学生修了、関係進級?

注:学園パラレルです。
弥子→生化学の助教;ネウロ→理系学校の学生
注2:アイナ様とのコラボです。
注3:いきなり修了式ですが、今後間を埋めていきますのでご了承ください。


 専攻科の修了式なんて、何ともあっさりしているものだ。教官への挨拶巡りもあらかた済ませ、最後に自分の研究室へと向かった。

 がらんとした研究室。私物はほとんど片づけが済んで、後はネームプレートなどをはがすだけだ。
 ふと桂木教官室に明かりがついてることを目にして近づけば、中では桂木弥子が花束を抱きしめて泣いていた。



「おや、何泣いてるんですか、先生?」
「あ、脳噛く……いや、なんでもないよ」
「ああ、僕が卒業してしまって淋しくなりますからね」
「うっ……嬉し泣きだからっ、これ!」
「素直じゃないですね」
「素直だよっ! ホント、軽々最難関の大学院に進学決めちゃうし……私の肩の荷もようやく下りるんだからね」

 少々大げさに溜め息を吐く桂木弥子。脳噛ネウロとの普段通りのやりとりでかえって気持ちが落ち着いてしまって、脳噛ネウロ本人は気に食わないようだ。

 すっ…と表情を消して、くるりと振り向いて扉の方へ向かう。
「の、脳噛、くん…?」
「え? 僕がお荷物だったのでしょう? なら、これ以上先生を煩わせるわけにはいきませんから」
 感情を乗せない声。この学校での最後の日だというのに、そんな態度は悲しすぎる。桂木弥子は慌てて立ち上がり、彼の服の裾を掴んだ。
「そっ、そんな、お荷物なんて……」
「僕の相手をするのが嫌なんじゃないんですか?」

「嫌じゃない! …………あ」

 とっさに叫んでしまって数秒、彼女は自分の発言を自覚して固まった。
 全分子の運動が止まったかのような沈黙。それを破ったのは脳噛ネウロの方だった。
「……ぷっ、くくくっ、くく……」
「なっ、なによぅ……」
 吹き出して止まらない笑い声。彼のこんな声を聞けるのは未だ彼女以外にいない。
「いいえ、実に好ましいことです」
 緩やかな空気が流れる。この、桂木弥子雰囲気下の小さな部屋を、脳噛ネウロは離れがたい思う程気に入っていた。

「じゃあ、目の前にいるのは枯草菌だと思えばいい」
「はっ?」
「貴女の大好きな納豆を、作りだす存在ですよ」

「〜〜〜っ……もう…結局君はずっとそういう子なんだね」
 視線を逸らして困った顔の目尻にうっすらと涙。それを、脳噛ネウロのすらっと長い指が、とても自然な動きで拭う。
「子供なんですよ、僕」
「うそつけっ」
「本当ですよ。小学生だと言われても仕方ない」
「いやいやいや、こんな小学生ありえな……」

「つい、貴女をいじめてしまうんですから」

 囁いて、さっき指を滑らせた目尻に軽く口づけた。
「…っ」
 小学生男子がついいじめてしまう対象。そんなの、これ以上言わせなくても解ってしまう。
 真っ赤な顔の桂木弥子を見て満足そうに微笑む脳噛ネウロ。さらに口の端をつり上げて。
「さて、僕はここを去るわけですが……同じ分野の狭い世界、どれほど密な交流があるか、それは貴女の方が解っているでしょう」
 学会・共同研究・論文その他……同じ分野でないと解らない、同じ分野だからこそ理解し合える、そんな関係。

「逃げられない、のね……」

 彼女の本日最大の溜め息をよそに、逃がしません、と彼はにっこり笑った。

++ fin ++




戻るか?