「ただい…ま……?」
勢いよく事務所の扉を開けた弥子は、目の前の魔人を見て数秒固まった。デスクで、ネウロが、少女漫画を読んでいるのだ。
(ちょ……似合わないことこの上ない!!)
口に出すと怖いので胸中で叫ぶ。弥子はとりあえず扉を閉め、ソファへと移動した。
「ふむ……」
どうやら読み切ったのか、ネウロは小さく呟き、ソファの、弥子の隣に座った。
「な……な、に?」
ネウロの不穏な笑みに表情が強張る弥子。どうせ少女漫画で得たどうでも良い知識を試そうとか思ってるんだろう、と思った。実際その通りであるのだが。
ネウロは弥子を自分に向かせ、目の前で中指をくるりと回し、真剣な表情で言った。
「貴様に魔法をかけてやろう。我が輩を好きになれ」
「!!!!???」
唐突すぎる言葉に、顔を赤らめて口をぱくぱくと動かすしかできない。何を言ってるんだこの魔人は、と。
しかし、そんな弥子をものともせず、ネウロは小さく弥子に口づけた。
「どうだ? 魔法にはかかったか?」
「なななな……何なのよ、突然っ」
「ふむ……言葉が足りんか……」
ネウロは弥子を抱きしめ、さらに耳元で囁いた。
「好きに……なってはくれぬのか?」
甘い甘いテノールの囁き。鼓動があり得ないほど速い。こんな美形に、こんな美声で――いや、気になる男に、こんな甘えた声で囁かれたら、陥落するしかない。
「ね、ネウ……んっ」
再び唇を重ねる。ついばむような口づけから、だんだんと深く、貪るように。もうそれだけで熔けてしまうくらいに。弥子はネウロのスーツをぎゅっと掴んで、甘い波に浚われないように。それがネウロの劣情をそそるものとも気づかずに。
「ヤコ……」
大層愛おしげに呼ぶから、抵抗する意思さえ熔かされてしまったようで。そのままゆっくりソファへと押し倒された。首筋へ落とされる唇。鎖骨を辿る舌。胸元を探る指。甘い吐息が止めどなく漏れる。
続く→