「おかーさん、できたよ!」
そう言って、画用紙に描かれた絵を私に見せにきた、小さな男の子。私とネウロの、はずかしながらも愛の結晶、というやつ。名前はグリア。我ながら単純だと思うけど、脳細胞の名前からとったのだ。
幼稚園で「お魚の絵を描いてきましょう」と言われて、鯛の尾頭付き(しかも食べかけ)を描いてしまうのは、間違いなく私の子なんだと思わせるに充分だ。
金に近い薄茶色の髪に、栗色の眸。パーツの色は私譲りだ。魔人と人間の間でも濃い色の方が優性遺伝する法則が成り立つらしい。だけど、その顔立ちはまさしくネウロそのもので。近所のお母さん軍団が、成長した姿を想像してはきゃっきゃと騒いでいる。
「あ、おとーさん」
振り向けば、ネウロの姿。
「さすが、貴様の子だな。思考パターンがそっくりだ」
「うっ……ネウロの子でもあるんだからね」
ネウロの言動は結婚してからも相変わらずだ。いや、少し優しくなった、かな? 子供の前限定だけど。流石に子供に虐待はしないようで、内心一番ほっとしている。
ただ、最近は……。
「来い、ヤコ」
ネウロがさりげなく私の腰に腕を回す。すると。
「むぅっ、おかーさん、こっち」
グリアが私の片足にしがみついてくる。
「…………」
「…………」
見えない火花が散る。父親と子供で繰り広げられる、母親争奪戦。相変わらずの独占欲丸出しネウロに、母親に甘えたい盛りのグリア、四歳。でも、決していがみ合っているわけじゃなくて。何だか微笑ましい。
「グリア……ヤコは我が輩の妻だ」
「ぼくのおかーさんだもん」
自分を取り合ってくれるなんて、ちょっと嬉しい。なんて思っちゃ駄目かな? でも、こんな平穏な空間にずっといられたらいいのに。
「……む。ヤコ、『謎』の気配だ」
「はいはい。グリア、お父さんがご飯食べてくるから、いい子で待ってられる?」
「うー……」
「いい子で待ってられたら、お母さん、グリアのこともっと大好きになっちゃうな」
「ほんと? じゃあ、まってる!」
「いい子だねー。じゃあ、行ってくるね」
ネウロが食事をするときの、家でのいつものやりとりだ。流石に、子供を事件現場には連れていけない。
「……ちっ……」
玄関を閉めると、すぐ隣で小さく舌打ちが聞こえる。
「ネウロ……大人げないよ……」
「フン……子供に媚を売りおって」
「もうっ……私が一番好きなのは、いつだってネウロなんだから」
そう言って、ネウロにきゅっとしがみつく。そうすれば、上機嫌で抱きしめ返してくれて。あとはキス一つで仲直り。
脳噛家は今日も平和です。
++ fin ++