「んっ……ぅ、ふ……」
抱きしめたまま、顔だけこちらへ向かせた。唇を合わせ、丹念に舌を絡ませて味わう。逃げる舌を執拗に追い、唇を離すことを許さない。
「ぅん……はあぁっ……」
解放してやると、ヤコは思い切り空気を吸った。気づけば、十五分もの間、口づけを続けていた。
「はぁ……ネウロ……どうしちゃっぅんんっ……」
抗議の声を無視し、また口づけた。まだ息が整っていなかったのか、ヤコは苦しげに我が輩の胸を叩く。
「んっ…ねうっ……はぁはぁ……ちょっ……」
我が輩はどうしてしまったのだろうか。ヤコを放したくない。その衝動が普段と比較にならないくらい大きい。
きつく抱きしめ、口づけを繰り返す。ヤコの甘い吐息に、我を忘れ夢中になる。
生温い風が吹く。ざわざわと桜の枝が揺れて。それでもなお外界から遮断するように、我が輩とヤコを囲い込む。
ふと、このままヤコを窒息させてしまおうかと考えた。
意識を奪い、この腕の中で永遠に存在させようか。
誰にも盗られないように。誰にも目を向けないように。
「んぅ……ねう、ろ……」
ヤコの声に、はっと我に返った。我が輩は一体何を――。
「ネウロ?」
なるほど、人を狂わせるとはよく言ったものだ。魔人までも狂わせるのか、この桜の木の満開の下というのは。
「……我が輩は、貴様を愛しすぎないよう注意すべきだな……」
これ以上愛したら、本当に今思ったことを実行しかねない。誰よりもヤコを失うことを怖れている。我が輩のこの矛盾した想いなど、ヤコには想像もつくまい。
「何、それ? そんなの嬉しくないよ」
「愛しすぎて……いつか、貴様を壊すかも知れない」
しかしヤコは、一瞬目を見開いた後、ふっと柔らかく微笑んで。
「いいよ、壊しても。ネウロに、そんなに愛されたなら、本望だよ」
そして、ヤコの唇が我が輩のそれと重なる。軽く押し当てるだけの口づけ。一瞬で温もりが去っていった。
「だから……愛することを、やめないで、ね?」
了承の証を示すため、我が輩はさっき去ったばかりの温もりを追いかけ、捕らえて放さなかった。
++ fin ++
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