この感情の暴走を、誰も止められなかった。誰もその術を知らなかった。
私は今、あかねちゃんとなって事務所の壁にいる。あかねちゃんと合体していた時間が長すぎて、体と髪の毛の関係が逆転してしまったのだ。
あかねちゃんは、私の体でそれはそれは優秀な探偵を演じている。もともと頭が良かったあかねちゃんだもの、当然といえば当然か。
ネウロは、こんな姿になった私をからかって構ってはくれるけど、元に戻そうとはしてくれなかった。
私はもう、要らないのかも知れない。
ヤコとアカネの器が入れ替わって、我が輩は一つの可能性を考えていた。ヤコが、魔界電池を身につけてこのまま異形の姿でいれば、人間の寿命を超えて生きられるのではないか、と。我が輩と共に悠久の時を過ごしていけるのではないか、と。
あまりにも危険で、あまりにも愚かな考えだった。
助手さんに恋にも近い憧れを抱いていた。私をこの世に呼び戻してくれた人。探偵さんを愛していることなど百も承知だった。探偵さんだって、私を良くしてくれたし、私だって探偵さんが好きだった。
だけど、探偵さんの体の主人格が私になって、欲が出た。恐ろしいことを考えてしまった。この姿なら、私も助手さんに愛してもらえるんじゃないかって。
なんて卑怯。なんて恩知らず。なんて……取り返しのつかないことを。
私の姿のあかねちゃんが、ネウロの傍にいる。ネウロの体に触れる。
ネウロは「ヤコ」と呼びながら、あかねちゃんに触れる。私の体だけど、あれは私じゃない。私じゃない体にネウロが触れる。
こんなの、見たくないのに。聞きたくないのに。壁に縫いつけられたままの私は、その場から立ち去ることすら許されない。
……もう、いいや。もう――…。
この姿で触れていても、助手さんは一度も私の名を呼ばない。必ず呼ぶのは探偵さんの名前。あくまで、助手さんが愛しているのは探偵さん一人……。
こんな結末を望んでいたわけじゃない。解ってはいたのに。私がこうしていることが、二人共を苛ませているのだと。
「ヤ、コ……」
どうしてすぐに戻そうとしなかったのか。我が輩の勝手でどれほどヤコを傷つけたのか。何故もっと人間の心を解ろうとしなかったのか。
ヤコの存在は、我が輩の中でこんなにも大きくなっていた。失えば、我が輩の中身の大半を空にしてしまう程に。
この魔力が尽きてもいい。壁から垂れる髪に、全ての力を注ぐ――。

その眸はマラカイトのように…