それはいつもと変わらない午後の事務所。魔人はパソコンに向い、少女は宿題と格闘していた。
「どーも。弥子ちゃんいる?」
ノックと共に開けられた扉の向こう、笹塚刑事が立っていた。
「あれ、どうしたんですか? 笹塚さん」
ぱあっと笑顔になる弥子。低血圧の刑事には眩しいくらい。
「や、これさ、もらい物で悪いけど、弥子ちゃん食うかなって」
「!!! ゴディバのチョコじゃないですか!!! 良いんですかっ!?」
ゴディバ――それは泣く子も黙る高級チョコレートブランドである。
食に精通している弥子が、驚かないわけもなく。その笑顔がいっそう輝く。
「おう、探偵いるか?」
「はいっ!」
そんなタイミングで吾代がやってきた。弥子は満面の笑みで吾代に目を向ける。
「うおっ、なんだオメー、いつになく機嫌がいいな……。ほい、これ」
闇の世界を生きてきた青年にも、やはり眩しいらしい。手にはビニール袋。中身はこれまた大量のチョコレート(ただし、安物)。パチンコの景品だ、とぶっきらぼうに言う。
「こんなに!! わぁ〜、ありがとうございます!!」
この笑顔が見たくて来たと言っても過言ではない二人。そんな二人の間には見えない火花。
(こいつも餌付けか……!!)
その心情には魔人の思いも重なっていたとかいないとか。
「うーん、どれから食べようかなぁ〜。やっぱゴディバ? あーでもでも、後に取っておくっていうのも……」
もらったチョコレートをテーブルに広げて、にこにこ笑う弥子。常人なら胸焼けを起こしそうな量だが、彼女にとっては朝飯前なのだろう。
「ふむ……」
「何、ネウロ?」
デスクチェアから立ち上がり、ゆっくりとソファの弥子に近づく。
「確かゴディバというのは領民の税を軽くする代わりに裸で町を練り歩いた女の名前だったな」
「そーなの?」
「ああ、そうだ。貴様もやってみるか? 我が輩の躾が軽くなるかも知れんぞ?」
「え、本当っ!? ……いやいやいや、裸で練り歩くなんて、食いしん坊探偵の次は裸探偵!?」
ただでさえ、探偵としての功績より食いしん坊のイメージが先行している弥子である。これ以上の奇行は慎みたいところだ。
続く→