第一回 湯煙ロベルト、カヤの外
ZAC2103年、6月―――――
キングザウラーの追跡・回収を命じられたラグナロック隊は、しばしの休憩をし、現地に留まるよう新たに命令を受けた。デュークは悔しがっていたが、ナギサになだめられて落ち着きを取り戻していた。休憩とは言っても、休暇ではない。機体整備や訓練、作戦会議には余念がない。ホークが新たな陣形を考案したり、キリーが予算案を提出したり。特別任務のない、エアフロートやアテナ基地に居た頃のようだった。
この日は天気が良く、空は遠くまで晴れ渡っていた。ピクニック日和、洗濯日和、塗装日和と誰かが言っていた。そんなのどかなある日。
『皆に嬉しい知らせがある。全員ブリーフィングルームに直ちに集合せよ』
という放送が流れ、つい先日まで敵のものだったキャンプ地に仮設したブリーフィングルームに、隊員が集まった。
「――――で、少しの休暇が与えられた。そこで、男性陣から女性陣へプレゼントがある」
男達がにかっと笑う。だが、ロベルトだけは困惑した表情で立っていた。そしてガイアが封筒からチケットらしきものを取り出し、みんなに見せた。
「この先の町にある旅館の宿泊券だ。これで一泊してくるといい」
「ガイアさん。僕も男ですけど、この話は聞いてませんよ?」
ロベルトだけは、この「旅券プレゼント企画(笑)」を知らなかった。男性なのに。そこで、バニッシュが説明してあげた。
「・・・お前は一緒に行って、女達を守ってくれ。まァ、護衛ってコトだな」
「どうして僕なんですか?」
なおも質問するロベルト。男扱いされていないような気がするのだろう。
「最初はシーフが立候補したんだ。けど、向こうの温泉にシーフを連れてくワケにゃいかないんだよ」
「??温泉ですか?」
「まァ、行って見りゃ分かるさ」
一時間後に荷物を持った女性4人とロベルトは、迎えに来たバスで旅館に向けて出発した。
「・・・・・・よし、5人とも行ったな」
「さて、俺達もそろそろ出掛けようか」
残った9人が建物の中に入り、パイロットスーツを着る。そして、自分達の愛機に乗り込み、発進していく。男達が女性と子供を外にやったのには、ある理由があったのだ。
それを知らない女性陣御一行は、旅館の目の前まで来ていた。旅館と言ってもそう古びた印象もなく、どことなく和の雰囲気をかもしだす良い旅館だった。
女将の案内で部屋に来た時、ロベルトびっくり大作戦その1(笑)が展開された。何と大部屋、5人一緒の寝泊りになっていたのである。
「え、えええ!?同じ部屋って、マズいじゃないですかぁ!?」
だが女性陣は乗り気だった。
「あら、大丈夫よ。信頼してるから☆」
「・・・他に泊まれるのでもないし」
「そうよね、一緒でいいでしょ♪」
「いぃわよ、ロベルトちゃんなら。何なら、同じ布団だっていいのよ☆」
ヤバい発言をしているのは、勿論ヘレンであった。これは関係ないが、ロベルトは5人部屋をしぶしぶ承諾した。
「さーって、荷物を置いたら、まずはお風呂でしょ♪」
だが、すぐに次の作戦が待ち構えていたのである。そう、バニッシュが言っていた"温泉"についてだった。
一方、残った男達は、ある場所に到着した。自分のゾイドに乗り、すでに臨戦態勢に入っている。
「・・・!!レーダーにゾイドコア反応有り!・・・小型、いや中型か・・・詳細は不明!」
「こちらホーク、敵機を確認。グレーのライオン型のようだが・・・」
ラグナロック隊の男性陣は、あるゾイドと遭遇した。そのゾイドの調査に来たのである。だが、それは不可思議な形状をしていた。現存するどのゾイドとも照合できないコア反応、ライオンタイプの小型。今まで誰も見たことのないゾイド・・・いや、あれをゾイドと分類して良いのかもわからなかった。間もなく、全員が目視できる距離まで近付けた。
「な、何だありゃあ!胴体がヘンだぞ!」
それのボディは、四角いブロックのようなモノで出来ている。ブロックは黒いが、四肢は銀色、数少ない装甲は灰色をしている。尾にはブレードがある。頭はブレードライガーの亜流のようだが、コクピットは背のようだ。
「たった一機だけ・・・」
後に共和国軍で正式採用される"ブロックス"一号機、レオブレイズと呼ばれる新型であった。
「フンフフンフフ―――ン、どんなお風呂なのかしら♪」
着ている物を脱ぎ、タオル一枚を体に巻いて脱衣所を出る。
「あら、露天風呂じゃない♪しかも貸切状態」
そう広くはない浴槽だが、目の前に広がる緑の風景がとても美しかった。
「ヘェ。もう少しスペースが欲しいわねェ」
「そう?これ位が丁度いいんじゃない?」
などと話をしていた、その瞬間!!後ろの方で扉の開く音がした。思わず振り返ると、タオルを腰に巻いたロベルトが、驚愕していた。
「え、えぇ!?ぼ、僕女湯に来ちゃったんですかぁ!?」
急いで脱衣所に戻ろうとする彼の腕をヘレンが掴み、制止させた。
「入り口にあったじゃなぁい。"混浴"って」
ロベルトに、第二のびっくりが降りかかってしまったのである。
「ぼ、僕、部屋のおフロに・・・」
「この旅館の浴場は・・・ここだけなの」
リ、リースまで・・・。どうもロベルトは、周りの女性を『お姉さま気分』にさせるようだ。
露天風呂に来てからは、ロベルトだけずっと湯につかり、なるべく女性陣を見ないように景色だけ見ていた。必死に。
「ホントにいいお湯ね・・・みんなも来れれば良かったのに」
「ンもう、そしたらデュークに襲われちゃうわよ〜〜」
「そしてら、ワタシも誰か襲っちゃおうかしらぁ」
あんまりそんな会話をしないで欲しい。そう思ったロベルトの横に、リースが来た。
「どうしたの・・・?のぼせてしまったの?」
そう言って、近付いてくる。顔が、身体が。ロベルトの顔は、真っ赤っかになった。
「・・・やっぱり、のぼせてる・・・」
彼女の手が、目の前の男の子の顔を撫でた。その時、ロベルトの心臓はピークを越えた。
「さささ、先に失礼します!!」
そして急に立ち上がり、一目散に脱衣所めがけて走り出した。そして水を頭からかぶる。
「・・・?何なの?」
「のぼせた・・・みたい・・・」
しばらくして、夕日の沈むころ。男達は、レオ一機に翻弄されていた。稼動限界時間も近付き、装甲も、鋭いレーザークローで斬り付けられている。こちらは9機。なのに、なぜだ。
「・・・クソッ!また分裂しやがった!!」
ブラッドが荷電粒子砲を放った次の瞬間、ヒットの手前でレオがはじけた。いや、自分で分離したのだ。身体をバラバラに分割し、散らばって攻撃を避ける。そして別の場所で合体し、無傷の状態で反撃するのだ。
「フルバーストォ!!」
バニッシュが全身の武器を使った一斉射撃を仕掛けた。それでも、パーツにさえ当たらない。初速の速いデュアルスナイパーライフルや、命中率の高いマイクロミサイルであっても。格闘攻撃も然(しか)り、歯がゆい思いを味わっていた。
「・・・?誰か、もう一度射撃をしてくれ」
「ホーク、何かあるんだな!?」
ガイアがビームキャノンとレーザーガンを発射し、回避したレオにロングライフルを浴びせ掛ける。再びレオはバラけた。それを全力で解析するホーク。そして、ディスプレイに映った解析結果であることを確信した。
「・・・コア、だな・・・・・・聞いてくれ、みんな!敵はマグネッサーシステムを使用して分離・合体を行っている。分離の際に、銀色のブロックが磁力を発しているようだ」
それだけで、隊員達は全てを理解した。銀色のブロック――――それは恐らく、ゾイドコアと同等のものだろう。そして、それの機能を奪えば敵は止まる。
「シーフ、敵機のかく乱!バニッシュは俺と砲撃、ホークがその援護だ!キリーは磁気を乱し、ブレイド!決めろ」
『了解!!』
その言葉を言うかどうかの所でイエーガーが動いた。ブースターでレオと並び、超高速戦闘に持ち込む。
『発射!!』
カスタムUとヤクトの猛烈な砲撃が、イエーガーの相手で一瞬判断の遅れたレオに迫る。間一髪でかわすも、さらにパンツァーのミサイルが豪雨となって降り注いだ。ここでレオは分離。コアからの指示を待ち、空中に浮かぶパーツ。だが、指示は届かなかった。イクスの強力な電撃が周囲の磁気を乱し、マグネッサーシステムを使用不能にしていたのだから。
「ブレイド、行け!」
ジェノブレイカーに乗っかり加速のついたブレードが、自分のブースターも点火。ミサイルの爆煙とEドライバーの電磁波がおさまらない所を一瞬で通過し、その牙は銀色に輝くコアをとらえていた。
「これで、終いだァ!!」
レーザーサーベルが深々と突き刺さり、コアはくだけた。と同時に、他のパーツは浮力を失い、地に落ちた。
翌日―――――
温泉に行った5人が帰ってきた。だが、ロベルトは夜も眠れなかったようで、目の下にうっすらクマがある。その5人が挨拶をしようとホールに入った。そこでは、9人の男達がぐでっと倒れかかっていた。温泉にゆっくりつかって休養を楽しんできた彼女達にとって、驚くに値する光景だった。
「ど、どうしたの!?しっかりして!」
ロールが、机に突っ伏したまま半分寝ているようなガイアの肩を揺すった。
「・・・あ、ロール・・・おかえ・・・り・・・」
ひどく体力を失っている。みんなそうだ。無理もない。オーガノイド・野生体をかなりの時間、操縦していたのだ。とくにオーガノイドはストレスが大きい。それに、高速戦用機も身体への負担は相当なものだ。
「何があったの!?」
「あ、あとで説明・・・するから、しばらく・・・休ませ・・・・・・」
言葉を言い終わらない内に、ガイアは夢の世界に入ってしまった。
『?????』
5人はただ首をかしげるばかりであった。
その数時間後、やっと男達が体力を取り戻した。
「――――つまり、今回は本当に未知の敵だったんだ。それで、一度に全滅するのを避けるためにロベルト達を温泉にやった、というわけだ」
男性陣は色々と秘密にしていた事を話した。まず、数日前に共和国側とネオゼネバス側の拠点が原因不明の消滅を遂げたこと。真昼の出来事だったそうだが、基地は爆発することなく、ビームのようなものを上空から受け、消滅したらしい。
次に、それを調査した成層圏用偵察機によって、惑星Ziに強大な戦力を持った異星人が近付いているのが明らかになったこと。改造プテラスが観測したところ、巨大な円盤のようなものが、ゆっくりと惑星Ziに接近している、とのことだ。それは小型の船を射出、その船はプテラスの目の前で大気圏突入を果たし、破壊された拠点に何かを落としていった。それが、今回のレオだった。
そして、消滅した前線基地の調査も、予め危険だというのが伝えられていたこと。実は、ラグナロック隊より先に現地調査に向かった部隊もあった。ネオゼネバス軍のハンマーロック部隊だった。30数機の中隊であったが、それが全滅したとの報告。旗艦としてアイアンコング1機を含んでいたにもかかわらず。そこで、拠点にある程度近く、戦力的に見ても信頼に足る部隊であるラグナロック隊に白羽の矢が立った、とのことだった。
「な、何で僕を残したんですか!?」
「お前は、まだたったの16歳だからだ」
その言葉に、ロベルトは反応した。
「子供扱いしないで下さいよ!僕だって男です、軍人です!死ぬ覚悟だってできてます!・・・一人前の人間として、扱って下さい!!」
ロベルト自身、若い事、成長の遅い事をコンプレックスに感じていた。それを消そうと一生懸命に戦果を挙げ、階級を上げてきた。その上でこの隊に来たものの、やはり隊員は自分より年上(もっとも、この隊の平均年齢は非常に低い)。そんな"大人"達に、せめて迷惑はかけないようにと陰で努力し、一つも愚痴をこぼさずに来た。"子供"と見られるのが、自分にとっては嫌だと。その想いを、初めて全部吐き出した気がした。
「・・・そうか。そう思っていたとは、済まなかった」
ガイアは、ロベルトがそこまで悩んでいた事を知らなかった。自分の選択は、そんな彼の想いに背くものだったな、と考え直した。もっとも、ただ単に年齢や性別で差別し、戦闘に参加させなかったわけではない。遠ざける理由と、万が一残された場合に生き残れる編成が合致した事もあったからだ。
「だが、今一度言う。軍人だからと言って、安易に『死ぬ』だなんて言うな。いいか、お前は若いんだ。無限の可能性を秘めた、若者なんだよ」
ガイアもかつて、『若い』と言われたことがあった(今も中佐にしては若すぎるが)。その中で成長し、若者には、沢山の可能性があるとわかった。それこそ、『無限の可能性』が。だが、それに気付いた時は、自分はすでに沢山の人間やゾイドを葬り、償いようのない血の十字架を背負っていた。今更、道を変えるわけにはいかなかった。だからこそ、こんな道に新たな若者を導きたくは無かった。
「・・・ここにいる全員に言う。絶対に死ぬな。何があっても、生き抜け」
第一回 終わり