「桜の花とは脆弱なものだな」
つい先日まで、人を狂わせると言われるほど咲き誇っていた桜が、今、雨風にさらされ、その花びらを惜しげもなく落としている。木の下は薄紅の絨毯……と言えば聞こえは良いが、要は桜の死骸である。
「アンタも風情とか解るようになってきたの?」
心底意外という口調で弥子が尋ねた。情緒も何もあったものじゃない魔界、そこから来た魔人が、地上の、しかも日本の風情を理解しているとは思っていなかった。
「ふむ……貴様を傍に置いておくと、我が輩も進化をするようだな」
素直に弥子の影響であると認めるネウロ。弥子が傍にいることの喜び。進化を望む魔人は、これからも弥子を傍に置くのだろう。
「そっか。じゃあ、私、ネウロの傍にいられて良かった」
それを享受し、喜びを分かち合う。きっと二人は来年も桜を見て、共に儚さを味わうのだろう。
先日の雨が嘘のような快晴のある日。遅い花見をすることにした。
「枝垂れ桜とかなら、今が咲き頃だよね、確か」
「花より団子を地でいく貴様が、よく知っているな」
「まあそりゃ団子も食べるけど……やっぱ、食にも雰囲気が大事なんだよ」
「そうか……食に関しては解らんこともない。……おお、これではミジンコと同レベルになってしまうではないか」
ネウロはわざとらしく困った顔で、弥子の首をきゅっと締める。
「ちょ…苦し……げほげほ」
「まあ良い。屍体と花見というのも悪くない」
「え?」
「桜の木の下には屍体が埋まっているのだろう?」
「誰だっけ、それ……多分嘘だよ」
梶井基次郎である。試験に出るかどうかは解らない。
ともかく、枝垂れ桜が多数あるという公園へと出掛けることになった。
続く→