「…さあ、目覚めの時間だ」
そうしてあの日と同じように、あいつは無茶苦茶な角度で唐突に、目の前に現れた。いい加減、公共物をためらいなく破壊するのはどうにかしてもらいたい。
これでまた、私の役目に「やりたい放題やった後のネウロのフォロー」という項目が再追加されたわけだ。
体調もすっかり良くなったようだし、『謎』の気配に上機嫌。きゃっきゃと楽しそうに私をいじめようとする姿は、三年前と何も変わらない。
いや、変わったのかも知れない。細かい装飾が加えられた髪飾りみたいに。
地上の三年が魔界にとってどのくらいなのかは解らないけど。本当に、深呼吸一回分の時間しかなかったのかも知れないけど。
でもネウロは、人間の可能性を信じると共に、自分の可能性だって追っているはずだ。深呼吸一回だけでも、何も得ずに帰ってきたとは思えない。
ふと、ネウロと初めて会ったとき、自分を変種中の変種だと言っていたのを思いだした。それと、ゼラという魔人……いや、魔人全体にはびこる運命論的なものも。
ネウロは、可能性を信じる魔人。
そういう意味でも、変種中の変種だと言えるのかも知れない、と思った。
「…って、痛たたたたっ!!」
「む」
「む、じゃないっ! 再会早々虐待かよ!!」
「せっかくの再会だというのに考え事をしている貴様が悪い」
そんなやりとりをしてるうちに、ネウロは私の髪の一部になっているあかねちゃんをいじりだした。
「ヤコ、アカネをはずせ」
「……は?」
あかねちゃんの特別扱いは健在ってこと? 未だにあかねちゃんにちょっと嫉妬してしまう私はまだまだ進化が足りないな……。
「……やだ」
「つべこべ言うな。とりあえずここにでもつけておけ」
半ば無理矢理にあかねちゃんを私から外して、手荷物の取っ手にくっつけてしまった。しかもあろうことかそれを無造作に床に投げ捨てるように放った。
「なにすんの、もうっ……」
「煩い」
不意打ちのようなキスが襲ってきた。私の抗議を当然のように無視して。
「んっ、ん…ふぁ、ぁ……ぅんん…」
ネウロの胸を叩いてもどうにもならないことはよーく解ってる。だから、それはすぐに諦めて、腕を背中に回してスーツをきゅっと掴んだ。
三年ぶりの、唇が触れあう感覚。少し強引に絡みつく舌の感触。
そして三年ぶりの、抱きしめ合う歓喜と安堵。
……ああ、そうか。少しだけ進化した私には解ってしまった。あかねちゃんを私から外したネウロが。
ネウロは私を――「私」一人を、独り占めしたかったんだ。
探り偵うことを磨いて輝いた私に、照れ隠しの乱暴な振る舞いなんてもう意味がないんだから、ね。
++ fin ++