究極の『謎』を求めていた。それを喰えば永遠に満たされるという。それさえ喰えれば、もうそれ以上『謎』を探す必要もない。そうすれば――。
ずっと求めていたものが急に手に入ると、喜びより驚きの方が大きくなる、とはよく言ったものだ。
まさに今その状況。脳髄の空腹が完全に満たされた。我が輩は歓喜に震える前に、唖然とした。
「じゃあ、もう私はいらないね」
淋しそうな笑顔でヤコが言った。そうなのだ。もう、探偵を演じさせることはない。ヤコを縛り付ける理由がなくなった。ヤコが望んでいた「日常」とやらが、やっとヤコの手に入る。
「…………そう、だな」
何故だか、言い淀んだ。そのためらうような言い種に、我が輩自身が驚いた。
「そう……うん、そうだよね……」
ヤコは俯いて、微かに震えているようだ。
「ようやく貴様は我が輩から解放されるのだな」
「そう……だよね、そうだよ、うん……。私、もう奴隷じゃないんだよね」
今にも泣きそうな目で、それでも無理矢理笑顔を作って。
「ネウロの一番の望みが叶ったんだもんね。もう私、用済みだよね? 無理矢理引きずられたり、虐待されたり、無理矢理……抱かれることも、なくなるんだね」
「ヤ、コ……」
くるり、とヤコは後ろを向いてしまう。皮肉なことに、我が輩に背を向けたがため、その細い体の震えが強調された。我が輩はその背中に手を伸ばそうとして、直前でその手を止めた。
何故今更、躊躇する? ヤコの言うように、無理矢理抱いたことだってあったのに。
「良かったよ! これで普通の生活ができるもん」
震える体は、それでも、声だけは明るくて。
「嬉しい…か?」
「もちろんだよ! これからは、放課後に叶絵とショッピングしたり、買い食いしたり……か…格好いい彼氏だって、見つけちゃ……」
気づけばヤコを抱きしめていた。あまりに頼りない肩を、腰を、自分の腕で雁字搦めにして……。
「な、に……わたし、を…解放するんじゃ…ない、の?」
「ああ……そうだ……」
言葉とは裏腹に、腕はヤコをきつく縛って放さない。
「……私はもう…いらない、って……ねぇ…これも、DVの一環なの? 最後の虐待…なの?」
違う、ととっさに叫びそうになり、ようやく矛盾する行動の意味を自覚した。しかし……。
「……ミジンコが…………」
苛立ちを含んだ呟きに、ヤコの体が反射的に強張った。今まで、如何に我が輩の仕打ちで傷つけたか、その一瞬に全て集約される。
これほどまでに深く、ヤコの中身を抉った我が輩が――
「ねう、ろ……も…ゃ……」
――愛しているなどと、どの口が言えよう?
続く→