芽生えた興味、目覚めた嫉妬

 それは、研究室に配属されて数日後、卒研生達の友好を深めるとか何だかいう名目での食事会でのこと。

「あ、禁煙席でお願いします」

 脳噛ネウロが入った研究室のボス、笹塚教授が店員に言った一言。その場にいる本人以外の全員が驚愕の眼差しを向けた。
「さ、笹塚先生、良いんですか!?」
「店にいる間ずっと我慢できるんですか!?」
 笹塚教授と言えば、学内でも有名なヘビースモーカー。授業中以外で煙草を持っていない姿を見たことがないと言われるくらいだ。
「お前らなー、授業の90分は吸ってねーだろーが」
 あくまでも穏やか、というより低いテンションで反論をする。学生が何を言っても、激昂したことなどなさそうだ。

「笹塚先生は一応、煙草が生物に悪影響だって解ってるんだよ」

 本人以外にもう一人、驚いていない人間がいた。桂木弥子である。笹塚研究室所属の助教。もう何年か同じ場所で研究をして、人物像を把握しているのであろう。

「じゃあなんで笹塚先生吸ってるんすか」
「俺はいーの。長生きする気ないし」

 学生がどうツッこんでいいかイマイチ解らない答えである。確かに、いちいち長生きなんて気にしていたら、試薬すら扱えないだろうけど。

「一応、あんた達も生物だから気を遣ってるんだって。ニコチンとタールの怖さくらい、有機の授業で解るでしょ?」

 理解者、とでもいうのだろうか。桂木弥子はつっけんどんな笹塚の言動をかみ砕いて学生に伝える。

 それを気に入らない男が一人。

「桂木先生は笹塚先生をずいぶん擁護しますね」
 脳噛ネウロである。優等生の笑顔でいるが、内心は笹塚に対しての敵意でいっぱいだった。
 やっかいなことに、それを敏感に察知してしまう笹塚。笑ったかどうかの判別が難しいくらい僅かに口角を上げて。

「脳噛……、お前、俺の研究テーマやるよ」
「笹塚先生のテーマって、キツいって有名なアレですか。もうここで僕に決めてしまうんですか?」
「お前、優秀だからな。あと、やっかいそうだからな」

 直感の鋭い人間がここにも一人。桂木弥子以外にも興味深い人物がそこにいる。もっとも、桂木弥子絡みでしか気にならないのであろうが。

 その興味が一体どんな感情なのか……脳噛ネウロの自分への探求は終わることがない。

++ fin ++




戻るか?