善悪リバーシブル

 からかうような声を聞かされて、ますます体が熱を帯びて。

「そら、欲しいものをくれてやる」
「あああっっ!!!」

 指の入ったところから下着をずらされて、ネウロの欲望が私を満たす。

「ああっ、あっ、あ!!」

 激しい律動……私もネウロも、なんだかいつもより性急に求め合っているみたい。

「はや、いよっ…ネウロっ……どーぶつ、みた……ああっ」
「ヤコっ……」
「あ、あっ、ネウ……」
「これ、が……人間…動物の、三大欲求、のひと、つ……性欲、だな」
「え…な、に……」

 突き上げられる快感の中、どうにかネウロの言葉を拾う。

「はっ……栄養補給休息…そして、生殖……我々が、生きるために…必要、と、する……」
「ん、あ……そ、だ…ね……」
「それ、は……生命の維持…ひいては、種の維持…の、ため……」
「う、ん……あ、あ……何、を……」

 与えられる快楽に支配されそうになりながらも、私は一所懸命、ネウロの言うことを理解しようと努めた。

「だが……人間、だけが……感情や、文化と、いった、もの…を…知った……」
「あ、はぁ……ぶ、んか……?」

 ネウロの声も、途切れ途切れで……互いに必死なのだと解る。

「今この、行為すら……ただ、生きるために、なら…必須では、ない」

 ああ、そうだ……その通りだ。
 ただ、種を維持するだけなら……子供を作る目的もなくこんなこと、する必要なんかない……。

「あ…んっ……じゃ、あ…殺す、こと、あ…も……ひと、は……」
「そう、だ……人間、は…三大欲求以外の、欲も…持っている……から」

 人間が、人間として……「人が生きていく」ということは、ただエネルギーを蓄えて放出するという「生命維持」だけというわけではない。
 文化的な生き方三大欲求以外の欲複雑な感情……。

「そ、か……そう、だね…あっ……」

 嫌いな虫を殺すのは、恐怖を取り除くため。
 過度に動植物を殺すのは、需要に必ず応えられるようにするため。
 そして……殺人は、それを犯した彼らにとっての目的を満たすため……。それが宗教にしろ、怨恨にしろ、快楽にしろ……何であれ、それは間違いなく、彼らが「生きていく」ために必要なことなのだ。例えそれが世間の物差し的に悪いことだったとしても。

「あ、あ……ネウ…も……」
「ああ……っ」

 こんな思考を巡らせていても、限界は、近づいてくる。本能が理性を凌駕する。

 ネウロは――人間が生み出す『謎』を欲する魔人は――誰よりも、人間の価値を、知ってる。人間の私より、よっぽど……。

 ああ、だから……今、いつも以上に……。

「ネウロ…わかっ……あ、あ、あ、やぁっ! あああっ!!」
「――っ!!」

 互いにしがみついて、絶頂を迎える。
 意識を手放す間際、満足そうなネウロの笑みが見えた。

 それはこの行為が、愛情を示し、確認する……「ただ生きていく」ためだけではない、「私達が生きていく」ために必要なことだから――。

++ fin ++

←戻る

「人を殺してはいけません」とはよく言われますが、「何故?」と聞かれると答えに詰まる人も多いのではないのでしょうか。
「そういう決まりなの」と言われても、イマイチ納得できない人も少なからずいると思います。
実際、殺しによって心の安寧を取り戻すという人も存在するでしょう。
もしかしたら案外、無駄な殺しというのは少ないかも知れません。
善悪の定義を言い出すとキリがないですが、そんなのは人によるってことですね。



戻るか?