「ヤコ」
我が奴隷に手招きをする。笑ってやっているはずだが、ヤコは怪訝そうな顔をして、恐る恐る近づいてきた。
「な、なに……?」
「これに着替えてこい」
有無を言わさず紙袋を押しつけ、給湯室に放り込んだ。
五分後。
「ちょっと……ネウロ、これ……」
「おおヤコよ、貧相な体でもそこそこ見られるようになったではないか!」
ヤコに着せた衣装は、浦安にあるテーマパークでおなじみの「白雪姫」のドレスというものだ。我が輩は我が輩で、そこに登場する王子の格好に着替えた。
「そら、小道具だ」
「……食べても、大丈夫?」
手渡したのは真っ赤な林檎。もちろん毒入りである。もっとも、毒と言っても致死性のものではない。
「死にはしない。さあ、喰え。そしてそこに倒れろ」
「あー、あのシーンがやりたいんだね……」
ヤコは気が乗らないようだが、我が輩の熱意に根負けし、林檎を一口かじって、床にごろんと寝ころんだ。
「おお、なんて貧相な姫なんだ!」
「ちょ、科白違うっ」
芝居がかった口調で言ってやると、案の定ツッコミがきた。鳩尾を軽く抉ってやる。
「貴様はまだ生き返ってはいない」
「ご、ごめ…なさ……」
仕切りなおして、目を閉じて横たわるヤコの上半身を起こしキスをする。
「姫……死んでしまっているなんて……」
抱きしめて、もう一度キスを。ヤコの頭の中では、ここで白雪姫が生き返るらしく、目をうっすらと開けて我が輩を見た。初版グリム童話とは細部がかなり違うが、この際あのネズミに従ってやるとしよう。
続く→