「はぁっ…はぁ……」
真夜中の雑居ビル、エレベータも止まって、一段飛びで階段を駆け上がる少女。
パジャマにサンダル、明らかに慌てて家を飛び出してきたといった格好で。
「ネウロ!!!」
バン、と勢いよく事務所の扉を開け、そこにいるはずの魔人の名を呼ぶ。
しかしその声が響いただけで、部屋の中は静寂が保たれていた。
魔人がいない。
ソファの上にも、天井にも、彼の姿は何処にもなくて。
月明かりに照らされているトロイが不気味で、余計に不安を煽る。
少女は夢を見たのだ。
魔人が、突然いなくなってしまう夢を。
「ネウロ…ネウロ、何処!? ネウロ!!」
涙声で叫ぶ少女。
その取り乱す様は尋常ではない。
「やだ、ネウロ……ネウロぉっ!」
その場にへたり込み、泣き叫ぶ。
「ヤコ!!!」
突然、自分を呼ぶ声が聞こえたと思ったら、次の瞬間、体がぬくもりに包まれた。
魔人が少女を、優しく扱う余裕もないといったように思い切り抱きしめていたのだ。
「ネウロ!!」
「ヤコ……」
互いの存在を確認するように、ぎゅっとしがみつき、何度も唇を合わせる。
「……貴様がいなくなる夢を見た」
「え?」
「我が輩の隣に、いないのだ……何処にも、貴様が」
「……もしかして」
「貴様が阿呆面で眠っているところでも見れば落ち着くかと思ったが……何故、今日に限って部屋でおとなしくしとらんのだ……」
魔人はずっと少女を抱きしめたまま、優しい口調で少女に文句を言う。
それを聞いた少女はくすりと笑って。
「私も、同じ……夢、見た」
「見事にすれ違ったわけか……」
「はは、変なとこでシンクロしちゃったんだね」
その夜、二人は狭いソファで寄り添って、ようやく安眠することができたようだ。
++ fin ++