絶対負けない男のノート

 今、ネウロが弥子の家の台所でなにやら作業をしている。なんと弥子に手料理を振る舞うというのだ。

 しかし……。

「ねぇ、ネウロ……その……何でテーブルの上が理科の実験みたいになってるの?」
「む? レシピに忠実に従うためだが」
「目分量とか……」
「我が輩にいい加減なものを作れと?」
「いや、何でもないです……」

 解れば良い、と言ってネウロは電子天秤に薬包紙を乗せ、ゼロ点補正をかけた。そして、材料を乗せては、小数点三桁まできっちり量りとっていく。液体の場合はメスシリンダーで、メニスカスをこれまたきっちり合わせる。ものによってはホールピペットを使うこともあり、「変な方向に凝り性」がこれでもかというくらい溢れている。
 ネウロは大まじめなのだが、弥子の目には、化学の実験をしているように映っていることだろう。とても美味しそうなものができあがる雰囲気ではない。量り取った材料を入れるのにフラスコやシャーレを使わないだけマシかも知れない。

 次々と順序よく作業をしていたネウロの手が、あるところでピタリと止まった。

「…………む」
「どうしたの?」
「ヤコ……この『少々』とは何グラムのことだ?」
「…………は?」

 料理をする上で、ほぼ確実に遭遇するであろう「少々」という量。適当につまんで入れてしまえば良いのだろうが、その「適当」が解らないのだ。これは経験に頼ればいいのだろうか?

「それこそ適当……」
「貴様らはこんなあやふやな処方箋(レシピ)に頼っているというのか」
「いや、頼るも何も……私そんなの見ないし」

 何だか前途多難である。

「チッ、仕方ない……トライアルアンドエラーでいくか」

 ネウロは0.1グラムずつ量って、料理に混ぜては弥子に味見をさせる、を何度か繰り返した。そしてようやく納得がいったところで、すかさずその量をレシピに書き込んだ。

「本来ならば、味見をした分の量を差し引かねばならんだろうが……」
「何か、見てるこっちが疲れるよ……」

 料理をしているだけで食欲がなくなりそう、と弥子は思ってしまった。

 その後もこんな調子で、火加減や温度が一定でないことなどに、ぶつぶつと文句を言いながら作業をしていた。

 ようやく盛りつけを終えて、テーブルに並べている頃、弥子は化学の授業を受けている気分で、うとうとと船をこいでいた。
 しかし、さすがネウロなのか、レシピにこれでもかと忠実に作った結果か、とても美味しそうな匂いが弥子を覚醒させた。

「うわぁぁぁっ!! すごい、美味しそう!! 食べていい?」
「無論だ」
「いただきまーすっ!」

 一口、ぱくりと食べた弥子の顔が幸せそうに緩む。それは、若菜のたこ焼きや王美屋のフルーツケーキに匹敵するほどの幸福感。
「美味しい〜〜!!」
 それを見たネウロは得意げに笑って。

「これで我が輩はいつ夫になっても良いな」

 一足飛びの重大発言をさらっと言って、弥子の喉を詰まらせた。

 後日、トロイの引き出しに「男だって料理くらいできなきゃ夫失格!!」という見出しの雑誌を見つけたとか。

++ fin ++


この料理風景は、常々思っていることを具現化したものです。
ホント、少々は何グラムなのか教えて欲しい。



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