その日、魔人はいたくご機嫌だった。事務所の扉と備え付けの冷蔵庫を交互に見ては、そわそわしていた。少女の帰りが待ち遠しくてしょうがない。彼は椅子から立ち上がり、窓の外を見た。程なくして、少女がビルに入っていくのが見えた。
「たっだいまー♪」
扉を開けて、上機嫌の弥子が入ってきた。その手には白い箱。
「えっへっへ〜、ケーキ買ってきちゃった。あかねちゃん、紅茶お願いできる?」
ぴこっと三つ編みが揺れた。それは承諾のサイン。弥子はうきうきと箱を開けて、中のものを取り出した。それは。
「王美屋、今日からの期間限定ストロベリーパイ!!」
うっとりとパイを眺める弥子を後目に、僅かに動揺したネウロとあかね。だが二人(?)は一瞬視線(?)を交わし、それぞれの業務に戻った。
「ん〜っ、あかねちゃんの淹れた紅茶は最高!」
パイを食べ終わり、後味を反芻して、紅茶をすする。その表情は幸せいっぱいといった風。
それに対して、ネウロはあからさまに不機嫌な顔をしている。お腹が満たされて余裕ができたのか、弥子はようやくそんなネウロに気が付いた。
「ネウロ、どうしたの?」
「…………」
ふい、と弥子から視線を逸らす。
「なによぉ……。あ、お腹が減って不機嫌なの? 私が目の前でケーキ食べちゃったから?」
当たらずとも遠からず。そっぽを向いたままのネウロと訳が解らないといった風の弥子を見て、あかねは心配そうにお下げを揺らした。
「……貴様のようなゾウリムシには解らん」
弥子と目を合わせようとしない。戸惑う弥子はあかねに助けを求めた。あかねは二人を交互に見て、冷蔵庫を指した。
「冷蔵庫?」
「っ……アカネ……」
ネウロがあかねを睨むと、あかねは壁の中に引っ込んでしまった。
弥子が冷蔵庫に手をかけたとき、ネウロは弥子の手首を掴んだ。
「な、何なの、ネウロ……」
一瞬驚きながらも、弥子は冷蔵庫を開ける。そこには白い箱。弥子の目に入ったのは――。
続く→