「んっ…ん……」
桂木教官室が二人の逢瀬の間となってどれくらいだろうか。
今日も脳噛ネウロは桂木弥子へ濃密な口づけを贈る。
「はぁ……ね、脳噛くん、なんで…こんな……」
「……解りません」
戸惑う彼女に、彼はそう答えるしかなかった。自分で自分が解らない。学生である自分が教官となんて、そんなハイリスクな関係を持とうだなんて。そう望むなんて。こんな経験は初めてで。
「解らない? …自分のことなのに?」
「ええ、解らないんです。こんなこと、論理的に考えてあまりに危険だというのに」
「…………」
「僕が組み立てるべき思考からあまりにかけ離れている」
「それは、多分…んっ」
多少の苛立ちを含ませながら、目の前の女の唇を奪う。ハイリターンを望めるとは限らない状況だというのに。
「……僕は、ロジカルシンキングしかできない」
それは、人間社会に溶け込むにあたり、後々問題となるだろう、と彼は考える。しかし、できないものはできないのだ。
「……良いんじゃない、それでも」
「え?」
「ロジカルに考えられるのは良いことだよ。それに……」
「それに?」
「ロジカルシンキングしかできないからこそ、今『論理で解明できないこと』という壁にぶつかることができているでしょう?」
その発想はなかった。彼女はいつも、彼の想定外の言動を取る。
「できる人には、それがどれだけすごいことかが解らないんだよ。君だって、数学とか物理とか、解らないって言ってる人のこと解らないでしょ」
「そう、ですね……」
「だから、君が論理の壁を超えることができたとき、きっと大きな達成感を得ることができる」
それこそまさに論理的思考なのではないか、と脳噛ネウロは考える。桂木弥子が、自分に合わせて論理的に説明をしてくれているのだ、と。
そう結論づけたときに、胸に灯った暖かなモノ。これだ。これが、理解できない焔なのだ。
「卒業までに……私のいないところへ行くまでに」
「貴女のところへ自由に出入りできる間に」
論理の壁を超え、感情を理解すること。
それが学生、脳噛ネウロに与えられた大きな「課題」――。
++ fin ++