まさか、弥子ちゃんとこの助手が化け物だったとはねぇ……。そういやあの雑用……吾代とか言ったっけ……あの助手を「化物」って呼んでたな。説明の付かないいろいろも含めて、ようやく合点がいった。
父親を亡くして凹んでた弥子ちゃんが、喫茶店でいきなり探偵とか言い出して……元気が出たのなら何より、と思ってたけど。思い返せば、あのときにはもうアイツが隣を陣取っていたんだな。
あのとき……アイツは恐らく、『謎』を食べたかった「だけ」なのだろう。それが結果的に弥子ちゃんの笑顔を取り戻すことに繋がった。
そして今も『謎』を喰うという目的は変わっていないのだろう。そのために、何度も弥子ちゃんが危ない目に遭っている。
最初のうちは、やはり違和感があった。心酔しているはずの「先生」をずいぶんと荒く扱っている、胡散臭い青年だ、と。何となく、二人の立ち位置は逆なのではないか、と感じていた。そして、実際にそれは本当のことだった。
本当のことだったと解った今、新たな違和感が代わりに貼り付いている。
脅されて始まった関係のはずが、互いに深いところで信頼し合っているようにしか見えない。
弥子ちゃんがあんなにも危険に晒されて、Xにまで誘拐されて、それでも、元気でいるのは、眩しい笑顔が翳らないのは、アイツがなんだかんだで弥子ちゃんを大切にしているからだ。
そう気づいてしまったらもう、弥子ちゃんに聞かされた愚痴の数々からアイツの気持ちを想像するのなんて簡単だ。
弥子ちゃんの気持ちなんて、見ていれば解る。隠し切れてないどころかバレバレだ。まあ、その素直さが、あのドSをも惹きつけたのかも知れないが。
…………惹きつけられてるのは、他にもたくさんいるけどな。俺とか。
「あれ、笹塚さん!」
「弥子ちゃん……とネウロ」
「どうも、笹塚刑事。お仕事帰りですか」
正体をばらした後も、ネウロは以前と同じ態度と言葉遣いで接してくる。まあ、急に変わられても面倒だし、特に指摘はしない。
「ああ。弥子ちゃんは今帰るとこ? もう空真っ暗だけど」
「そうなんです、ネウロってばこーんな暗くなるまでこき使うんですよ!」
「お疲れさん。車で送っ…………ああ」
「お気遣いありがとうございます」
ネウロはにっこりと笑うだけで俺の申し出を制した。いや、笑うだけじゃないか。表面上笑っているが、眼光が鋭くて、共闘する者……俺でさえ殺しかねない。
「じゃあ、弥子ちゃん、気をつけて」
――その男の独占欲にね。
口には出さなかった一言は、せめてもの嫌味として。聞こえていようがいまいが、どうせ解ってるんだろう?
「はい、ありがとうございます」
何も知らない弥子ちゃんの笑顔が眩しい。その横の笑顔は眩しいを通り越して、がっつり刺さるな。
二人で寄り添って歩き去っていく。背中に目が付いていてもおかしくないな、と思って見送りを適当なところでやめた。
きっと、何があっても、何が何でも、弥子ちゃんを解放することはないのだろう。それでも……アイツの存在には感謝している。愛おしく思う存在を、俺の手では護ってやれないから。未来の約束どころか、今でさえ安心させてやれないから。
アンタがいて良かったよ、ネウロ。これで俺は、俺の目的に集中できそうだ。
++ fin ++