「ふぅ……下らない依頼だったな」
「そう、だね……」
弥子は俯いたまま、ただネウロの言葉を肯定するだけだった。
両親を殺された娘さん。真相を知って泣きわめき、どうしようもないところを、助手の仮面を被ったネウロが慰めた。
ただ、それだけのこと。だけど頭の中は嫉妬で埋め尽くされて、そんな自分を醜いと弥子は思う。それでも、止まらない感情というのはあるもので。
「どうしたウジ虫。何を塞ぎ込んでいる?」
ネウロはぐいと強引に弥子の顎を掴んで顔を上げさせる。ふて腐れて、ネウロと目を合わせない弥子。
「だって、ネウロ……あの人のこと、優しく抱きしめて……」
「ああ」
ネウロは何事もないように相づちを打った。
「確かに、取り乱して煩かったので宥めはしたが……それだけだ」
「…………それだけ……本当に?」
「ほう……そうか、妬いているのか、貴様」
図星。弥子はますますムキになって、頬をぷくっと膨らませてそっぽを向いた。
「べっ、別にっ……」
「まあ確かに、顔のパーツは整っていて、化粧も上手く、肉体の外観も貴様のように貧相ではなかったな」
「…………」
「どうせ奴隷にするならあのような女の方が何かと都合が良かったか?」
「!!!」
ネウロの言葉に、弥子は勢いよく振り向いて、苦しくて仕方がない、という表情でネウロを見た。
「……今からでも…そう…する……?」
必死に涙を堪える弥子。自分は所詮、ネウロの傀儡。容姿など、普段は気にしていなくても、比べられたら気にしてしまうのが女というものだ。
「……そんな表情は、よりいっそう貴様を醜くさせるな」
とどめの一言。抑えきれない涙が一筋、すべらかな頬を伝った。
「だが、生憎我が輩は、この地上で大きく嗜好を歪められたらしくてな」
ふわり、と弥子を包む温もり。ネウロはぎゅっと抱きしめて弥子の頭を自分の胸に押しつけ、諭すように耳元で囁いた。
「貴様以外の女にはどうにも食指が動かんのだ」
弾かれるように弥子は顔を上げた。真正面には、いつもの不敵な笑みの魔人。
「どうしてくれる? 我が輩の趣味とやらが、世間から白い目で見られてしまうではないか」
「なっ、何よ! 私そんなに酷いの!?」
「ああ、酷いとも。今こうして抱きしめていても、肉の弾力に乏しいのがよく解る」
「う……」
からかい混じりの言葉に、再び俯いてしまう弥子。
だが、ネウロは。
「事実を言ったまでだ。そして、我が輩はこの感触が気に入っているのだ」
嘘を言わない。こと、弥子に対しては特に。
「うん……」
それが解っているだけに、怒るに怒れない弥子。ただネウロの背中に手を回してぎゅっとスーツを掴むしかないのであった。
++ fin ++