こちらの続きです。
ネウロが事務所に戻った頃、弥子はソファでぐったりとしていた。
「ごめん、ネウロ……もう少し……。さっきアスピリン飲んだから……」
ネウロの苛立ちが伝わってくるものの、元気に反発することもできない。ネウロもネウロで、人間の生理現象なら興味が湧くはずなのに、どうして良いか解らない自分に戸惑っていた。
――力加減を誤ってはいけない。
魔人の力を考えれば、人間の体のなんともろいことか。普段より明らかに弱っている弥子を前に、どの程度の力で接すればいいのかと手をこまねいているのだ。
弥子の代わりなど、何処にもいないのだから。
散々考えた挙げ句、できることといえばふわりと毛布を掛けてやるくらい。随分と優しい体になったものだ、と思っていたが、まさか心までこんなに優しくなるなど、本人は非常に不本意な様子だ。
「ありがと……」
小さく弱々しい感謝の声が耳に入った。たったそれだけで言い知れない暖かなものが胸に灯る。
自分の変化に対する動揺を隠し、そっぽを向いてトロイへと向かおうとしたところを、弥子の指がスーツの裾を掴んで制した。
「ね……ここに、いて……?」
上目遣いの潤んだ眸、遠慮がちなおねだり、庇護欲を掻き立てる弱った姿。
ネウロはその場にすとんと座り込み、差し出された弥子の手に自分の指を絡ませて軽く握った。
そうしてやったとき、弥子はふにゃりと微笑んだ。その表情は「安堵」と言うものか。
――どう足掻いても敵わない気がする。
ネウロは弥子に気づかれぬよう、そっと溜息を吐いた。
++ fin ++