第三回 闘いの道
機体の整備も昨日までで終わり、静まり返った格納庫。そこで、一人の少女が機体を見上げていた。
「・・・私達だけ、残ってしまいましたね」
クリスが、サンダーラプトルを見つめていた。自分をここまで運んでくれた、最後の王国所属機。それと同時に、王国の形見でもあるこのゾイド。
「ん?・・・なにやってんだー、クリスちゃーん」
シーフだけ、格納庫に残っていた。前回の戦闘の時に出撃できなかったので、イエーガーが機嫌を損ねていた。そのケアをしていたのだ。
「・・・シーフ・・・さん・・・」
「ん?どうした?」
出来るだけ優しい口調で聞き返した。
「私・・・このコに・・・乗れますか」
口ごもりながらの発言に対し、シーフはそっぽを向いてしまった。
「・・・うーん、そうそう出来るコトじゃないんだ、ゾイドに乗るっていうのは。難しいんだよ」
これも、抑え気味で優しく表現した。だが実際の状況は、もっと悪かった。シーフもラプトルの起動実験の結果は耳に入れていた。ゾイドからストレスがかかるというのなら、動かせるのは主人だけだろう。
「(こうなったゾイドは意地でも動かされまい、とするからなー)」
「・・・わかりました。ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げ、クリスは与えられた自室へと戻っていった。その後姿を、シーフはずっと見ていた。
「(気持ちはわからないでもないんだが、今回は相手が悪過ぎる)」
そこに突如、警報が鳴った。続いてアナウンス。敵機がこのキャンプを目指しているというのだ。
「よう、イエーガー!出撃だぜ!」
コクピットに入り、エンジンを点火させる。すぐに火は点き、システムも全て起きた。その頃には他の隊員も着いていて、愛機に登場し起動を急ぐ。順次出撃の命令が出されたのを聴き、シーフはブースター全開で走り出した。
「よォ、シーフ。今日は早かったじゃないか」
「何だよ、ブレイド。まるで俺はいつも遅れてるみたいな口ぶりじゃんかよォ」
「二人とも、あと5秒で敵と接触するぞ」
デュークの通信のすぐ後、三機ものアナザーゾイドが姿を現した。そいつらは、空を飛んでいたのだ。
「!?グリフォン型だ!」
グリフォンは三機の頭上をゆうゆうと飛び越していくと、ロールのソーダーに迫った。だが、ロールもエースパイロット。空中格闘は得意分野であり、戦法がレドラーと似ていたため回避に時間はかからず、軽やかにその身をかわした。
「んー、結構速いけど、やっぱり形状に問題アリね」
そう言ってウイングソードを展開する。そして追撃しようとしたその時、目の前にいたグリフォンの姿がぼやけた。刹那、ストームソーダーは腹に手痛い一撃を受けていた。
「は、速い!?」
グリフォン達は、先程までは本気を出していなかった。まずは敵の能力を測る、実に冷静な闘いを展開していたのである。それが終わり、最も危険なストームソーダーを奇襲によって動けなくする。ただの無人機と侮っていたロールは、自分の甘さを呪っていた。
「当たれ、セブンブレード!!」
ガイアはカスタムUのレーザーブレードを広げ、攻撃面積を増やして跳び上がった。だが、紙一重でかわされ、ホーミングミサイルを撃たれた。なんとか相殺するも、他の二機のストライクレーザークローが身体を切り刻む。
「なんとか避けろよ!」
バニッシュの拡散荷電粒子砲によって、ガイアは辛くも連携から脱け出せた。他の機体も砲撃を繰り返すが、高速で空中を飛び回る小型サイズのゾイドには当たるはずも無かった。ミサイル搭載数の多いホークや砲撃パーツの多いナギサの攻撃に至っては、律儀に分裂して回避するといった行動を取られた。
「キリー、前みたいにEドライバーで動きを封じる事はできねェのか!?」
「無理だ!敵が速過ぎて、移動範囲全体の磁場を惑わす事が出来ない!」
敵はマグネッサーシステムで空を飛び、マグネッサーシステムで結合を行っている。なので、磁場を狂わせる事が出来れば、勝機はある。だが、ドラムコンデンサーをフル稼働させてのエレクトロンドライバーでも、出力が足りない。
「くおぉぉぉ!!」
シーフのイエーガーが跳んだ。空中で必死に姿勢制御し、グリフォンを迎え撃つ。だが、大振りのレーザークローは空振りし、バイトファングを受けた。
「・・・ジェットコンドルの翼なら・・・」
ロールは思い立った。以前考えた対処法を、試す時が来たのだ。
「ガイア!私のウォーラスが換装するまでの時間をちょうだい!」
「策があるのか!?」
「ちょっと自信は無いけどね」
モニター越しの悪戯っぽい笑顔で、ガイアは希望の光が見えたような気がした。
「よォし、わかった!」
カスタムUのスラスターを点火し、果敢に跳びかかる。まずミサイルを切らせ、全方位にミサイルやビームをバラ撒き、ダメージと時間を稼いだ。だが決定打にはならない。あくまで注意を引き付けるのが目的だ。
「加勢します!」
ロベルトがバスタークローを開き、一機のグリフォンの側まで跳んだ。はさみ込むつもりでクローを閉じるが、分離され、空振りに終わった。ブラッドやキースもホバーリングで機をうかがうが、逆に攻撃を受けてしまい、シールドで流すのがやっとの状態であった。
一方、砲撃装備も無く、高くジャンプできる跳躍力も無いヘレンのギガは、歯を食い縛っていた。せめてバスターキャノンがあれば、少しは違ったかも知れない。ミサイルが、速射砲があれば。だが、今の状況ではどうしようもない。それもまた、わかっていた。それが悔しい。
「みんな、お待たせ!」
やっとロールが戻ってきた。と思ったら、高々度まで一気に上昇する。
「アナザーの真下から、すぐに離れて!」
その言葉で、ホークはピンときた。多分、翼のマグネッサーシステムで敵の動きを鈍らせるつもりだろう。強力な磁気風を起こすジェットコンドルの翼なら、アナザーゾイドにも影響を与えられるかも知れない。
「・・・一つの、賭かも知れないわね」
ロールは、ソーダーを落下させた。自由落下でぐんぐん速度を増していく機体。それは、グリフォン達にとって意外な行動だった。
「いっけえぇ!!」
グリフォンのいる高度に突っ込もうとした瞬間、四つの翼に搭載されているマグネッサーシステムを全開にした。ソーダーはピタッと止まり、反対にグリフォン達がグンと落下した。
『今かァ!!』
ガイア・デューク・シーフが同時に跳んだ。急に落とされた事で処理の遅れたグリフォンに対し、クローで攻撃。ガイアとデュークは見事に敵機を貫いた。だが、イエーガーは先程の傷が影響し、思うように跳べなかったのだ。一機逃した。
「ちくしょう!」
「大丈夫だ!一機ならEドライバーで封じられる!!」
着地するシーフにキリーが声をかけ、Eドライバーを拡散放射した。その時、レーダーをふと見たホークが叫んだ。
「サンダーラプトル!?」
『何ィ!?』
クリスが、サンダーラプトルに乗って走ってきたのだ。彼女自身、戦場で何をしたら良いのか知らなかったが、居ても立ってもいられなくなったのだった。だが、その行動がマイナスとなった。走ってきた方向が、Eドライバーの発射方向だったのだ。
「クリ―――ス!!」
シーフが声を張り上げる中、ラプトルが混乱した。磁場の乱れにより、機器のほとんどが誤作動を起こしたのだ。そして、コクピットシートが飛ばされた。同時にシートベルトのロックも外れ、シートからも投げ出されるクリス。ヘルメットも何も身に付けていない今のクリスでは、地面に激突した瞬間に命を落としてしまうだろう。
「ぬおぉぉぉぉ!!」
イエーガーが一瞬でクリスの身体の真下に潜り込み、シーフもコクピットを開けてクリスを無事キャッチした。
「す、すみません!!」
「話は後だ!」
その背後で、最後のグリフォンをヘレンが握り潰していた。飛べないアナザーなら、自分でも倒せる。だがヘレンにとってそれは、ただの気休めにしかならなかった。
「何で戦場に来たんだ!?」
戦闘終了後、格納庫にシーフの怒鳴り声が鳴り響いた。クリスの出撃が関係していたのだった。
「どういうつもりか、答えるんだ!」
「・・・国の仇を討ちたいのです。例え、命を失う事になっても」
決意を込めたその言葉の直後、パンッという音がした。隊員達は我が目を疑った。シーフが、少女に手を上げたのだ。
「国の人達がお前を生き残らせたのは、仇討ちで玉砕させる為じゃないだろう!!」
まるで時が止まったかのように静まり返る格納庫。その中で、頬(ほお)が片方だけ赤い少女が一人、声を押し殺して泣いた。
それからしばらくして、シーフはクリスをなだめていた。部屋に連れて行って5分ほど経ち、ようやく泣き止んできたクリス。その一方で、シーフは自分の行動を悔いていた。
「その、気が立ってて・・・すまん!キツい事言っちまって・・・」
だが先程の言葉はシーフの本音だったし、クリスもその事はわかっていた。だがクリスは、王国の人達がその身を犠牲にしてまで自分を生かした事について、ずっと悩んでいた。己を殺してまで守り抜いた姫に何ができるのだろうか、と。その答えが、シーフの言葉でやっとわかったのだった。
「・・・お願い致します。ゾイドの操縦方法を、戦う術(すべ)を教えて下さい」
そう言った彼女の瞳には、決意があった。生きる為に戦いたい、国の人達の弔いをしたい、といったものだ。
「クリス・・・戦場は惨(むご)い。はっきり言うが、命の保証すら・・・」
「もとより、覚悟の上です」
その言葉に込めた重みで、シーフには彼女の想いが感じられた。死ぬかも知れない。それに、自分達と共に戦うという事は、軍にも少なからず影響を受ける、という事でもある。それでも、ただ見ているだけなど出来ないのだろう。
「わかった・・・ただ、こういうコトは隊長の許可が要るんでな。ガイアに話してくるよ」
「え?・・・あ、お手を煩(わずら)わされなくても、自分で話せますから・・・」
そう言うクリスの口に指をあて、言葉を静止させるシーフ。
「もっと頼っていいんだぞ」
その行為は、クリスに十分過ぎるほど染みた。国を離れて以来の、一番大きいやさしさに胸を打たれたのだ。クリスは代わりにうつむき、お願いしますと一言だけ告げた。だがその頬に赤みがさしていた。
「ねぇ、ロール?ちょっと、お願いがあるんだけど♪」
「なーに?ナギサ」
振り返ったロールの前には、カメラを手に笑顔でいるナギサの姿があった。
「ゴッメーン、撮ってもらえる?」
ナギサの後ろにデュークがいたので、何を撮るのかはわかった。ここが戦場だからか、普通の日常を記録しておきたいのだろう。なるべく考えないようにしているが、己が明日倒れるとも知れないこの戦い。そんな中だからこそ、幸せをかみしめられるのだろう。
「えぇ、いいわよ」
それを聞いてナギサはカメラを渡し、デュークの元へ駆け寄る。デュークも、スマンな、と一言だけ言った。
「撮るわよー。はーい、チーズ」
惑星Ziでもやっぱり写真はチーズなのだろうか。とかいう作者のギモンはここでも放っておかれた。ロールは見た。カメラのレンズ越しでの、ナギサ。一応自分より一つ年上だが、あまり気にせず、むしろクラスメイトのように接してきた。その時のナギサとは違う面が見える。素直に言って可愛い。彼氏がいかに好きかよくわかる。私も、こうなれるかな。ちょっと二人に憧れたロールは、ナギサとデュークという恋人を見て、ある考えが浮かんだ。
「・・・ナギサ、このカメラちょっと借りていい?」
ハハーン、とナギサのカンに来た。折角だし撮ってあげる、と言いつつ。デュークとわかれ、二人は格納庫に行った。ガイアの出現率が最も高いからである。案の定、彼はそこにいた。カスタムUの足元で、愛機と語らっていたのだ。
「じゃ、ナギサ。お願いね☆」
「任せて、イイの撮るから」
ナギサはカメラをガイアから見えないように隠し、ロールはガイアに近づく。
「ガーイア♪」
ロールは名前を呼ぶのと同時に、ガイアの腕に抱きついた。突然の事に驚きの表情を見せるガイア。だが驚きと同時に喜びと恥じらいが生まれ、少し顔が赤らむ。一方ロールは瞳を閉じ、楽しそうな笑顔だった。さっきのナギサの様子を少し真似してみたのだった。その二人のツーショットを、ナギサが見事にカメラにおさめた。撮られた後に、フラッシュの方を向くガイア。
「しゃ、写真!?」
「そう。しゃ・し・ん♪」
ロールは満面の笑みを浮かべていた。それはナギサも同じだった。
「じゃ、焼き増しして二人にあげるわね」
「あ、私には2枚ちょうだい。実家に送るの」
その意外な発言に、ガイアは先程よりも驚いた。
「お、送るの!?ならもっとシャキッとしたのにしてくれよ。あれじゃマヌケっぽいじゃないか〜」
「いいの。私は、自然なガイアが一番好きなんだから(///)」
それの言葉で、言われたガイアだけでなく、言ったロールまで赤くなってしまう。
「ハイハイ、仲の良いコトですね〜」
二人に聞こえないように、ナギサが言った。
第三回 終わり