「フハハハ、複数の男を同時に乗りこなすのは難しいな。このアバズレくずれが」
「…うるさいなぁ」
その言葉の中、僅かに混じっていた嫉妬心に、弥子はその時気づかなかった。どうせいつものからかいだろう、と、(何処に持っていたんだか)塗りたくられた口紅を何も考えずにふき取った。
この12個の中のどれか一つに下剤が入ってる……。弥子は恐る恐るお菓子を一つ手に取り、一口食べた。
「……だい、じょうぶ、かな? もう一口……。ああ、美味しい」
あっという間に一つ食べきってしまった。
「貴様は運がいいな」
その様子を見て、ネウロが言った。
「え? 下剤入りを避けられた……ってこと?」
「うむ、確かに避けていたな、下剤入りの菓子は」
何か引っかかる言い方をするネウロ。下剤入りの菓子“は”……?
「ちょ……ネウロ、下剤の他にも何か仕込んだの!?」
「さあな」
にやにやと憎たらしい笑みを浮かべる。何を食べてしまったのだろうと、弥子の頭は不安でいっぱいになった。
「ところでヤコ……何だか暑くはないか?」
「そう言われれば、なんかあつい、か、な……?」
暑い。いや、違う。熱い。体から熱を発してる感じだ。ぼーっとする。弥子はソファに座り、制服のリボンを少し緩めた。少しクラクラして、目の焦点が定まらない……ところへ、目の前にいきなりネウロの顔が来た。
「ねうろ? なにし……んっ」
言葉が、重ねられた唇によって遮られた。最初は軽く、しかし重ねるごとに深くなるその口づけに、だんだんと意識がネウロへと落ちていく。最後に唇を離したとき、弥子の表情は、もっと口づけを、とねだっているようにも見えた。
「ふむ……なかなかの効き具合ではないか」
「ん……ひあっ!?」
ネウロは弥子の首筋を舌で軽く撫でた。あまりにも唐突な、しかも体験したことのない刺激に、思わず奇声を発してしまった。
「ネウロ、なにす……んんっ」
弥子は抗議をしようとしたが、それもまた唇で塞がれた。熱い舌が絡まると、体の力が抜けてくる。そのまま、ネウロは彼女をソファに押し倒した。
ネウロの手が制服の中に伸びたとき、さすがに意識が戻ってきたか、弥子は待ったをかけた。
「ま、待ってよ、ネウロ……。何で、あの、その手……」
上手く言葉にならない。初めてのことについていけない。その上何だかふわふわする感じ。自分の状況が飲み込めていなかった。
「……なんだ? 我が輩が相手では不満か」
途端に、目の前の顔が不機嫌な色を見せた。そして意外にもあっさりと手を引っ込め、ソファに座り込んだ。
「え? な、なに……?」
「あの二人には、どうせいい顔をするのだろう?」
「あのふた……吾代さんと笹塚さん? え、何言ってるの?」
「……いや、もういい」
ネウロはそう言ってソファから立ち上がった。
「え、あ、ま、待ってよ! …ぶへっ」
弥子はネウロを捕まえようと飛び起きた。勢い余ってネウロの背中に抱きつく格好になってしまった。しかし、ネウロは振り解かず、弥子もまた自主的に離れなかった。そして、一つの推測が彼女の頭をよぎった。
「も……もし、かして……や、き、も……んっ」
素早く振り返ったネウロに、またしても唇を塞がれた。
「黙れ、この豆腐が」
何度も何度も、弥子が言葉を発しようとする度、口づけを繰り返した。暴言は相変わらずなのに、普段からは微塵も想像できないほどの熱と焦りを見せていて。その様子に、弥子は愛おしさのようなものを感じ、ネウロをぎゅっと抱きしめた。
「ヤコ……」
そのまま、ソファに倒れ込んだ。もう弥子は抵抗しなかった。クラクラする頭の中は、ネウロで満たされていた。それでもいいと思った。
「……ところで、お菓子の中に何を入れたの?」
「…………。何でもいいではないか」
入れたのはただのアルコール。実は媚薬入りもあった、とは口が裂けても言うまい。
++ fin ++