事務所のポストに届いたものを回収して事務所に持っていくのは、いつも弥子の役割である。今日も放課後ダッシュしてビルに向かい、ポストの中身を持って事務所に入る。
「ただいまー」
大量の手紙と、食料の入った大きな袋をテーブルに置いて、ソファに座る。ふぅ、と一息ついて、手紙の仕分けに入る。
・依頼書
・ダイレクトメール
・その他
依頼書はその後ネウロによって、『謎』の気配を感じるものと感じないものとに分けられる。ダイレクトメールはたいがいゴミ箱行きだ。
問題は、その他の手紙。
だいたいが応援文か中傷文なのだが。中には度を超したものもあるわけで。要するに、ラブレターである。
そして、その行き先はほとんどがネウロ。報道などの端々にちらっと映った美青年に、世の女性は虜になっているのだ。
「ネウロ、今日もたくさん来てるよ」
「特に見ることもなかろう。捨てておけ」
「……うん……」
ネウロはパソコンから目を逸らすことなく、弥子に指示を出す。複雑な気持ちを抱えて、弥子は指示通り手紙を捨てる。
それでも、懲りないというかめげないというか、世の女性からの手紙は大量に届く。時にそれらは、明らかに手作りと思われるお菓子だったり、すごく気合いの入った写真だったり、様々だ。冬場は手編みのマフラーなども届いたりする。
しかしネウロは、そのどれにも返事を出すことはなく、全て無碍に捨ててしまうのだ(ただし食料の場合は弥子の腹に始末をさせる)。
「……ねぇ、ネウロ」
「何だ」
「ネウロは、こんなたくさんの女の子の気持ちとか、考えたことないでしょ」
「考えるも何も、理解できんのだ、仕方あるまい」
弥子は胸にズキリと痛みを感じた。恋とか愛とか憧れとか、とにかく自分を好いてくれるというのに、それを全く意に介さないなんて。
「そう、だね……ネウロは、魔人だもんね……」
ぽつり、弥子が呟く。その一言が引き金となり、涙が零れだした。
「……誤解しているようだな」
「え……?」
「見ず知らずの者に熱を上げるという気持ちが理解できん、と言ったのだ」
ネウロはソファに座り、弥子の涙を革手袋の指で拭う。そうして両手で弥子の顔を包み、目尻に軽く口づけた。
「この気持ちは、相手を理解して初めて成り立つのではないのか?」
ネウロは少し困惑したような顔で、弥子を見つめる。その表情に弥子もつられて、困ったように笑った。
「女の子の気持ちはそんなに単純じゃないんだよ」
「フン……女なぞ、貴様一人いれば充分だ」
その言葉にお互いくすくすと笑い、そっと唇を合わせた。
++ fin ++