第四回 アナザーゾイド“キメラ”
「おォ―――――い、ガーイアー!」
丁度自室で仮眠を取ろうとドアの前まで来た所、シーフに呼ばれた。どーしたんだー、と力の抜けるような声でシーフに返事をする。実際、彼の力は抜けている。脱力しているのだ。アナザーはネオゼネバスとは違った意味で厄介であり、精神的なプレッシャーが彼に重くのしかかっていた。
「ちょっと話があるんだ。丁度いいや、部屋に入れてくれないか?」
真剣な顔だった。それを察したのか、ガイアも早々に部屋を開けた。
「・・・それで、何の話だ?」
「あァ、クリスのコトでな・・・・・・アイツ、仇を討ちたいんだ・・・」
ガイアは少し、こういう事になるだろうとも考えていた。実際、クリスはこの前サンダーラプトルで戦場に来ている。
「シーフ・・・お前も軍人なら・・・俺が次に言うべき事も分かるよな?」
指揮官として当然の決断を言い渡すと思った。クリスは元王女とは言え、軍から見れば一般人の他ならない。そんな一般人に、戦いなどはさせられない。普通ならそうだ。
「でも、あいつは―――――」
「言うな。俺が言いたいのは、そんな事じゃない」
シーフは虚を突かれた。まさか、という言葉が頭をよぎる。希望が見えた気がした。
「実力を示せ。やられちゃ話にならんからな」
「それじゃ・・・実力があれば、許可してくれるんだな!?」
その嬉しそうなセリフに対し、ガイアは少しトゲのある声で返した。
「1ヶ月だ。1ヶ月経ったらテストを行う。それに合格しなければ、参戦は禁ずる」
「わかった!ありがとう、ガイア」
キツめに返したはずなのに、シーフは笑っていた。そのまま部屋の方へ行くのを見て、アイツも少し変わったな、とガイアはつぶやいた。
「クリス!OKが出そうだぞ!」
シーフから伝えられた吉報。だがそれはちょっと待って欲しかった。部屋に飛び込んだ所、クリスは着替えの最中だった。
「き、きゃあぁぁぁぁぁ!!」
「!!す、すまんっ!!」
慌てて部屋から飛び出るシーフ。こういうキャラだったっけ。
「オイ!一体どうした!?」
悲鳴を聞きつけたデュークとナギサが駆けつけた。ドアの前に突っ立っているシーフに問い詰める。
「い、いやその・・・ノックを忘れて・・・」
ナギサがドアをノックして入ると、そこにはクリスがいた。彼女はドレス姿のままここに来た。もちろん着替えを持っているはずもなく、着替えは女性陣が私服を貸してくれた。だが今日は軍に支給された服を着ている。デューク達(一部例外アリ)が軍服の下にも、パイロットスーツの下にも着ているもの(Tシャツのようなもの)だ。
「すみません、何かの虫がいたので・・・驚いてしまって」
二人の話が合ってない。
デューク達、特にナギサはシーフを疑っていたが、クリスがああ言うので二人とも戻った。
「・・・す、すまん・・・クリス」
それに対し、気にしないで下さいと言うクリスではあったが、正直の所はもちろん驚いていた。だが今の彼女は、それ以上に気になるニュースを先程聞いた。
「ところで・・・許可の方は・・・?」
「あぁ、そうそう♪」
シーフは、先程ガイアに話された条件をそのまま伝えた。今までは、クリスに言いたいことは内容を緩和し、自分の言葉で話して来た。だが今は、そんな事はしない。クリスも、参戦を決めたのならこういう事も必要だと思ったからだ。
「一ヶ月・・・となると、時間がありませんね」
そして二人は、格納庫に来た。だがむしろ、シーフはクリスについて来た、といった様子だった。それも気にせず、ゾイドに近寄るクリス。
「―――って、イキナリそれはマズいだろう・・・」
クリスはサンダーラプトルに乗り込もうとしていた。それをシーフが止める。操縦方法すら知らないのだ。そんなチューンナップされた機体にすぐに乗るのはさすがに無謀だった。
「ですが、他に私の乗って良いゾイドはありませんから・・・」
「俺のイエーガーに乗るか?」
今度はクリスがシーフについて来る、という構図でシーフのイエーガーの足元まで来た。
「・・・とは言っても、先に連絡を取らなきゃなんねェんだけどな・・・」
そう呟きながら、シーフは内線をコールした。ハンガーに備え付けられた有線を使って。
「あー、もしもし?周辺の警戒をやっときたいんだが」
「おぉ、シーフか。お前が警戒なんて珍しいじゃんか。ガイアには俺から言っとくよ」
「サンキュー、キース」
軽く礼を言い、シーフは内線を切った。そしてくるりとクリスの方を向き、コクピットハッチの近くまで来させた。
「あのぅ・・・」
「あぁ、大丈夫。まずは二人乗りだ」
シーフはコクピットシートのレバーを倒した。するとシートが前に移動し、その下からもう一つ座席がせり出した。
「計器とかイロイロあるんだけど・・・乗りながら教えるよ。クリスは後ろの座席に座ってくれ」
クリスにシートベルトをしめさせた後、自分もシートに座る。それからキースの操作でハッチが開き、イエーガーは出撃した。この出撃が、後の二人にとって大きなものとなる事も知らずに・・・。
二人が外出(?)した頃、ガイアは一人鍛錬場で運動をしていた。筋力トレーニングをし、基礎練習を始める。だが最近、どうも調子が良くない。あまり気乗りしていないのだ。要するに、つまらないと感じていた。何事も基礎が重要なのはよく理解している。だが昔の彼は、常に彼の師と共に鍛錬を行っていた。絶対に勝てない、だが師に追いつきたい。そんな純粋な感情のあった頃は、もっと楽しかった。
「せいやッ!」
そうは思いながらも身体を動かす。だが、強くなっていると実感できない。いたずらに体力を消費しているだけとすら感じた。
「・・・とは言っても、ブレイドは忙しそうだしなー・・・」
ブレイドは今、昼夜を問わずブレードに乗っている。改造された愛機の能力を活かし、最愛の女性を守るため。未だ乗りこなせていない愛機のスペックに追いつくため、ひたすらに訓練を続けている。他の皆も異星人の攻撃に恐怖を感じ、生き残るために何かしらの対策をしている。邪魔をするわけにはいかない。そうすると必然的に、ガイアの格闘技の練習は一人でしか行えなかった。
「・・・何かないモンかね〜」
それでも汗をかき、息を切らしながらのセリフだった。メニューをランニングへと変更し、鍛錬場の外に出る。深呼吸しペースを整えた後、ガイアは走り出した。キャンプ周りを1周すれば、多少は鍛錬になる。そう判断しての事だった。もっとも、ただ走るだけではそう面白くもないのだが。
「あら、ガイア」
すると走り始めて間もなく、ロールと会った。自分で自分に課したメニューに不満を持ち暗かった気分が、彼女と会って一気に明るくなる。
「よっ。何してんだ・・・って、何だその格好は?」
見るとロールは軍服ではなく、高校の体育着を着ていた。もちろんブルマではないが、Tシャツにハーフパンツ。ガイアのなにかを揺さぶるには十分な格好だった。
「ちょっと、トレーニングやってみようかなって・・・」
「トレーニング?」
「うん。自分の身くらい、自分で守れないとね・・・そうだ、ガイア!私に稽古(けいこ)をつけてくれない!?」
ロールは何かいいことを思いついたような素振りだった。ガイアもそれを快(こころよ)く了承した。だが少し、彼の心に不安があった。
「(二人きりで、しかもロールがこの格好での秘密特訓・・・俺、大丈夫かなぁ・・・)」
少し考えすぎなガイアを引き連れて、ロールは鍛錬場に入った。まず手始めに、互いの実力を理解しなければならない。
「ロールは、格闘技の経験は?」
「軍人学校で柔道と空手を少し・・・成績は中の上、ってトコかしら」
「そうか・・・空手をやってるんなら、組手からやるか」
ガイアはフッと笑うと、ロールから数メートル離れると構えをとった。それを理解し、ロールもおぼつかないながらも構える。
「遠慮するなよ。顔面でも股間でも構わん。・・・殺すつもりで来い・・・」
そう静かに呟くと、ガイアは距離を詰めて正拳突きを繰り出す。70パーセント程の速さで、顔面に寸止めの位置。だがそこにロールの顔はなく、ガイアの真横へと移動していた。腕力に自信は無い。だがこの密着状態で蹴りを出す程の実力は自分には無い。そこまで考え、ガイアの脇腹を膝(ひざ)で蹴る・・・つもりだった。だがそれは突きで伸びきった腕から繰り出される鋭い肘(ひじ)当てに阻止された。慌ててそれを払うが、その後もガイアは攻撃のスキを与えない。
ロールは少々危険ながらも、反撃に出た。自分が圧倒されかけているのはわかる。だが自分にも、一種の自信のようなものがある。離れても間合いはすぐに掌握(しょうあく)されてしまう。そこまで思い至った時、彼女に一つの打開策が浮かんだ。離れようとはせず、逆に自分から相手の懐(ふところ)に潜り込んでしまう。身長と体格の差を逆に利用しようというのだ。だがロールはミスを犯していた。先程からガイアが頭を中心に狙ってきているのを恐れ無意識の内に、潜り込む前からわずかに体勢が低かったのだ。ガイアはそれを見逃さなかったし、最初から狙っていた。
「(・・・・・・)」
戦っている時のガイアの思考内に、言葉はない。経験と本能、反射という『カン』だけで身体が動いているのだ。そのカンがロールの動きを読み取り、最も効率の良い対応を身体に命令する。ローキック。タイミングも角度も力加減も揃(そろ)い、寸分の狂いもなくロールの膝の内側にヒットした。体勢を低くしていたという事は、重心も低い位置にあるという事。足を片方払えば成す術も無く、相手は転倒する。
「うっ!」
ローキックが入ったのを確認するとガイアは追撃する事無く、構えも解いてしまった。倒れたロールはその行為に少々困惑しながらも立ち上がろうとするが、キックを受けた方の足が言う事をきかず、立つ事ができなかった。
「・・・そこに今くらいの力で蹴りを入れると、少しの間は足を封じる事ができるんだ。1対1なら、これで勝負がつく事もある。覚えておいて、損は無いと思うぞ」
自分が今行った技の解説をしながら、ガイアは手を差し伸べた。少し恥ずかしそうにその手を取り、何とか立ち上がるロール。足に痛みは無いようだ。
「その手、離さないでよ。・・・まだ転びそうなんだから」
「・・・ロールも中々やるな。しばらく組手で経験を積めば、かなり動けるようになるはずだ。あと、時間かけて合気道も教えたいな」
素直な感想を言いつつ、ロールの手を自分の肩にかける。ゆっくりと、彼女が転ばないように。
「イスまで肩貸してやるから、少し休め」
「あ・・・うん」
ロールもガイアの肩をつかみ、ケンケン状態でイスまで移動していく。
「だぁー、もう違うだろーがぁ!ソコは抱いて運んでやるトコだっての!!」
用具倉庫から突然大声があがり、二人は驚いて倉庫の方を見た。そこには興奮して立ち上がったブラッドの姿があった。
「・・・のぞいてたのか?さっきから・・・」
「え?・・・あ、しまった」
ガイアはロールをイスに座らせると、ブラッドの方をキッと振り返った。彼が小刻みに震えているのにロールが気付いたが時既(すで)に遅く、ブラッドへ向けて突進していた。
「ブ―――ラァァァッドォォォォ!!」
「か、勘弁してくれ〜」
そのままブラッドは逃げていってしまい、ガイアはそれを追いかけていった。足がまだ動かないので二人を追うのは無理だったが、その二人を見ているだけで十分におもしろかった。
その数十分後、汗をかきながら二人が肩を組んで帰ってきた時はもっと面白かった。その時は三人共笑っていたのだが、その後ブラッドはガイアの関節技の相手として悲鳴をあげる事になるのだった・・・。
『警戒』と称して出撃したシーフはクリスに、キャンプから数十km離れた場所でコクピットの仕組みを教えていた。
「・・・まずこの小さなディスプレイがレーダー。自分が中央の白い点で、後は青が味方、赤が敵。ミサイルなんかも感知できるし、予想進路も出る」
シーフは、イエーガーをゆっくり歩かせながらコクピット内の機器を一つずつ説明した。それから一旦イエーガーを停止させ、ゾイドの動かし方を教える。
「これで使う火器を選んで、右のトリガーで発射。ロックは敵をこの操作でサーチして、補足」
説明しながら目の前の岩をロックし、ショックカノンで砕いた。それから、ゾイドを走らせたり跳ばせたり、増加ウェポンの標準的な操作を実演してみせた。
「・・・けっこう複雑なのですね・・・」
「まぁね。でもしばらく乗ってれば、身体が自然と覚えるんだ」
「あ・・・向こうから飛んでくるのは・・・?」
一瞬我が耳を疑った。ついさっき索敵をした時には、周囲には何も無かった。シーフは慌ててレーダーを見た。数秒後、不規則に点滅する赤い点が現れた。この反応は、アナザーゾイド。だが、レーダーよりも早く敵を見つけたクリスの眼は一体・・・?
「・・・何だ・・・あれは・・・?」
イエーガーの正面から、驚くほどのスピードで接近するアナザー。生命反応(コアブロック反応)は一つ。だが、あんなカタチの生物は見たことが無い。いや、いるはずが無い。凶暴な顔と、ハサミのような牙。だが足はたったの2本で、その足と翼は鳥のものだ。フライシザースだ。
「こちらシーフ!ラグナロック隊キャンプ、応答せよ!こちらライガーゼロ・イエーガー、シーフ!!」
おかしい。キャンプへコールしているのだが、誰も出ない。仲間の機体に直接通信を試みようとした瞬間、シザースが突撃してきた。口と翼のレーザーを発射しながらハサミを開く形相は、まるで戦闘マシンのようだ。ブースターを急点火してかわした。いや、かすった。ほおのバルカンポッドが損傷したらしい。と同時に、後部座席のクリスが悲鳴をあげた。
「!?大丈夫か、クリス」
「へ・・・平気です・・・」
声の理由は分かっていた。大型イオンブースターによる加速度のせいだ。イオンターボブースターは、その加速性がウリだ。特にイエーガーのものは機動性向上のため、特に加速性が高い。だが同時に、大きな加速度という負荷がかかる。訓練により並大抵の加速度は平然と受けられるシーフだったが、クリスは違う。
「チッ・・・」
ブースターは使えない。それどころか、イエーガーを急に走らせる事もできない。これは大きなハンデだ。それがわかったのか、シザースは決定的な打撃を与えず、切り刻むのを楽しみ始めた。無論、シーフだって反撃した。残ったバルカンポッドとショックカノンで迎撃する。もし自分一人なら、ここで跳び上がってケリをつけるのに。
「(いかん、今は後ろにクリスがいるんだ・・・オレが守ってやらなきゃ・・・)」
左肩にレーザーの直撃を受け、崩れてしまうイエーガー。装甲の薄さがアダとなってしまった。何とか起き上がるが、脚の一本が機能しないため、フラフラしてしまう。無論、この状況下では走る事など不可能だ。
「(どうしたんだよ・・・ここで終わりか・・・?)」
シザースは一度高空に登り、急降下を始めた。いい加減にあきたのか、トドメを刺しにきたのだろう。
「何かにつかまれ!飛ばされるかも知れん!!」
クリスはとっさにひじ掛けを両手で握った。そのひじ掛けのボタンに触り、レーダーの範囲が広げられた。
「・・・え・・・?」
青の点が急速接近している。大型、陸専用。だが、この速さ。間違いない、あいつらだ。
シーフがそう確信したと同時に、シザースの目の前に赤い壁が広がった。シュトゥルムフューラーのアクティブシールドユニット。それにぶつかり、シザースは牙を折った。さらに砲撃が加えられ、翼や装甲が撃ち抜かれた。
「危ないトコロだったな!」
ブラッドの声に呼応するように、スパンという軽い音がした。切れ味の良いエクスブレイカーが閃いた。シザースはブロックを一つ失った。だがその部分は捨て、残ったコア一個にパーツを集めた。
「往生際が悪いですよ!」
そのコアでさえも、バスタークローに砕かれた。
「・・・怖かったか?」
シザースを倒した後、地面に降り立ったシーフが聞いた。クリスは、少しだけ、と言った。だが、その唇が震えていたのをシーフは見逃さなかった。
「もう一度考え直してもいいんだぞ?戦わなくても―――――」
「・・・ですが・・・」
言葉を遮り、クリスが想いを打ち明けた。
「・・・ですが、もし私の国の人が生きていたら、今も戦っていると思うんです」
強い想い。国の想いを受け継いだ、非常に強い想いだった。彼らの分も自分が戦うという想い。その強さに、シーフは心を打たれた。
「・・・それじゃあ、頑張らないとな♪」
シーフは誓った。クリスの願いを叶え、アナザーを討つと。絶対に負けないと。
「イヤー、キャンプに誰もいないんで参ったよ〜」
「悪い、三ヶ所同時にアナザーが現れたモンでよ。残しておく余裕が無かったんだ」
先程、シーフの元に来たのは4人。ジェノブレイカー(ブラッド)、バーサークフューラー(ロベルト)、シュトゥルムフューラー(キース)、ヤクトフューラー(バニッシュ)。この四機は改造前が同じティラノサウルス系統のため、基本設計が似通っている。そのため隊内で別行動を取る際、しばしば1チームとなる事があった(ナギサのマグナブレイカーのみ、機動性が低いので別になっている)。
他にタイプゼロ(デューク)、シュナイダー(リース)、パンツァー(ホーク)、イクス(キリー)とマグナブレイカー(ナギサ)で一つ。それとカスタムU(ガイア)、ストームソーダー(ロール)、ブレードライガーSS(ブレイド)、ゴジュラスギガ(ヘレン)で一つ。それぞれ同じタイプのアナザーゾイドを撃破してきていた。各々でアナザーへの対応策を練っていたため、さほどの苦労もなく破壊することが可能となっていた。
「それに、今日のアナザー。何なんだ、あのカタチは?」
「あぁ、アレは別の場所でもう確認されてるんだがな。テラノドン型とクワガタ型が合成されてるんだってよ。合成獣、キメラだ」
だがその解説に、シーフはあまり興味はないようだった。
「んで、何か収穫はあったのか?」
「あぁ。色々とわかったんだ。例えば・・・奴らの本土へ攻め込む方法とかな」
「・・・何だってェ?」
シーフは少しの間、ガイアの言った言葉の意味が理解できなかった。
「ビックリしたろ?割と損傷の無いコアを回収できてな」
だがガイアはそれ以上は言わなかった。代わりに数時間後に全員を招集し、説明会と今後の方針を話し始めた。
「・・・ではまず、アナザーゾイドの構造から説明しよう」
それを始めに、説明は1時間ほど続けて行われた。それでもガイアの口が閉じる事は殆(ほとん)ど無く、皆もくたくたに疲れてしまった。
「・・・では、20分の休憩を取ろう。俺も少し疲れた」
そう言ってスクリーンを消し、部屋の照明を点けた。それと同時に隊員達がのびを始め、各々休憩に入った。
「何してんの?ロール」
「あ、ちゃんと理解できるようにメモを取ってるのよ」
そのメモにはこう記されていた。
・異星人の船は母艦と輸送艦の2種類
・母艦は総司令の他、超長距離からのサテライトビームを発射して地表を消滅させる
・母艦が送信し、輸送艦を経由して流れる信号により、アナザーは活動を行っている
・コアブロックを生きたまま回収・分析できれば、アナザーへの具体的な対応策も出る(かも)
・司令部は輸送艦への直接攻撃を考案中。だが超高空を飛行しているため、ギルベイダークラスのゾイドでないと不可能
「・・・こんなモンかしらねぇ?」
「この母艦って、どの位の大きさなのかしら?」
「う〜ん、少なくともエアフロートよりは大きいと思うぞ」
ナギサの疑問に答えたのはガイアだった。
「輸送艦自体、結構な大きさだからな。そいつが何十隻もいるんだ。それに、アナザーの製造は母艦内でやっているらしいし」
その説明に、二人は感嘆の意を示すしかなかった。異星人の技術力を恐れたが、関心もしていたためだ。
「まったくゥ、侵略がそんなにしたいのかねェ・・・」
そうぶつくさ言いながら、ガイアは歩いていってしまった。その背中を見ながら、口を開くロール。
「ねぇ、ナギサ。デュークと初めてキスしたのっていつ?」
「えっ?・・・ってまさか、あなたたち・・・」
ナギサが勘付いたようなので、観念したようにロールが言った。
「・・・まだなの」
顔全体を紅潮させるロールを見て、ナギサはため息をついた。あきれたように。
「・・・そりゃま、最後までやれとは言わないケド・・・・・・」
「普通の人達は、もうキスしてるわよねぇ・・・」
ナギサのちょっとした(?)冗談にも耳を貸さずに話し続けるロールを見て、重症だなとナギサは思った。
「ねぇ、ナギサ・・・私って魅力無い?」
「え?・・・何言ってるのよ」
ロールは深く溜め息をついた。
「・・・男の人と付き合うのって、最初は少し恐かったの。身の危険もあるし・・・でも、ここまで何もなし、っていうのも・・・」
「・・・・・・」
ナギサも段々、ガイアに対して腹が立ってきた。半分はロールにここまで想わせている事。もう半分は、ガイアがそれでも何もしない事だ。
「付き合ってもう二ヶ月でしょ?・・・ガイアってニブいの?」
「かも・・・ね」
実際、彼女らの恋愛は大変だった。共同生活をしているのだからいつでも会える、という面もあったが、その生活自体が仕事な上に普段は上官と下士官、という複雑な面も持ち合わせていたのだから。
だが、これでもまだいい方だ。他の隊では、そうそうここまでおおっぴらに好きだの何だのは言えないだろう。『雑念』と上にあしらわれるだけだ。
「・・・デュークとは、割とスグだったカナ」
ナギサは少しだけ恥ずかしそうに、自分の体験を話し始めた。ラグナロック隊がデルポイに渡り、始めて基地に潜入した時。敵陣内でしたのだと言う。
「向こうの軍服は着てたけど、『さすがに顔を見られるのはマズいかなぁ』ってデュークが言ったの。その時に向こうの軍人が通りかかって、そしたらデュークが・・・アタシを壁に押し付けて。軍人に背を向けて、いきなりアタシにキスしたの」
「ヘェ・・・つまり、されちゃったの?」
「そーなのよ。でもそれじゃシャクだから、こっちからやり返してやったわ」
キスなどまったく未経験のロールにはボンヤリとしか想像できなかったが、それでもなんとなく掴めた。少なくとも、ロール本人はそう思った。
「・・・まぁ、キスなんてその場の雰囲気でしちゃうモンよ」
それで納得したロール。そのロールに聞こえないように、ナギサが小声で喋った。
「(・・・今となっては、清い仲でもないんだけどね)」
ロールとガイアなら、節度ある付き合いをしそうだと思ったからだ。聞いた所によると、ガイアもロールが初恋の相手らしいし。
「何か言った?」
「う、ううん。何でもない」
そう、と言い、決心するロール。この戦いが終わる前に、ガイアとキスしたい。もっと色んな時間を、二人で過ごしたい。
第四回 終わり