「うわあっ! ありがとうございます、笹塚さん!」
笹塚が事務所に(というか弥子に)差し入れを持っていくことは、大して珍しいことではない。ネウロはそのたび不機嫌になるが。ただ、今日はちょっと違っていた。
弥子の目の前にあるのは、高さが30cm近くある大きなケーキ……と呼んでいいのか。それは、いくつものシュークリームを重ねてツリー状に仕立て上げているものだった。
「ん……正直処理に困ってたんだよね。したら、等々力が女の子ならきっと喜ぶ、って言ってたからさ」
「さっすが! やっぱ憧れですもんね〜」
弥子は目を一段と輝かせ、とろけるような笑顔を見せる。その頬にいくらかの紅を差して。
「へー…、そうなのか……」
「だってこれ、小さいけど、クロカンブッシュじゃないですか!」
二人のやりとりを、今にも刺し殺しそうな目で見ていたネウロは、おもむろにキーボードに手を伸ばし、クロカンブッシュについて調べ始めた。検索結果を読むにつれ、ネウロの脳が苛立ちで占められていく。
クロカンブッシュとは、ウェディングケーキの一種なのだ。恐らく、将来弥子が本物を見ることは、ネウロと一緒にいる限りないだろうと推測されるもの。
「いつか、私も幸せな結婚とかできたらいいなぁ……なんて」
えへへ、と少し淋しい笑顔で笹塚を見る弥子。笹塚は何も言わず、弥子の頭をくしゃくしゃと撫でた。
そうして、笹塚は仕事へと戻った。ぱたり、と扉が閉まると、途端に静まりかえる事務所。
大好きなケーキを目の前に、弥子の表情は、何処か憂いを帯びていた。はぁ、と溜め息をついては、はっと気づいて首を横に振る。
「……ヤコ」
「うえぇっ!!? な、何?」
突然の呼びかけに動揺してしまう。それがまたネウロの機嫌を損ねて。いつの間にか、ネウロはヤコの背後に立ち、細い首を長い指で絡め取っていた。
続く→