ・・・」

 ポツリと呟き、愛機を振り返らせるブレイド。それを狙うトリケラに砲撃をし、注意を引き付けるガイア。

「目ェそらしてンじゃねェ、お前の相手はこの俺だ!」

 先程の折られたブレード。それを再び展開し、軽く斬り込む。かすり傷程度のダメージにしかならず、すぐに再生してしまった。だが案の定、トリケラは後を追ってきた。それを確認し、戦場から離れるガイア。すぐにハンドガンが襲ってくる。走りながら撃つとは、なんて奴だ。

「ガイア!?どうする気なの!?」

 モニターに、ロールの顔が映る。劣勢な戦いの中で、疲れているのがわかる。

「コイツと一対一で勝負するんだ。なに、すぐ戻ってくるさ」

 それだけ言うと、通信を切った。戦闘に集中するためだ。

「ガイア!・・・もぅ・・・」

 ロールはリザードの動きをよく見た。今だ。ロケットエンジン全開で、急接近する。アサルトライフルに怯まずにウイングソードを展開。一度リザード達の真上を通り過ぎてから低空飛行に移行し、斬り込む。速い。分裂する間もなく、一機の肩を二つに割った。だが油断は出来ない。迎撃が早くなっている。他の二機が同時に射撃。威力の高さと弾数に圧倒され、ソーダーは被弾してしまった。

「っ、このくらいでぇ!」

 強がってはいても、戦闘力は確実に落ちている。翼を撃ち抜かれ、飛行能力が2割以上落ちていた。これでは次で、やられる。

「お前達を倒して、俺は強くなる!!」

 シーフのイエーガーが咆える。ブースターを併用して左右に滑り、かく乱する。その背後から、突如イクスが飛び出した。Eドライバーを放つ。

「この範囲ならいけるはず。エレクトロン・ドライバー、発射!」

 3機の動きを鈍らせる事に成功した。マグネッサーシステムで結合しているブロック同士のバランスが、狂わされているのだ。

「良くやってくれた!」

 イエーガーが跳んだ。そのままレーザークローで、リザードの頭を叩き潰す。磁場の乱れとの相乗効果により一気にブロック管理システムが失われ、リザードの身体ははじけた。

 ブレードSSも跳躍していた。ハイパードライブユニットで空を駆け、シールドとブレードを使っての豪快な突撃。リザードは押し潰されていた。

「ウフフ・・・逃がさないわよ」

 残った一機は、ヘレンの目の前にいた。必死に攻撃態勢を取るリザードに、ギガの咆哮が轟いた。そのままギガクラッシャーテイルで吹き飛ばされる。リザードはそのままナギサとバニッシュの連撃を受け、崩れた。


「・・・こちらラグナロック隊、ブレイドだ。ガイア、返事をしてくれ」

 戦闘終了後。戦線を離脱したガイアへの通信を繋げようとした。だが、ここ最近頻繁に出現するアナザーゾイドにより、辺りの磁場が変化。通信機の有効範囲が狭くなっていたのだ。

「ガイア、返事をして!」

 それでも回線は繋がらない。ザーッという砂嵐が流れるのみ。レーダーでも捕らえられない。安否さえも、わからないのだった。ガイア=シュリナスとライガーゼロ・カスタムUは、部隊から孤立してしまった。



第五回 終わり




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