「はぁ〜、やっぱり今回も脳噛君がトップなのねぇ」
中間試験の結果を見ながら、桂木弥子は溜め息一つ。
教官室にいると、いやでも先日のことを思い出してしまう。彼の引力に抗えなかった、優しい口づけを。
そんな風に反芻しては我に返る、を繰り返しているところへ、突然電話が鳴った。
がちゃり
「はい、かつら……」
「あ、桂木先生、脳噛です」
「の、脳噛君!? どうしたの、こんな時間に教官室まで……」
「いえ、先生とこんな関係になったからには、やはり電話はするものなのかと」
「こんな…って、ちょ、キスしただけ…」
「ほう……先生はキスだけなら誰としても良い、と」
「そっ、そんなことないよ!」
「じゃあ、僕とは?」
「ぅ……」
鮮やかな誘導尋問。頭の良さだけでなく弁も立つ彼は、きっとこの世界でも上手くやっていくのだろう。
「くすくす……まあ、いいです。今日の用事は違うことですから」
「そ、そうだ……何なの?」
「こういう電話は週何回すればいいものなのですか?」
「…………は?」
「毎日は煩わしいでしょうし、かといって皆無というのも淋しいのでしょう?」
「そりゃ、まあ……」
そんなもの個人のさじ加減……と言いかけて慌てて口を噤む。そんなことを言ったが最後、それは電話しても良い、ということになってしまうと気づいたからだ。
「で、週何回が妥当なのか、と思いまして」
「そんな義務みたいにされても、それはそれで淋しいでしょ」
「む……、生化学よりよほど難しいですね、この問題は」
「それと! 教官室の電話にかけてこられても困るから! 他の学生とか先生とかいたらどうするの」
「じゃあ、プライベイトの連絡先を教えていただけますか?」
「……それも却下」
「淋しくないですか?」
「…………ない、よ」
少し戸惑いながらも、否定の言葉を口にする。建前上、教官と学生であることを忘れてはいけない。
「……残念。じゃあ、今日のところはこれくらいで」
「ちょ、今日のところはって…」
「おやすみなさい、先生」
「あっ…」
がちゃっ
「もう……なんなのよ……」
受話器を置いて頭を抱えながら、しかし、ナンバーディスプレイにしておけばよかった、などと思ってしまった桂木弥子。
実はこの瞬間、「淋しさ」を体感したのは彼女だけではなかったと知るのは、まだまだずっと先のこと――。
++ fin ++