!【きづく】

 ネウロが治癒の失速(イビルストール)を身につけて、所長椅子に座りっぱなしになってしまった。

 日頃の恨みを晴らすチャンス!

 ……って、誰でも思うよね? 現に私と吾代さんはそう思った。そして実行に移して、見事に二人とも返り討ちにあった。
 でもね、吾代さんが痛い目にあってるのを見て、気が付いてしまった。同じ仕打ちをされたのに、たった一点、吾代さんと私は違っていた。

 ネウロは、ぼろぼろになった私を、わざわざ自分に引き寄せた。

 吾代さんは放っておかれてたのにね。気が付いてしまったら、何かドキドキしてきちゃって、顔がにやける。ああ、もう。
「何をにやついている、ウジ虫が」
「え? えへへ……」
 上機嫌でネウロに近寄った。私きっとだらしない顔をしているんだろうな。

「ねえ、ネウロ。ネウロはここから動かなければ良いんだよね?」
「む? そうだが……また何か企ん……」

 なるべくネウロを動かさないように、私は自分の顔を寄せて、唇を重ねた。

「……珍しく積極的だな」
「だって……ネウロからはできないでしょう?」
「フッ……殊勝な心がけだな。奴隷としての自覚がようやく出てきたか」

 ネウロはニヤリと、でも嬉しそうに笑った。まるでこの行動もネウロの想定内だと言いたげな感じ。私は何だか悔しくて、ネウロの腕に自分の腕を絡ませた。
「奴隷、じゃない…もん……」
 俯いて、拗ねたような声で呟く。ねえ、私は吾代さんとは違うんだよね? 吾代さんに期待するのとは違うことを、私に求めているんでしょう?

「…………ヤコ」

 ネウロは私を呼んだと同時に、腕を解いてしまった。
「ネウ……んっ」
 その手が私の頭を掴み、強引にネウロの顔へ引き寄せられて、唇を奪われた。それはさっき私からしたような軽いものではなくて、深く、舌を絡ませて、濃厚な。ああ、頭がぼーっとしてくる。
「ん……ぅふ……は……」
 ようやく唇が離れた。名残惜しそうに銀糸を引いて。

「解っている。貴様は、我が輩がこの腕に抱きたいと思う唯一の人間だ。貴様の身も心も、全て我が輩のモノだ。貴様も解っているはずだろう?」

 至近距離で見つめられて、そんなこと言われて、心臓が跳ね返る。唇が震えて、上手く言葉が出てこない。

 ネウロへの肯定の意を、出てこない言葉の代わりにキスで表した。

++ fin ++




戻るか?