主よ、魔人の望みの悦びを

 激しい律動が止まり、そっと抱きしめられる。その優しい温もりに安堵して、途切れ途切れ、声を出した。
「くらくら、して…ここがどこか、わからなく、なる……」
 ちゃんと口にすれば、ネウロは受け止めてくれる。私を抱きしめる力を強めて、宥めるようにネウロが囁く。

「ここは、『我が輩の腕の中』だ」

「ねうろのうで…?」
「そうだ……。何よりも明確な場所であろう?」
 奏でられるテノールが、私の心に響く。
「何処よりも我が輩を感じられるだろう?」
 その言葉を、ネウロの体を、確認するように縋り付く。ぎゅっと密着したら、涙が零れてしまった。
「あったかぃ……」
「まだ怖いか…?」
 ネウロは私の頭を抱えて、そっと髪を梳いてくれた。
「んん…まだくらくら、するけど……ネウロがいるってわかるから……」
「そうだ……。それでいい、ヤコ」
「んん…ふっ」

 唇を重ねて、抱きしめ合って……ドキドキと安心が同居するなんて、不思議。

「ヤコ、やこ……」
 ネウロが大事そうに抱えてくれる。愛おしそうに名前を呼んでくれる。もう、大丈夫……。

「ヤコ、ここから……」
 ネウロが何かを言おうとしてためらった。でも、もう私には解ってしまう。こんなにも近くにいるんだもの。
 私はくすくすと笑って、先を促す。
「最後まで言って……?」
「ここ、から…………いや、ここに留まらなくていい…」
 また少し言い淀んで、少し目を泳がせて、もう一度目を合わせて、ネウロははっきりと言った。

「ここに、必ず帰ってこい」

 それは、命令だけど命令じゃなくて。
「ここに?」
「そうだ」
 私だけが理解できる、その意味。
「『ネウロの傍』に…?」
「…………ああ」
 愛おしさが溢れて、自然に微笑んだ。

「もちろんだよ……離れないよ。必ず、ネウロの元に帰ってくる」

「……ふっ…それでこそ、我が輩のどれ…いや」
 目を閉じて、確認するように唇を重ねて一瞬で離れる。

「それでこそ、我がヤコだ」

 再びネウロを見たら、そこには極上の笑顔があった。

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