ZAC2103年 8月 17日 サクラの部屋



ZAC2103年 8月 17日 サクラの部屋

お引越しの5日目。
ゲイオスが置いていった仮設住宅からホエールキングRへの引越しも終わりに差し掛かってきた。人数が人数だけにけっこうな荷物だが、それを収容する個人の部屋が移動要塞にあるっていうのは今更ながらに驚かされるな。

俺の方は割と早く終わって(元々ダンボールだらけだったから)、暇だから手伝いなんかもしてる。
今日はサクラの部屋へ、ひたすら荷物を運び込んだ。あいつ、意外に物が多いんだな…。

(一部の箱を除いて)開梱も手伝ったけど、それが多い多い。思い出の品、ってのが沢山。写真とか、前の部隊の軍服とか、それからプレゼントなんかも多数。
……誰からだ? 男からか?



そんな中で俺は、ある物を見つけた。小さい家をバックに、サクラと老女が映った写真を。
誰と一緒だったのか、暫く考え込まなきゃ分からなかった自分が何だか情けない。
その老女は、サクラと俺の祖母だ。

名前はスミレ=シュリナス。俺達の母親・マユミの親にあたる。
エウロペで生まれ育ったものの、結婚相手(つまり俺達の祖父さん)のレーヴェ=シュリナスに連れられてニクスへ。
それから数十年ニクスで暮らすも、夫が亡くなった上、高まる開戦ムードに嫌気がさしてサクラを連れてエウロペに戻った。その後、戦禍に巻き込まれて亡くなった。
……この文章も、調べなきゃ(聞かなきゃ)分からなかったからこうして書いた。つくづく自分が情けなくなる。

写真での祖母さんは、凄く穏やかな笑顔を浮かべて映っていた。実質的に遺影なのに、どことなくホッとするのは祖母さんの人柄からくるのかも知れない。
悲しくない訳じゃない。だがそれ以上に、死に目に会えないだけじゃなく、殺した原因の末端であった自分に嫌気がさす。身一つで、しかも幼いサクラを抱えて生きていくのは本当に大変だったと思う。それすらも奪った、俺達ガイロス帝国軍。
最期は無念だったろうな。

争いを嫌う人だった、とサクラは言った。だから女の子であるサクラを両親の手から奪い、戦争の準備を進める国を飛び出した。戦争なんて馬鹿な事のために、サクラを傷付けさせはしない、と。
だがサクラはその真意がまだ分からない頃に、世話になった人の助けで共和国軍に入ってしまったらしい。そのお陰で俺に逢えた、と付け加えていたが、嘘の下手な奴だ。
サクラは入隊した事を後悔しているんだろう。



もしかしたら、俺達は間違っているのかも知れない。
口では戦争を終わらせると言うが、やっている事は破壊以外の何物でもない。今の俺は「敵でも一人も殺さない」訳にはいかないし、助けた自軍の攻撃で犠牲が出ない訳が無い。御大層な目標や心掛けを掲げても、必ず誰かを傷付ける事になる。

けれども、歩みを止める事はできない。逃げ出す事など許されない。
それが分かっているからサクラも軍を抜けないんだろう。俺が、兄が居るからなんて理由じゃないはず。

もう、迷わない。この事を知ったからこそ。

今日の一言:「そっか……もう、会えないんだな」






戻る