「フム……あ、笹塚さん! こちらはどうですか?」
「ああ、ここんとこは……弥子ちゃん」
「なんですか?」
「いや……なんか、いつにも増して積極的に動くからさ……いつもは助手に任せてるだろ」
「いやー、たまにはわ、たしががんばろうかなって」
「ふーん……」
笹塚は何かと鋭いから、気づいているかも知れんな……。
数刻前、戯れに魔界能力(どうぐ)でヤコと我が輩の体を入れ替えた。ヤコの体でいろいろしてやろうかなどと思った矢先、『謎』の気配を感じて、現在、入れ替わった体のままで事件現場にいる。
「ネウ…じゃなかった、先生! い、いかがですか?」
「この大根が……」
「ちょ…ぼそっと普通に罵倒しないでよ……」
ヤコと我が輩がぼそぼそ話をするなどいつものことだからいいものの……。これが大根役者……ひいてはヤコは動物ですらない、植物……大根であると。人間は上手いことを言うものだ。
「この『謎』はもう、我が輩……いや、貴様の舌の上だ」
カロリーが低そうとはいえ、喰える状態の『謎』を目前にしてそれを喰うことができない状況が発生するなど……我が輩としたことが迂闊なことをしたものだ。
「いつも助手に任せっきりなのもなんなので、今日は私が説明しますね」
そうして、我が輩の体であるヤコを他の者から死角になるところに追いやって『謎』を解く。今の状態でヤコが周囲に気づかれず食事ができるとはとても思えんからだ。
「いただきますっ…」
なんとかやり過ごして、事務所への帰途へつくところ……一刻も早くこの体を元に戻さねば、とそればかり考えていた。
ところがヤコは、いつも以上に寄り道をして、生ゴミを買いあさっている。我が輩に代わり『謎』を喰ったばかりか、更に別のものを喰おうというのか。
「ふぅ……さて、能力(どうぐ)を解除するか……」
「あっ! 待って待って! まだ、もうちょっとだけこのまま!!」
「その姿のまま、普段の口調でしゃべるな、セミが」
「もうっ……ネウロのためなのに……」
自分の顔でぷくりと頬を膨らませて怒る様子を見るなど……なんと嘆かわしいことだろうか。それをもう少し我慢しろというのか、この奴隷は。
「若菜のたこ焼きでしょ、王美屋のフルーツケーキでしょ、それから……」
我が輩の苛つきをよそに、ヤコは嬉々としてテーブルに先程買い込んだ生ゴミを並べていく。
「ほらっ、ネウロ食べなよ! 今は私の体だから、こういうの食べられるでしょ!」
「…………」
満面の笑みで食事を勧めるヤコ。……我が輩のため、とはこのことだったのか。思わず目を瞠ったであろう我が輩を、ヤコはにこにこと見ていた。
「『謎』の味、不思議だったけど美味しかったよ。でも、お腹いっぱいにはなれなくて……ネウロがいつも私を引きずり回すのが、ちょっと解った」
ヤコはそう言って微笑んだ。そして、だから自分の喰べているものの味も知って欲しい、と。
「フハハ……殊勝な奴隷を持って、我が輩は嬉しいぞ」
確かに、こんな機会はまずないであろう。内心の期待を隠し、せっかくだからと嘯いて、我が輩は目の前の生ゴミを口に運んだ。
++ fin ++