きみのためなら死ねない

「……フッ……」

 その緊張を解くかのように、ネウロは小さく笑みを零した。弥子はその笑みがなんなのか解らず、困惑する。その様子を見て、ネウロはニヤリと笑って。

「これが、如何に自分勝手な行動かがよく解っただろう」

 そうしてネウロは椅子に深く座り、ふんぞり返ってヤコを見下ろす。
「所詮はその者のエゴに過ぎんのだ。得意げに『相手の為』などと言うくらいなら、正直に『自分の為』の自己満足だと言えばいいものを」
「なっ……」
 複雑な心境で、言葉にならない。ネウロはそんな弥子に近づいて、後ろからそっと抱きしめた。

「安心しろ。我が輩は決して貴様から身を引かん」

 ネウロは甘いキスを何度も弥子へ注いで、大事なものを護るかのように抱きしめる。それだけで弥子は安心して、自分の腕をネウロの背中に回した。しかし、引っかかることが一つ。

「……それは、自分の為、に?」

 恐る恐る尋ねる弥子に、ネウロは即答した。
「無論、その通りだ。だが、そうだな……」
 ネウロは何か思案するように、指を自分の顎に当てた。そして明後日の方に目をやって。

「貴様が我が輩と共にあることを望むなら、結果的に貴様の為になってしまうな」

 ネウロは何処か気に喰わなさそうに言った。その様子に、微笑ましさを通り越して笑いがこみあげる。
「……ぷっ、あはははっ」
「む、何がおかしい」
「回りくどいにも程があるよ。素直に、私の為って言えばいいのに」
「…………我が輩はあくまで我が輩の為に貴様の傍にいるのだ。貴様の幸せなどおまけだ」
 そう言うと、ネウロは弥子から視線を逸らし、不機嫌そうに眉を寄せた。
「ちょ……おまけって、ひど……」
 弥子の軽い非難の声に、ネウロは、いらぬ事を言ってしまった、と後悔の色を見せた。だが、弥子が本気で怒っているわけもなく。
「……でも、その方が嬉しいね」
 そっぽ向いたままのネウロの頬にそっと唇を当てて、そのままネウロに言葉を投げた。

「ネウロが自分の為に私といるなんて、すごく嬉しい。私、ネウロに幸せあげられるんだね。そういうことでしょ?」

 きょとんとした顔で弥子を見れば、幸せそうに笑っている。それにつられて、ネウロも穏やかに微笑んで。

「……なるほど。当人の希望を読み違わなければ、相手の為に何かするのも悪くない、な」


 軽くキスを数回。

 そしてしっかりと抱き合って。

「私も、私の幸せの為に、ネウロの傍に居続けたいな」

「良いだろう。貴様の為に、特別に許可してやる」


 そして二人は目を合わせ、いつまでも笑い合った。

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2008/07/14
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