ヤコは我が輩がどんなに拷問をしても泣かない。それなのに、些細な人間関係で悩み、犯人に同調し、泣くのだ。我が輩以外のことで心を動かされていると思うと少々腹が立つ。
「アカネ……何故ヤコは我が輩のすることで泣かないのだ?」
『……散々泣いてきたと思うのですが』
「涙が流れるところは滅多に見ない」
『見たいのですか?』
「…………」
ヤコの涙が見たいか、と言われればそうではない。悲しみに暮れるヤコなど、ましてや悲しませるのが我が輩であるなど、そんなことは望んでいない。
「何故泣いているのだ?」
そういえば、出逢って一言目がこれだったな。あの時、ヤコは泣いていた。
地上に出て、謎の匂いに誘われて。そのまま辿っていったら、泣いているヤコがいた。何故だか、不快な気分になったのだ。あの時はその気分が何なのか、全く解っていなかった。
「貴様は泣くのではなく笑うべきだ」
そう言って、強引に外へ連れ出し、無理矢理探偵役をやらせた。その後、ヤコの家の謎を喰って、それから――……。
そうだ、たこ焼きとやらを食べて幸せそうに笑うヤコを見た。その時、確かに気分が軽くなった。
「……ふっ」
『?』
思わず笑みが零れた。アカネはきょとんとした風におさげを揺らす。
今になれば、その感情が何であったかが解る。目の前の少女の笑顔が欲しかったのだ。全く、なんということだ。我が輩は地上に来てすぐに感情というものを持っていたのだ。我が輩自身が気づかなかっただけで。
ヤコの涙は、いや違うな……ヤコという人間は、なんと絶大な力を持っているのだろう。
だいたい、ヤコは我が輩のことで怒ったり笑ったりするではないか。充分、我が輩に心を動かされているはずだ。
全てを我が輩の手の内に収めたいと思うのは、無謀なことだろうか。
++ fin ++