「やめるんだ! 憎しみからは、何も生まれない!」
ネウロと弥子がソファで寄り添い、珍しく二人でTVを見ている。
ありがちなサスペンスドラマの科白が聞こえてくる。
今、映し出されているのは崖の上。
つまり、今がクライマックスと見て間違いない。
「フン……くだらんな」
「そう?」
「特にこの男の科白が実に陳腐で、退屈だ」
「え、犯人説得の重要な科白じゃん……」
「本当に『憎しみ』が何も生み出さないというなら、人間の感情などに価値を見出すことができんな」
「……あ! そっか……『憎しみ』から『謎』が生まれることもあるもんね」
「フム、貴様も解るようになってきたではないか」
「ふふ、もうどれだけアンタと一緒にいると思ってんの」
「そうだったな。しかし、それだけではないぞ」
「え……?」
「『憎しみ』は『愛』とかいうものと表裏一体なのだろう? 『憎しみ』が何も生み出さないなら、『愛』もまた何も生み出さないということになってしまうではないか」
「…………じゃあ……『愛』、は…無意味な、感情?」
「そうは言ってないだろう。先程のは、背理法のようなものだ」
「はい、り……え?」
「おお、スマン。豆腐頭には難解だったか」
「はいはい、どうせ豆腐ですよ」
「そう拗ねるな、ヤコ。実際に『憎しみ』から『謎』が生まれるのだぞ?」
「だから……?」
「我が輩の『愛』も、貴様に何かもたらすのだろうな」
「…!!」
そう言ってネウロがニヤリと笑う。
弥子の顔は一瞬で朱に染まった。
もはやドラマの結末など、どうでも良いらしい。
++ fin ++
「背理法」とは数学などで用いられる証明方法の一種です。
A=Bであることを証明する為に、まずA≠Bと仮定します。
そして、その仮定が成り立たないことを述べ、結論としてA=Bに持っていくというものです。