ふうっともう一息吐いて、桂木弥子は脳噛ネウロと向き合った。
「ねぇ……」
「何ですか?」
「今更だけど……なんで、私…なの?」
真っ直ぐに射抜くジャンドゥーヤの眸。あるはずのない魔力が、そこには宿っている。その眼差しを前に、嘘などつけない。ごまかしも利かない。
「……直感」
「え?」
「一目逢ったその日から……、ってやつですかね」
脳噛ネウロもまた、鮮やかなピスタチオの眸を真っ直ぐ桂木弥子へ向けた。
視線が、交わる。
互いに意識し、高鳴る鼓動を自覚する。その空気に耐えかねたのか、桂木弥子はおもむろに視線をはずし、一呼吸置いて、絞り出すように声を発した。
「君が…? それこそ理解に苦しむ……」
「……でも、既にあんなことやこんなこ…」
「言うなあぁぁっ!」
顔を赤くして必死な様子が可愛らしくて、脳噛ネウロはくすくすと笑みを零す。桂木弥子が睨んでいるのを視界に入れつつ、ふっと真面目な顔をした。
「僕を好きにはなれない…ですか?」
「っ……」
「はっきりそうおっしゃってくれたら……これ以上、僕は……」
眉を寄せ、彼なりに自分を抑えているというのが容易に見て取れる表情。それを見て胸が苦しいと感じてしまったら、自分の気持ちなど明白だ。
「『今月末を以て、専攻科修了とする』!」
桂木弥子は唐突に、持っていた花束を脳噛ネウロに押しつけ、若干涙声になりながら、先を続けた。
『形式的な言葉であるが……』
『自分の行動に責任と誠意を持って、これからの人生を歩んでいって欲しい』
「…今日の修了式の言葉。ちゃんと、聞いてた……?」
「僕はもう学生ではない、と」
「ちゃんと、責任…持てる?」
そんなことを、潤んだ上目遣いで言われたら。
「……自制が利かなくなりそうなこと言わないでください」
ぎゅっと強く抱きしめて。
「うん……え?」
「僕、もう学生じゃないんですよ?」
頭を抱え込んで、耳へそっと流し込むように囁いて。
「う、ん……んぅっ!」
かつてないほど情熱的に唇を奪う。
「ふ、あ……はぁ……」
荒い息の桂木弥子を見て、脳噛ネウロはようやく少し余裕を取り戻した。
「先生、『一目惚れはDNAからの合図』ってご存じですか?」
「ふえっ!? あ、ひ、一目惚れ…ぅん、え?」
「DNAが惹かれたんです」
「う、うん……」
「僕と貴女の子供は、大層優秀な個体として生まれることでしょうね」
「!!」
そんな、脳噛ネウロの卑怯なほど輝いている笑顔に抗う手段など持ち得ず、桂木弥子は、苦笑一つで全てを受け止める覚悟を決めた。
++ fin ++