「好きだよ、弥子ちゃん……」
笹塚がヤコを抱きしめ囁いた。ヤコは顔を真っ赤に染めて、困惑していた。しかし、抱きしめる腕を解こうとはせず、笹塚にされるがまま、頬への口づけを受け入れた。
「っ――――……」
ドンッ、と机を拳で思い切り叩いた。アカネがビクッとおさげを振って、壁の中に隠れた。きっと今、我が輩は酷く顔を歪めているのだろう。
数十秒のブランクの後、魔界の凝視虫(イビルフライデー)に意識を戻せば、ヤコはなおも赤い顔で、遠慮がちにはにかんでいた。
床を、何かが滴った。見れば、赤い液体の水溜まり。それは我が輩の手から零れていた。そこでようやく、拳を握りしめる力が強すぎて、手のひらを指が突き破っていることに気がついた。
それほどまでに我を忘れていた。
ヤコは笹塚を受け入れるのか?
あの困惑した顔はしかし、嫌悪というわけではなさそうだった。
何故、あの腕を振り解かない?
ヤコは……我が輩のものだ。我が輩だけのものだ。心も手中に収めた……はずだ。
それは我が輩の思い違いだったのか?
ヤコの本当の心は別にあるのか?
その場合、我が輩はヤコの意志を優先できるか……。
いや、無理矢理にでも我が輩の傍に置く。他の者のところになど断じて行かせん。
ヤコが泣き喚こうとも、手放すつもりは毛頭ない。
――ヤコの泣き顔が頭をよぎった。
ヤコが泣く……。それは本意ではない。しかし、もはやヤコが傍にいない地上生活など考えられん。
ヤコの心はもう笹塚のものか?
――あのはにかんだ顔が浮かぶ。
笹塚と微笑みあうのか?
――花のような、眩しい笑顔を思い出す。
その体を笹塚に捧げるのか?
――腕にすっぽり収まる細い肢体の感覚がよみがえる。
そしてそのうち我が輩を忘れて生きていくのか?
続く→