君のためにできること

 事務所が静かだ。何故って、ネウロがソファで寝てるから。いつも聞こえるはずの、キーを叩く音がない。暴言がない。平和なはずなんだけど、何か落ち着かない。

「ネウロ……」

 呼びかけても返事をしない。私はネウロの額に、水で濡らしたタオルを宛てた。気休めにしかならないのだろうけど。

 ネウロが風邪を引くなんて、思ってもみなかった。

 魔人が人間と同じようにウイルスに冒されるなんて。もしかしたら、魔人だからこそ感染するようなウイルスがいるんだろうか。そんなことはどうでもいいか。

 どうにもできない現状が悔しい。医者に診せるわけにもいかず。栄養を摂るといっても、『謎』なんて用意できないし。クスリが効くとも思えない。私はどうすることもできず、結局こうやって安静にさせるしかない。

 ソファくらいしか寝かせられるところはないから、しょうがないんだけど、ソファからネウロの長い足がかなりはみ出ている。普段、その、してるときは、気にしていなかった(と言うか、気にする余裕がなかった)んだけど、窮屈だよね、これ……。安静にできてるのか、不安になってきた。

「ヤコ……」
「ネウロ? 具合どう?」

 目だけこっちを向いて、体はそのまま。きっと動かすのが億劫なんだと思う。具合なんて聞かなくても解るんだけど、こういう時って何を言ったらいいか解らなくて。

「そんな顔をするな。すぐに治る」
 ゆっくりと腕を動かして、私の肩に手を乗せる。そんなに情けない顔してたかな、私。

「ヤコ……」

 弱ってる顔で、上目遣いで、少し困ったような表情で呼ばれて、ドキッとした。こんな顔、未だかつて見たことがない。
「少し、寒い、ようだ……」
「えっ、じゃあ、もっと毛布……あったかな……見てくる」
 すくっと立ち上がったら、急に腕を引っ張られて。
「行くな」
「え……でも……」
「傍を離れるな」
 も、もしかして、甘えられてる……のかな、これ。なんか、嬉しい。でも……。
「でも、寒いんでしょ?」
 もう一度、立ち上がって歩こうとしたら、腕をさっきより強く引かれて、ネウロが寝てる上に乗っかってしまった。
「ネウ……」
 そのまま引き寄せられて、ネウロに掛けてある毛布の中へ引きずり込まれる。

「これでいい」

 添い寝……ですか、これ。いや、抱き枕?
 いつもより、ネウロの体温が高いのが解る。吐息も熱い。
 そして、私の顔も熱くなるのが解る。こんな風に求められるなんて、予想だにしなかった。
 ドキドキしてると、ネウロがふっと笑った。

「この、若干上昇した貴様の体温が、ちょうど良い」

 ぎゅっと私を抱きしめて、ネウロはそのまま眠りについた。私は……寝られるわけないじゃん。

「……ヤコ……」

 寝言で名前呼ばれたら、もう降参するしかない。弱ってるネウロにも勝てないんだな、私。

「……早く良くなってね、ネウロ」

++ fin ++


風邪引くと弱気になりますよね、きっとネウロも。



戻るか?