「ネウロ…私、笹塚さんのこと解ってるつもりだった…思い上がってたよ…」
違和感にその場で気づけなかった。常に冷静かつ慎重な笹塚が、思わず漏らしてしまった一瞬の笑み……。弥子は改めて自分の無力さを痛感していた。
「奴は貴様だからこそ、他より厚い仮面をつけて接していたのだ」

ネウロの腕が、弥子をふわりと包み込む。おおよそ彼を知る全ての人間が予測できないであろう、優しい慰めの言葉と共に。
「…うん…妹さんと重ねてたんだもんね」
「……貴様はもう少し自覚するべきだな」
「……え?」
弥子の言葉に、ネウロは呆れたと言わんばかりの溜め息を吐いた。
あまりにも自分に無頓着な少女は、人間のみならず魔人さえも翻弄していることに、全く気づいていないのだ。
「その無自覚が、時として苛立ちの原因になり……、時として過剰な庇護欲をかきたてる」
「…………」
ネウロの言葉に、無言にならざるを得ない。自分を護るためにわざと自分を遠ざけたのだ、と気づかされたから。
愛されているからこそ「お荷物」になってしまうなんて。
そう思案する弥子を感じ、ネウロは腕に力を込めてぎゅっと抱きしめた。
「……そして、時として癒しをもたらす」
「ネウロ…?」
「全く……実に厄介な存在だな、貴様は」
何処か困ったように笑うネウロ。言葉とは裏腹に、弥子に注ぐその視線には愛おしさが溢れて。
「……それでも好ましいと思う我が輩こそが、最も厄介なのかも知れんな」
弥子のあごに指をかけ、視線を合わせる。二人は柔らかく微笑んで。
そして、静かに優しく、唇を合わせた。
++ fin ++