溜め息を吐きながら、吾代は事務所へと向かっていた。上司のご機嫌取りという名目で持っていく、ホールのケーキ。それを彼なりに丁寧に持ち、思いを馳せるは弥子の笑顔。
「俺もヤキが回ったかな……」
自嘲気味に呟く。ただ笑顔が見たい。それだけで行動を起こすほど、吾代の中で弥子の存在が大きくなっていた。
「うわぁぁぁ〜〜!!! ありがとう、吾代さん!!」
事務所に入り弥子にケーキを渡すと、期待通り、最高の笑顔が返ってきた。しかし悲しいかな、弥子は吾代の思惑に全く気づいていないのであった。
「美味しいケーキにあかねちゃん特製紅茶はピッタリだね!!」
壁のおさげが嬉しそうに揺れる。ついでだから、と吾代にも紅茶が出されていた。ソファで向かい合ってお茶を飲む男女。ここだけ見れば微笑ましい光景なのだが。
「……ヤコ」
不機嫌な男が一人。ネウロはトロイに足を投げ出して、二人を見据える。
「何? あ、ネウロも輪に入りたい?」
呑気なことを言う弥子。吾代は内心、それは遠慮してもらいたいと思っていた。しかしそんな彼の思いなど叶うはずもなく。ネウロはゆっくりとソファへと近づき、弥子の隣に座った。
「先生、お顔に生クリームつけて、はしたないですよ」
そう言ってネウロは弥子の口の端に付いていた生クリームをペロリと舐め取った。
「!! ちょっ…ネウロ……」
「どれ、我が輩が喰わせてやろう」
弥子の抗議を無視して、フォークを奪い取り、ケーキを弥子の口へと運ぶ。なんだかんだ言ってもケーキが食べたい弥子は、それにかぷりと食いつく。
「……………………」
可哀想なのは吾代である。想いを寄せる少女が男と戯れている場面を見せつけられているのだから。確かに、弥子の笑顔は見られた。そして今も弥子は笑顔だ。しかし、いくら笑顔でも、その隣が自分でなければ意味がない。
続く→