弥子に、高校を中退した友人からはがきが届いた。
「結婚式〜〜!?」
さっさと退学したのはその為だったのか、と弥子は一人思う。もちろん出席だ。早速返信はがきに書き込んで、投函した。
「結婚かぁ……」
小さく呟く。魔人と出逢ってしまったから、魔人に惹かれてしまったから、魔人を愛してしまったから、自分には縁のないものだ、と思う。それでも、チャペルや純白のウエディングドレスに憧れるのは、年頃の女の子なんだから仕方がない。
「そんなわけだから、来月の23日はお休みするね」
ネウロはパソコンから目を離さず、素っ気なく「そうか」とだけ言った。
ヴァージンロードを厳かに歩く友人。ウェディングドレスの所為なのか、化粧の所為なのか、雰囲気の所為なのか、十人並みのはずの彼女が輝いて見える。ドレスを着れば、こんな風に輝けるんだろうか。なんて考えてしまうのも無理はない。それだけ、「花嫁」とういう存在が遠い、とも言える。
祝福される結婚なんて諦めている弥子は、ブーケトスへの参加は消極的だった。だけどそんなときに限って、ブーケが目の前に落ちてくるもので。図らずも「次の花嫁」の権利を得てしまった。
折角だからと弥子はブーケを事務所に飾った。白い花が、無機質な事務所に少しだけ、柔らかさを与える。
「あの子ね、凄く綺麗だった。羨ましいな」
『弥子ちゃんだって、きっと綺麗になれるよ!』
「そうかな……。でもやっぱ、憧れちゃうよね。無理だと解っていても、さ」
「何が無理なのだ?」
弥子とあかねの会話を聞いて(見て)いたネウロが、唐突に口を挟んだ。
「だって、魔人と結婚なん……あっ」
うっかり口を滑らせて、本音を言ってしまった。慌てて手で口を覆うが、意味がない。
「結婚? ……魔人……我が輩、と?」
ネウロは唖然としていた。まさか、魔人の自分と結婚したいと考えてるなど、思いも寄らなかった。その様子に、弥子の方が驚く。
「ネウロ……?」
固まるネウロを、恐る恐る弥子が覗き込む。
次の瞬間、ネウロは弥子を強く抱きしめていた。
「ねっ、ネウロっ!?」
呼びかけに、腕の力で応える。弥子は訳が解らず軽くパニックになっていた。
「ちょ、ネウ…んっ」
腕の力が緩んだ、と思ったら、唇が重ねられた。それは、触れ合ったところから熔けてしまいそうな、熱く甘い口づけ。抵抗の意思さえ呑み込んでいく。
「はぁ……ね、うろ……?」
「ヤコ……」
唇が離れて、お互い見つめ合う。ネウロの、いつになく真剣な眼差しに、弥子は戸惑いを隠せない。
「ヤコ、我が輩は……」
一旦言葉を発してから、言い淀む。弥子は急かすことなく、続きを待った。
「我が輩は……貴様の憧れるようなことはしてやれん。だが……」
ネウロは、自身の腕を翼に――本来の姿に戻した。そしてそのまま弥子を包む。それはまるで極彩色のヴェール。
「どうしてもと言うなら、この羽で、極彩色のドレスを織ってやろう」
「ネウロ……」
「望むなら、神とやらに誓ってもいい。ただし、貴様の生涯を我が輩に捧げるのだぞ?」
ネウロの言葉の意味を理解し、頬を紅く染める弥子。顔を見られないように、ぎゅっとネウロに抱きつく。
「ありがと……嬉しい」
そして、二人だけの誓いのキスを。
++ fin ++