にゃー
事務所の中から聞こえてきた。入ると、トロイの上で丸まってる子猫が一匹見えた。ふわふわした真っ白の毛が気持ちよさそうにひなたぼっこしてる。
「どこから入ったんだろう? あかねちゃん知ってる?」
と、秘書机の方を見たが、あかねちゃんはおやすみ中みたい。あ、ホワイトボードに「ネウロさんお出かけ」って書いてあった。
そろそろと静かにトロイへ近づいてみる。逃げる気配はなさそう。目の前でじっと見てみたら、子猫もこっちを見つめ返して。あ、眸の色がネウロと一緒だ。綺麗なマラカイトグリーン。
手を伸ばしても逃げないから、捕まえて抱き上げてみた。ここまで抵抗をしない猫も珍しい。
「白のふわふわがマシュマロみたい……」
一瞬、子猫がビクッとしたのは、私の表情の所為だろうか……。
胸に抱き寄せてぎゅーっとしてみた。猫はいいね。こうやっても貧乳とか言わないもんね。思わず頬ずりしてしまう。柔らかい毛が気持ちいい。
ネウロと同じ翠の眸を見ていたら、なんだかうずうずしてきて。軽い気持ちで、子猫にちゅっとキスしてみた。本当は、ネウロにこんな風にしてみたいんだけどなぁ。
「ほう、貴様は我が輩を差し置いて、小動物なんぞに口づけするのか」
突然、後ろからネウロの声が聞こえた。慌てて振り返ると、そこには腕を組んで不機嫌そうにふんぞり返っている魔人。
つかつかと歩いてきて、私の腕から子猫をつまみ上げると、ぽいっと床に投げ捨てた。
「ちょっと! 猫が可哀想でしょ!!」
「何だ、奴隷の分際で、主人より猫を取るのか?」
「またそーゆー……」
「にゃー」
「!?」
…………え、幻聴? 全然可愛くないネウロの地声でにゃーって聞こえたよ?
「む、聞こえなかったか。にゃー、と言ったのだ」
幻聴、じゃ、ない……。え、な、なに? なんなの、ちょっと、新しい嫌がらせ!?
「…………………今のは忘れろ」
私がパニックを起こしていたら、ネウロはそれだけ言い捨てて、所長椅子に座った。くるりとこちらから見えない方を向いてしまって。
「ネウロ……?」
「…………」
もしかして、猫にまで嫉妬ですか、ネウロさん。
「ネウロ」
くるりとネウロの正面へ回って、抱きつく。ぎゅっと抱きしめて、頬をすり寄せた。
「……ごめん、ね?」
返事がない。でも次の瞬間、ネウロはがばっと私を抱きしめて。
「……足りん」
ぼそっと聞こえた。
「え」
「……にゃー」
可愛くない鳴き声がまた聞こえた。……あ、そっか。
――ちゅ
顔を上げて、軽く、唇を合わせた。
「こ、これで、いい?」
「……フン、奴隷にしては上出来だな」
やっといつものネウロになった。ほっと胸をなで下ろす。
「む、そうだヤコ。小動物と口づけなどすると、雑菌が移って、最悪死に至るらしいぞ」
「え、うそっ」
「ちょうどいい。我が輩が消毒してやろう」
ニヤリと笑うその顔は、もう完璧に調子を取り戻したようで。
そうしたらあとはネウロのペース。深く口づけられて、熔かされていく。
++ fin ++