我々をはめようとしていた、あの胡散臭い笑顔の取引を潰して、これからゆする予定の人間を外へ放り出した。こいつはしばらく放っておいて良いだろう。
厄介なことになったのは我が奴隷である。麻薬を思い切り吸って、とろんとした顔をしている。
「ねーうーろー……あははっ」
バッドトリップにならなかったことは不幸中の幸いか。しかし、この状態ではいかに我が輩といえど、どうすることもできない。自然にクスリが抜けるのを待つしかない。この間のレストランといい、ヤコはクスリに縁があるのか。それはいけない。探偵桂木弥子のイメージはクリーンでなくては。
「ヤコ」
「ネウロぉ〜?」
呼べば応える。正気でない目で、けたけたと笑ってはいるが。
「むぎゅー、ねうろ〜〜」
突然、ヤコが我が輩に抱きついてきた。あまりに唐突な行動で、一瞬思考が停止した。ヤコは時々我が輩の思考を邪魔する。仮にも『謎』を喰う我が輩の思考を。そんな芸当ができるのは今のところヤコ一人だ。
なんとなく、抱きしめ返してみた。単なる思いつきだ。するとヤコは笑顔を見せて。
「ねうろぉ……すき……」
小さく呟いた。「好き」だと? 今まで虐待しかしてこなかった我が輩を? まさか。どうせトリップしていて訳が解らなくなっているだけだろう。
ヤコは我が輩の胸に笑顔で頬をすり寄せてくる。何だ? 胸の奥に暖かいものを感じた。異常な状態だと解っているのに、ヤコがこのままでいればいい、などと考える自分がいる。
「ネウロ……」
うっとりとした眸で我が輩を見つめるヤコ。我が輩は衝動的に、きつく抱きしめ、唇を重ねた。軽く触れるだけにするつもりだった。だが、こみ上げる欲求はヤコを放さないよう、強く吸い付いて、舌を絡ませる。
我が輩は何をしている? 我が輩はどうしてしまった?
自分自身の内に生まれた『謎』は暖かく、蕩けそうなのに、胸の奥に突き刺さるような不思議な感覚で。しかも、それを積極的に受けてみたいなどと思わせる。まるで麻薬のようだ。初めての感覚に、どう対処すべきか解りかねる。
ただ一つ解るのは、「ヤコを放したくない」ということ。それだけだ。
++ fin ++